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秋風に吹かれながら【怪談】

郊外のアパートに暮らす大学院生が、隣人の音大生の奏でる音楽により不思議な体験をした話です。

(本話の分量は、文庫本換算4ページ程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:徒歩で帰宅|秋風に吹かれながら【怪談】


俺(三田辰・23歳・大学院生)は、駅舎を出た。

バイトを終えた帰り道で、時刻はもう0時を回ろうとしていた。

空気はそれほど冷たくないけど、風が吹くと寒いと感じさせる。

じめじめに苦しんだ夏に比べると、カラッとして良いけど、これ以上季節が進むなら、乾燥を感じるように思う。

秋も終盤かもしれない。


多摩地方にはいくつか都市が有るが、この駅は、そんな都市の数駅隣。

俺の暮らすアパートは、ここからバスで10分程のところに有る。農村優勢に、住宅の混ざった場所だ。


駅から順に、駅前繁華街、住宅街、俺の暮らす農村優勢の住宅街と広がっている。


俺は、バス停へと、駅前繁華街を歩く。

駅周辺繁華街には、スーパーや薬局、居酒屋、塾、中小企業のオフィス等々大抵のものは揃っている。

ただし、都市部に比べると、繁華街の面積は狭い上に、建物は古くて小さいのが基本。「場末」ということばの似合う居酒屋も多い。今、歩きながら、そんな居酒屋の並ぶ、細い路地を横目に見る。薄暗い路地に、玄関の灯りを消した古い小さな居酒屋が並ぶのは、多少不気味である。



繁華街を抜けて、バス停にたどり着いた。この時刻だと、待ち時間も有る。

明日は学校もバイトも休みだし、時々は適度に疲れる程度に有酸素運動をすると、頭もスッキリするように思う。

俺はバスには乗らず、歩くことにした。



繁華街を抜けると、都心と多摩地方をつなぐ四車線の大通り。深夜だが、交通量は有る。

大通りを横切って、大通りと交差する二車線の道路に入る。この道路は、住宅街の真っただ中を通って後に、田園地帯やさらにその先に有る山々へ通じる。


しばらく、住宅が左右に並ぶ通りを歩いた。住宅の後ろにもまた、住宅がぎっしり並ぶ。


さらに歩いていると、住宅は疎らとなって、田畑が混ざる。



さらに歩いていると、住宅よりも、田畑が目立つようになった。

住宅から漏れる灯りや街灯等人工の灯りより、満月や星々の明かりが目立つ。

ビルや住宅がそびえるよりも、果樹園の木々がそびえるのが目立つ。

アスファルトは減り、田畑が増える。


田園地帯のところどころに、丘が有る。俺の暮らすアパートは、そんな丘の一つに有る。

今、一つの丘を横切る。どの丘も大抵、木々を茂らせている。



その時。ドッと秋風が吹いた。

涼しく穏やかな世界の中で、一線を画すような強い秋風が、正面から後ろへ吹いた。

道路わきの木々や果樹園の木々、丘の木々を、ゴトゴト揺らす。葉を、ザワザワ言わす。枝の葉は、散らされて吹雪のように舞う。

道路散らばっていた枯れ葉は、カラカラ舞い上がる。道路は、車の通り道ではなくて、枯れ葉のための通り道となる。

俺は、寒さすら感じながら、防御のために目を細めた。薄目に、枯れ葉の舞う夜空を、見上げた。

紺色の夜空を背景に、黒いシルエットとなった枯れ葉は、金色の月に照らし出された時だけ茶色に変わる。

しばらくして、風は収まる。枯れ葉は、穏やかな雪のように、ひらひらと落ちてきた。


俺はまた、歩きはじめる。


第二章:アパートから聞こえる音楽|秋風に吹かれながら【怪談】


やがて、アパートの有る丘が見えて来た。歩いている道路の先で、隣接するように迫っている。



その時。また秋風がドッと吹いた。

冷たい風に、先程同様、枯れ葉たちは舞った。

ただ、今度の風は長い。

そのためか、先程以上に、枯れ葉を舞い上がらせている。やがて、一方向の風によってか、葉は川のような流れを空中に描く。

流れを目で追うと、アパートの有る丘の上空付近。そこで、渦を描きながら丘へ降る。


やがて、風が収まる。

妙な風も吹くもんだと思いながら歩いて、アパートの敷地へたどり着いた。



その時。

かすかだが、壁に隔てられているような響きで、音楽が流れるのを感じた。また、楽器はバイオリンだ。

最近アパートに引っ越して来た者によるものだ。何駅か隣に音大も有るので、そこに通っているではないかと思っている。


俺は、音楽を聴きながら、敷地内を部屋へと歩く。

前にも演奏していた音楽だ。ただ、曲名は知らない(俺はヴァイオリン音楽にそんなに明るくない)。

印象だけど、優しくて懐かしい音楽だ。


第三章:怪音楽は記憶を呼び起こす?|秋風に吹かれながら【怪談】


心地よいまでに、耳に自然と流れ込んでくるその音楽は、10年以上前の古い記憶たちを呼びおこすようだ。



悔しい思いをした記憶も、楽しい記憶も、さまざま有る。

だけど、なだめられるように、後悔も喜びも感じない。

俺に語りかけてくるようだ「後悔する記憶も喜ぶべき記憶も、今のお前を見守っているけれど、お前は記憶たちに気を遣わなくていい、感情を沸かせるエネルギーなんて使わなくていいんだ」といった感じだ。

そのためか、思い出に素直になれるように思う。



俺は今、10年前の中学の部活のことを思い出した。あと一点に泣いた、県予選だ。

いや。その世界にいた。

俺は今、あの県予選のグラウンド、バッターボックスに立っている。

相手投手は、俺に投球する。俺は、思いっきりスイングした。



その瞬間。

俺は、バランスを崩して転倒した。

仰向けに転がる俺の正面には、秋の夜空が広がっている。


あれ?

確かに、俺はグラウンドに立っていたのだけど…。

自分の見える世界がコロコロと変わったようで、不思議な気分だった。


第四章:受け継がれる音楽?|秋風に吹かれながら【怪談】


このよなことは、今日だけではない。

以前も、音大生の奏でる音楽に耳を傾けている時に、過去の世界に居た。

あの音大生の奏でる音楽は、脳に妙な作用を与えているのだろうか?

俺は立ち上がって、土を払った。



音楽は、まだ流れている。

俺は音楽に集中しないように、自室へと向かう。聴き入ると、先程のように現実離れしていまうだろう。



自室へ向かいつつ、ふと、音大生の部屋を覗こうと思った。音楽が聴こえる方向からして、1Fである。

どのような者が音楽を奏でているのだろう?カーテンが開いていれば、表の庭から見られる。



表の庭に寄ると、一室に、20歳くらいの男子がバイオリンを奏でているのを見通せた。

優しく懐かしい音楽からは想像をできないくらいに、男子の息は上がっていて汗も光る。

その背後には、古い鎧が有った。何やら一瞬、武者が涙を流している姿も見えた気もした。


その時。秋風がドッと吹いた。

アパートの背後で、紺色の夜空をバックに大きな黒いシルエットとなっている丘の木々から、枯れ葉が舞った。

音大生の音楽に対して、静かな歓声を送っているようだった。


次に大学に登校した時。それなりに仲のよい稲岡先生に、例の怪奇音楽のことやそれとは似つかわしくない激しく演奏する音大生のことを話した。

稲岡先生は、「俺が、大学時代に、多摩地方の田園地帯のアパートで聴いたことが有る音楽と関係有るかもしれない。俺の勝手な想像だが、その音楽は、先祖や元パトロンを誇るものではないかと思う」と言う。

さらに、研究者らしく、感傷はそこそこに、妙な仮定を述べる。

「ところで、気持ちを穏やかにする優しい音楽を、なぜ荒ぶる気持ちで演奏する?

俺の聴いた音楽と三田君の聴いた音楽が仮に同じだとして、また俺の想像が正しいとして。

音楽の演奏を止めると、過去に嫌な思いをした先祖たちの幽霊は穏やかでなくなるのか?現代を生きる子孫たちが、先祖のために復讐しようとする心でも起こるのか?

まあ、オカルトというかSFというか、想像に過ぎないけどね」。

音大生の鬼気迫る様子や一瞬見えたと思った鎧武者を思い出すと、稲岡先生の言わんとすることも、わからないでもない。

それにしても、稲岡先生は、オカルト染みた想像をスラスラと述べた。日頃から、そんな想像を、しているのではないか?


以上「秋風に吹かれながら【怪談】」。



※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

※本ブログの記事は全て著作権によって保護されておりますことへのご理解をお願い申し上げます。


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