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或るホラー作家の記憶【怪談・短編】

(本話の分量は、文庫本換算7ページ程です。)



過去に体験したことが、自分にとってのみならず社会にとっても重要な出来事だったのかもしれないと、後々思い知る場合も有る。勘違いだと思って過ごして来た怪奇体験についても…。





俺(米津秀行・22歳・多摩地方に有る大学の学生)は、興味本位で付いて来た(有り難くもあるが)友人の白壁と共に小道に立って、俺の自宅アパートのベランダを見上げる。

ここから見たところ異変もなく、Yシャツやチノパンが干して有る日常的風景だ。昨日の怪奇現象のことも頭に過るが、部屋に上がろうと意を決した。アパートの敷地へ歩きだすと、後ろから付いて来る白壁が「俺もついに、幽霊を目撃するわけだ」と笑う。

ポストの並ぶ共有スペースを通り過ぎて階段に足をかけて、自室の有る3階へゆっくりと上る。

上りつつ、昨日のことを思い出してみる。





俺の学祭での野心-昨日の学祭を思い出す|或るホラー作家の記憶【怪談・短編】


昨日は学祭だった。

この学祭で、俺はナンパをする。そんな野心に燃えていた。

クラスに仲の良い女の子はいるものの、一目で心臓の高鳴るような女の子と恋愛してみたい。

その意味では、浮ついたものではなくて、硬派なものだったと思う。



俺は、あっちの校舎、こっちの広場、ナンパをさせていただくお相手を探しつつ、一つの校舎内にいた。お!

ガラス扉の玄関を通じて、校舎前ベンチに、ボディラインを強調するセクシーな衣装に身を包んだ女の子の座っている後姿が、目に入った。そそられるし、セクシー衣装の女の子をナンパするなんて、学祭らしくて良い。さて、お顔を拝見させていただこう。俺は彼女へと向かって歩いた。校舎の玄関を出る。ベンチまでもう少し。

その時。彼女は立ち上がった。そのまま前方へ、こちらを振り返ることも無く歩き出す。あ、待ってくれよ。俺は彼女を追いかけた。

追いかけつつ、ヒップラインを拝見できた。改めてエロいと思った。





彼女の後姿を追いかけてたどり着いた場所とは?-昨日の学祭を思い出す|或るホラー作家の記憶【怪談・短編】


人でごった返す学祭中のキャンパスを、右に左にと避けつつ、俺は彼女を追った。すれ違う者たちは、思い思いの楽しみに興じていて、ナンパをしようとする俺のことも、俺に声をかけられようとしている彼女のことも、知らないようだ。その内に、キャンパスの端の方にまで来た。この辺までくると、人も疎らだ。彼女は、喫煙スペースを横切って、キャンパスの端でひっそりと佇む小さな棟に入っていった。

俺も、彼女に続いて校舎へと入った。校舎内は、彼女の固いハイヒール音が反響していた。10m程先、ドアの並ぶ廊下を、彼女はなおも前進していた。彼女以外に、見える範囲に人はいない。この棟は、学祭と縁遠いと感じる。楽し気に盛り上がる学祭の音楽は、関係の無いことのように、壁や窓越しに遠く聞こえていた。

このような人目の少ない場所でのナンパは、俺としては周囲の目が無いのでやり易いが、彼女にとっては知らない男と二人っきりで怖いかもしれない。

そう思いつつ歩いていると、彼女は一つのドアへと歩み、ノブに手をかけて流れるように入っていった。その時、彼女の横顔は長い髪で見えず、ノブに添えられた手は、白い手袋をしていた。ハイヒールの音は部屋の中で続く。この廊下に居ては、遮られた音のように伝わってくる。





彼女と二人っきり!ナンパは成功するかな?いや、それどころではない?-昨日の学祭を思い出す|或るホラー作家の記憶【怪談・短編】


彼女から遅れること数秒後、丁度ガチャンと閉まる音のした、ドアの前に立った。ドア越しには、部屋の中から物音はしない。ハイヒールの音はもう止んでいる。

開けてみる?でも、特定のサークルが借りている部屋だったら?更衣室だったら?不安になりつつも、張り紙もせず集会したり着替える方がいけないから、すいませんとでも言って閉めればよいだろう。

俺は、ゆっくりとドアを開けた。ドアのきしむ音が、部屋の中に反響する。

そこは広い部屋だった。何列もの長椅子や長机が舞台に正対している(俺に側面を向けている)。彼女は、長椅子や長机の間でこちらに背を向けて、じっと立っていた。彼女と俺以外、誰もいない。広い部屋は、俺の息すら反響する程に静まり返っている。



ドアの外に立って恐る恐る中を覗いていた俺だが、一歩踏み出して半身を部屋に入れて、ドアを支える(このドアは手を離すと閉まる設計)。さて、何と話しかけよう?相変わらず、彼女はじっとしている。そうだ。道に迷ったふりをして彼女に声をかけよう。そう言えばさっき、学祭メイン広場で水色なんとかというサークル名を見かけた。

俺は彼女に、「あの~、こちら水色何とかってサークルの部屋でしょうか?」と尋ねた。俺の声は反響して、大教室中を飛び交う。だが、彼女は返事をせず、こちらに背を向けたまま、じっとしている。

俺は不審に思いつつ、身体を部屋に入れてドアを手放し、彼女へ向かって歩く。歩いていると、後ろからゆっくり重たく「ガチャン」とドアの閉まる音が音がして、大教室に反響する。「あの~」と言いながら、なおも、俺は彼女に近づいた。それでも、彼女は微動だにしない。

俺はもう、彼女のすぐ後ろまで来た。もしかして、俺をからかっているのか?「何で黙っているんですか?」と言いつつ、彼女の正面へと躍り出て、彼女の顔を覗き込んだ。

俺はことばを失った…。それは、まぎれもなく、マネキンだった。





俺の勘違いなのか?怪奇現象なのか?-昨日の学祭を思い出す|或るホラー作家の記憶【怪談・短編】


背筋から全身へと、恐怖を伴いつつ身体を凍り付かせるものが広がる。呼吸が震えてしずらいことで、身体全体が震えていることを知った。相変わらず、彼女は(マネキンは?)じっとしている。意識してか本能によるものか、頭が真っ白になることで正気ギリギリラインは保てていたとも思う。俺はゆっくりと後ずさりをはじめた。騒いだらマネキンは目覚めてしまうような不安も有った。

後ろ手に机や椅子の位置を確認して通路を把握し、マネキンから目を離さず後ずさりを続けた(目を離したらだるまさんがころんだのようにマネキンが近づいて来る不安もあった)。マネキンとの距離は少しずつ広がっていく。今のところ、マネキンは目覚めていない。

やがて、入口扉へとたどり着くと、後ろ手に開けた。廊下に足を踏み出す。俺は、恐怖を行動へ爆発させた。

身体を反転させ、正面を向いて廊下を猛ダッシュした。長い廊下だと感じた。走りつつ振り返って、マネキンが迫って来ていないか焦った。

そのまま棟の入口を出た。

なおも走って、喫煙スペースまでたどり着いた。喫煙スペースに居た者たちは、キャンパス内を猛ダッシュする俺を不審な目で見てきた。俺はその目に、恐怖心も紛れるのだった。





怪奇再来-昨日の学祭を思い出す|或るホラー作家の記憶【怪談・短編】


その後の学祭。人でごった返す賑やかなエリアに戻ると、楽しい雰囲気へと俺の気持ちも溶け込んで、マネキンのことは徐々に頭から離れていった。

やがて、俺の勘違いだった気もしてきた。俺が追ったのは普通の人間→そのまま大教室に入る→よくよく確認しなかっただけで大教室のどこかにはその普通の人間も居たしもともとマネキンも有った→それを俺はマネキンが校舎をウロウロしていたと勘違い。その程度のことだろう。

ただし、ナンパをする気にはならなかった。心のどこかでは、同じような体験をするのを恐れていたのかもしれない。

それから、偶然会う友人と話したり、友人に呼ばれたサークルの出し物を回っている内に、空はオレンジ色が目立つようになった。また、俺自身疲れて来た。このくらいだと思って大学を出た。



高架に有るアパート最寄り駅を降りた時、見上げる空は青~黒の混ざるネイビーのグラデーションとなって金色の星々が散在しているのが目立ち、見通せる地平線の方は燃え残りのような青とオレンジが柔らかく輝いていた。それから、途中のコンビニで油揚げとビールを買って(最近はまっている)、アパートの自室玄関へ。

鍵を開けてドアを引くと、真っ暗な玄関を廊下の灯りが薄っすらと照らす。玄関に入るとその薄灯りでの玄関の電灯のスイッチを見つけて点灯する。玄関や続く廊下を、茶けた黄色の光が照らす。静まっている部屋にあって、靴を脱ぐ音すらドタバタと響いた。疲労とビールへの期待の中、溜息をつきつつ惰性で廊下に上がると、廊下の先に有る、電灯の薄っすらと照らすのみの暗いリビングが目に入った。

その瞬間。俺の心臓は恐怖にムチ打たれて高鳴った。

あのマネキンだ!暗いリビングの真ん中に、廊下の薄明りで多少色味も有りつつ黒い影として立っている!こちらを向いている!

焦りが俺を突き動かしたと思う。俺はビニール袋をその場に落とし、玄関へと後ずさり。靴に足を突っ込んで、掴み損ねながらノブを回して部屋を出た。



それから猛ダッシュで階段を降りた。アパート入口を出て通行人を見かけると、焦りや恐怖も落ち着いて来た。息を切らせつつもしばらく歩いたが、部屋に戻る気になれない。ポケットから携帯を取り出して、近くに住む白壁に連絡した。





結論は?|或るホラー作家の記憶【怪談・短編】


アパートの鍵を紛失したなんて理由で白壁のアパートで一夜を過ごしたが、朝になって仲介業者に連絡するよう促された俺は、躊躇いながらもアパートや学祭での怪奇現象をしゃべった。心理学を研究する白壁は喜んで聞いていたが、現場検証にいかないことにははじまらないぞと俺を促した。

以上のように、昨日から今に至るまでのことを思いつつ、俺は白壁と共に玄関前に立つ。

先程までふざけていた白壁だが、もう笑顔は消えており、強張った表情でドアを見つめている。

俺は鍵のかかっていないノブを回す。



玄関に足を踏み入れると、見通せるリビングは、南向きの窓から入る午前の日に照らされている。見える範囲にマネキンはいない。白壁に、じゃんけんをするか?と無言で腕を出したものの、互いに納得し合って腕を引っ込めると、二人並んで玄関に入る。そっとドアを閉めて、靴を脱いで廊下に上がる。全身強張らせつつ、横並びになってそろりと廊下を歩く。リビング内の見える範囲も広がる。

昨日落としたビニール袋も越えて、リビングと廊下の境に達する。だが、見える範囲にマネキンは立っていない。未だ見えていない廊下からの死角、リビングを入ってすぐ左か?緊張しつつ、俺は廊下からさっと首を出して覗く。いない。その視線の先にクローゼットが有る。そのクローゼットの前に白壁が立つ。白壁は少し震えながらも、バッと一思いに扉を開く。白壁の身体の強張りが解けるのが分かる程、肩の位置が下がった。それを見た俺の緊張も解けた。俺は白壁の横に立って、クローゼットを覗く。

「残念。美女はお帰りになったようだ」、クローゼットを閉じながら、白壁は言う。俺は、改めてリビングを四方見渡した。あのマネキンに居て欲しいと思わないものの、今となっては、白壁に嘘つき呼ばわりもされそうで残念にも思う。白壁は片足立ちになって「掃除してんのか?」と言いつつ、足の裏を手で払う。俺も、廊下を歩きつつ、足の裏のザラザラが気になっていた。片足立ちになって、上げた足を手で支えてできる限り顔に近づける。土だ。

白壁は「さて。問題は夜だぞ。一人で居ると、怪奇現象に見舞われても誰も助けてくれない」と言いつつ、廊下へとリビングを出た。俺もどうしようかと考えていたところだ。「ビール二本で泊まってやってもいい」と言う白壁を覗くと、しゃがんでビニール袋を探っている。今日泊まってもらってもいつかは一人で夜を過ごす日は来るのだが、怪奇現象後はじめての夜くらい一緒にいてもらうと有り難いかもしれない。「でも、お前が居る間に怪奇現象が起こったら、明日ビール三本奢ってもらうぞ。お前は見たがっていたんだから。そのビールとか、冷蔵庫に入れといてくれ」俺が応えて話しはついた。



それから、まずは部屋の掃除をした。白壁はクローゼットを探ってエロDVDを見つけて、俺の趣味について評論したり、ふざけていた。俺は適当に聞き流しつつ、掃除機をかけたり拭き掃除をしていたが、或ることに気付いた。雑巾に、茶色い毛が少量付いていた。

夜を迎えた。冷蔵庫からビール取り出したが、油揚げが見当たらない。白壁に聞いても、もともとなかったという。その晩、結局怪奇現象は起こらなかった。

翌日。一人で迎える深夜にも、やはり何も無かった。こうなると、あの怪奇現象は俺の勘違いの気がしてきた。リビングにマネキンが立っていたと思ったが、リビング向こうの窓を通して洗濯物が干して有るのを暗いため見間違えたのかもしれない。

ただし、その翌日。買い物に行く時、部屋の本棚の間から、銀行の封筒を取り出したが、中身を見ると、バイト代1万円が有ったはずなのに、空だった。怪奇現象を忘れる程に、悔しい思いだった。





それから六年経った今。俺は同アパートに暮らしている(職業は予備校講師兼オカルトサイトのフリーライターをしているがホラー小説家になりたいと思っている)。予備校から帰宅したばかりの深夜0時、習慣のように点けたTVで、人間と野生動物の距離が近づいていることを問題視するニュースが流れている。

司会とコメンテーターが「もともと野生動物がいた場所に街を築いた上に、街には世界中から食糧が集められており、野生動物にとって食糧庫のようなもの。残飯を目当てにする野生動物は意外と多い」とやり取りしつつ、公園の雑木林に住んでいる狐を赤外線望遠レンズで撮った映像が流れている。狐は、盗んで来た残飯?いや、買ったばかりのようにも見えるおにぎりであるが、食事をしている。

その映像を見つつ、大学時代に遭遇したマネキンの怪奇現象を思い出す。怪奇現象翌日にアパートを掃除した時に見つけた茶色の毛と狐、消えた一万円と狐が食べている買ったばかりのようなおにぎり…。

そう思っていると、日本に古くから有る「狐や狸に化かされる話」が頭を巡る。教訓的な話も有ったと思うが、そんな話とともに当時の俺を思い出すに、ナンパという見知らぬ女性に希望を抱いていた俺って、化かしやすかったかもしれない。そう言えば、当時の俺は油揚げにもはまっていたな。もし本当なら、社会的にも奇妙な現金紛失事件等が増えるかもしれない?いや、浮かれた者の戒めになって良いかも?

想像も広がりが止むと、ふっと笑ってしまう。コズミックホラー作家を目指すの俺の性なのかもしれないが、ロマンチストに過ぎる想像だ。頭を振って作業机兼食事テーブルに着いて、ビニール袋からビール缶と刺身の盛り合わせとかき揚げを取り出した。


以上「或るホラー作家の記憶【怪談・短編】」。



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