fc2ブログ

怪奇話・怪談・怖い話等

夢と現の間にて【怪談・短編】

(本話の分量は、文庫本換算3ページ程です。)



大学の同窓会の帰りのこと、俺(葦笛明・32歳・精神神経科医)は友人の小田と二人で、府中駅南口の暗い路地に有る喫茶店にてきつめのウイスキーをゆっくりと飲んでいた。

小田は「留年していた葦笛も、ちゃんと医者になっていて安心したけど、精神神経科医だなんて何かの縁だ」と言ってグラスを口に付けてから、またしゃべり出す「相談じゃなくて他愛無い話だから診察料は取らないでくれ」。

俺は適当に頷きながら先を促す。

「大学時代に一人旅をした時のことだ。随分前のことだから、検証もできないんだけど」小田はそう言ってから、その時のことをしゃべる。(準備していたのだろう、ストーリーのように展開がきちんとしていて表現も豊かだ。また、天井を見つめたり、腕組みしたり、冗談めいたことを言って俺に笑いかけたり、間もしっかりしている。)








静まった深夜-大学時代の旅行|夢と現の間にて【怪談・短編】


俺(小田)は、冬休みを利用して、東北の田舎へと一人旅に来ていた。昼間は自然溢れる観光スポットを歩いて、夕方にこの高級旅館へ。

部屋の時計は、深夜の1時半。重たい目をシパシパしつつ、歯を磨く。TVの音も耳に入るだけであって意味を得ない。

ちょっとした憧れから奮発してこの高級旅館に宿泊したのだが、改めて部屋を見回すに、やはりビジネスホテルとは違う。落ち着いた色合いの畳、有名作家の手によるのだろうか?重みと迫力ある木彫りの熊、穏やかなる湖か池かに船を浮かべて釣りする人を描いた水墨画、畳エリア有りリクライニング有る窓際エリア有り10人で宿泊しても狭いと感じないだろう広さ…。

やっとの思いで歯を磨き終えて、TVの電源や部屋の灯りを消して布団に入った。



自身動いてガサゴソ言う音も落ち着くと、暗くて静かな部屋だと実感する。さっきまで流れていたTVの音はもうしない。俺自身動いてドタドタ響く音もない。季節は冬で、虫の鳴く声もしない。目を閉じると、シンと静まっているその静けさが気になりだす。

目を開けてみるが、闇が何かの意図を持って俺を包み込んでいるような気がする。闇で見えない熊の木彫りが動いている気もする、水墨画の船上の人は意思を持ってこちらを見つめている気もする。

高級旅館特有の広さも、恐怖にはよろしくない。窓から入る月明かりのおかげで部屋の隅々までは真っ暗にならないが、広いため明かりの届かない真っ暗なところも多い。

そんな真っ暗な方を見つめてみると、真っ暗闇の奥に、何かいる気もする。目を凝らして真っ暗闇を見つめると、すーっと白い手でも伸びてきそうで、怖くなってきた。目を閉じる。もう、暗闇は見ないようにしよう。幽霊というのは、こうして想像されるのかもしれない。







賑やかなお隣-大学時代の旅行|夢と現の間にて【怪談・短編】


目を瞑っていると、壁を隔てて「キャハハハ」と女の人の高い笑い声が聞こえてきた。俺は反射的にふと目を開けた。笑い声の後に男の人の低い話し声も続いた。隣の部屋の客たちだろう。そう納得して枕元のスマホを手に取って深夜の2時だと確認後、スマホを戻して目を閉じた。

隣の部屋の声は、クレームを入れる程ではない。むしろ、幽霊を意識してしまう静けさに比べたら、良いかもしれない。目を閉じていると、身体はじわりと疲れや眠気を思い出して心地よくなってきた。意識はぼんやりとしてくる。

おそらくは眠りに落ちた、その時のこと。先程の女の笑い声が、いきなり耳元で響いた。俺は、びっくりして上半身が飛び起きてしまった。でも、起きてみると、先程と変わらない暗く静かな部屋に俺一人いるだけだと気が付く。壁を隔てた隣の部屋では、女と男の笑い声話し声は続いている。

枕元のスマホを手に取ると、深夜の3時だった。1時間程寝たようだ。





笑い声に疑問-大学時代の旅行|夢と現の間にて【怪談・短編】


再び身体を横にして、目を閉じた。やがてまた、うとうとしてきた。おそらくは眠りに落ちた。

だがその時。男の低い声が耳元で響いて、びっくりして上半身が起きた。だがやはり、先程と同じだった。暗く静かな部屋に俺が一人いるだけである。スマホを見ると、深夜の4時である1時間程経っている。相変わらず隣の部屋では、笑い声や話し声は続いている。

その後も、少し寝ては耳元で声が響いたように感じて、目が覚める。これの繰り返しだった。何度目だろう、朝日を感じた。スマホの時刻を見ると、朝食に合わせてセットしたアラームの15分程前だった。

もう起きよう。何度も目が覚めたせいだろう、疲れはすっきりせず、眠たい。隣の部屋と隔てる壁を見やるが、話し声はしない。







見解|夢と現の間にて【怪談・短編】





「奇妙だろう?壁の向こうの声かこっち声か分からなくなるなんて」小田は下手くそな講談師のようなしゃべりを止めて、俺に同意を求めるようにしゃべりかけてくる。俺が適当に頷くと、「精神科医の先生としてはどう思う?」と言ってくる。

俺は「疲れていて休もうとする神経と慣れない高級旅館に高ぶっている神経と混在していること等が原因で、ウトウトしつつ隣の部屋の話し声を過敏に感受したのではないか?詳細は調べようもないけど」と言った。

小田は「それも原因の一つだと思う」と言って、グラスを口に運ぶ。一口付けて溜息をついてしゃべる「でも。隣の声というのが問題なんだ。翌日も俺はその旅館に宿泊する予定だったので、隣の客をうるさいとは思わなかったものの無意識に話し声に刺激されていたのかもしれないと思って、朝食の時に従業員さんに言ったんだ『隣の客がね多少うるさかった』と。そしたら、その従業員は言った『お隣ですか?…今宿泊をされておられる方はお客様お一人でございますけど…』と。驚いて声を出すのを忘れていると、従業員は言いつくろうように『お外で騒ぎになられる方も時々おられますから、私どもで注意します』ってよ」。

答えられずにいる俺(葦笛)に、「精神科医でも解けない謎かな?」と小田は言う。「ああ。幽霊研究は神経学や心理学のみならず物理学や芸術学などなど総合的になされるものだと思っている」と俺は述べると、小田は応えるように笑った。



ピスタチオの殻を割りながら俺は心に思ったことは「決して冗談ではない。精神科医の俺に対して小田のような怪奇的相談は少なくない。理科学が進歩した未来に、その時の知識や技術で幽霊の存在も証明されるのことも有り得るなんてビクビクしている」と。

そう思うと屁理屈も広がる「昔の人からすると現代の科学技術は夢のようだろうけど、現代人にとって100年後の未来の科学技術もまた夢のようだろう、現実と夢の境なんて、曖昧なのかもしれない」と。


以上「夢と現の間にて【怪談・短編】」。



※本ブログの記事は全て著作権によって保護されておりますこと、並びに転載を禁止させていただいておりますことへのご理解をお願い申し上げます。


このエントリーをはてなブックマークに追加

  


◯関連
怪奇話・怪談・怖い話一覧










スポンサーサイト