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或る旅館で見た夢【怖い話・短編】4-4

(従業員に言われて驚いたこと。「或る旅館で見た夢【怖い話・短編】4-3」の続き。)



その後も、少し寝ては耳元で声が響いたように感じて、目が覚める。これの繰り返しだった。

何度目だろう、朝日を感じた。スマホの時刻を見ると、朝食に合わせてセットしたアラームの15分程前。もう起きよう。何度も目が覚めたせいだろう、疲れはすっきりせず、眠たい。隣の部屋と隔てる壁を見やるが、話し声はしない。

俺の認識では、隣の部屋の客をうるさいとは思わない。でも無意識には話し声に刺激されていたのかもしれない。そうだとすると、今日もAさんはこの旅館に宿泊するので、困る。一応、従業員さんに言っておこう。

布団から出て身支度をした辺りで、朝食が部屋に運ばれて来た。俺は、食事を運んできた従業員さんに、小心者のためクレームだと解釈されないようやんわり、隣の客が多少うるさかったと伝えた。

その時の従業員さんの反応は、忘れられない。

「お隣ですか?…」と言った従業員さんは少し戸惑い、「今宿泊をされておられる方は、お客様お一人でございますけど…」と。それから言いつくろうように、「お外で、騒ぎになられる方も時々おられますからわたくしどもでも注意します」と言った。

俺は、恐怖が湧き上がりかけたが強引に抑えるように思考は真っ白になった。真っ白になりつつ、昨日のことは眠気といった静まろうとする神経作用と旅行の楽しさ等といった高揚する神経作用という相反する神経作用が混在したことによる錯覚のようなものだったのではないか、つまりは全て夢だったのではないかと、とっさに強引に結論付けた。



旅行から帰宅して後、何日も経つものの、俺自身にも周囲にも、特に困ったことはない。旅先での、ちょっとした思い出と思っておくことにした。


以上「或る旅館で見た夢【怖い話・短編】」。



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