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春風に舞う記憶【怪談】

この話は、郊外のアパートに暮らしていた男が、深夜に不思議な音楽を聴いたこととその音楽の秘密を探る話です。

過去の持つ「後悔させる力」、未来の持つ「不安にさせる力」を除去できれば。せめて、後悔と不安を抑えるように耳から脳を刺激する音楽があるなら…。

(分量は、文庫本換算4ページ程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:今の仕事につながる?大学時代に体験した或る夜のこと|春風に舞う記憶【怪談】


俺(稲岡良仁・多摩文理大学考古学研究科助手・29歳)は、大学時代に不思議な体験をした。

また、その不思議体験こそ、考古学者を目指したきっかけだった。




第二章:その夜…金色の月・ネイビーの空・舞う桜|春風に舞う記憶【怪談】


大学生の俺は、多摩地方の街外れの丘の麓に有るアパートを借りていた。

その夜中、いつものように、ランニングに出た。決まったコースで、丘周辺を走り、丘頂上に有る神社へと走る。

土地柄は、農村と新興住宅地の入り交ざるような場所だった。

二車線の道路沿いに、大きな畑や古い家々が並ぶという農村の様相も有る一方、そんな中にコンビニや新興住宅の密集している一画も在る。

近場の街と言えば、アパートの有る丘を登れば、遠く地平線に多摩の一大都市の駅周辺高層ビル群が見える。夜になれば、高層ビルの無数の窓たちからの灯りや屋上警戒灯は、向こう岸のことのように輝いている。



アパート玄関からアパートの敷地出入口へと歩いていると、桜の甘い香りがした。

敷地出入口には、大きな桜の木が有る。俺は、5m程離れたここで立ち止まり、桜の木の背景に輝いている月の明かりで、桜の木全体を眺めた。

10m以上の高さで、夜空に向かってそびえている。薄ピンクがかった花びらが、茂る枝に雪のように積もり、ネイビーの夜空をバックに、金色の月明かりを得て、映える。

今、満開から散りはじめに、移りつつあった。花びらは、常に、何枚かひらひらと舞っている。時々そよ風が吹くと、量を増して風の方向にスピードを増して、舞う。



その時。

春らしい温い風が、いつもより強く長く吹いた。

花びらは、吹雪のように舞ったかと思うと、さらに渦を描きながら空へと舞い上がった。

上空では、桜の木は近隣にもそびえているがどこかの桜の木から流れてきたのだろう、花びらの吹雪は同じように渦を描いて空を舞って来て、合流する。


なおも、風は吹き続ける。

丘の木々もザワザワにぎやかになる。さらに多くの近隣の桜の木から花びらは集ったのだろう、東西南北いくつもの花びらの流れが渦を描きつつ流れて来て、上空で合流する。

視界一面の夜空は、桜の流れに染まった。


俺は、呆気にとられたまま、動けなかった。



しばらくして、徐々に風は緩やかになっていって、治まった。

それに伴って、視界一面の夜空も、ピンクがかった白い流れは緩やかになって、やがては治まった。

目の前の桜の木も、元の通りに、ひらひらと舞う程度になる。


妙な風も吹くものだと思いつつ、俺は、駆け出した。


第三章:その夜…聞こえて来た奇妙な音楽|春風に舞う記憶【怪談】


丘周辺を走った俺は、丘頂上へ通じる上り坂を駆け始める。走る道はアスファルトだし、住宅が整備されている場所ならどこでも、アスファルトは延びている。

一方で、アスファルトを外れると木々が茂るし、ところどころ、手入れもされていない場所は広がる。今は夜だから暗くて見えないが、昼に通れば、落ち葉は降り積もって、倒れている木はそのまま腐っていたり、苔むしていたりする。



その時。

また先程のような、強くて長い風が吹き始める。

正面からも吹く。上り坂である上に向かい風まで吹いて推進力を妨げられるし、さらに目を十分に開けていられない。

俺は、薄目になりつつ、歩きへとペースを落とした。

目の前の上り坂は、木々の黒いシルエットが両サイドに茂って丘頂上へと遠く並んで、強い風でガサガサザワザワ賑やかだ。そんな先に、木々の開けた頂上を通じてネイビーの夜空は見える。遠くてしっかりとは見えないものの、月明かりを反射して、白く輝くものが渦を巻いている。おそらく桜の花びらだろう。



しばらくして風は緩やかになって、後、収まった。

俺の目の前にもまた、どこからか流れて来たのだろう、ひらひらと数枚の桜の花びらが舞い降りた。

と思ったその時。

雅楽だろうか?笛の音楽が聞こえてきたのだ。


どこから?


俺は立ち止まって、耳に意識を集中する。

おそらく、整備されていない茂みからだ。

そちらを見るが、街灯や月明かりに照らされた範囲のみ見えるが、その他は暗闇だった。


こんな夜中に誰が笛を奏でているのだろう?

俺は、笛の聞こえる茂みにゆっくりと歩いてみた。


笛の音の方に歩いていると、耳に心地よいまでに自然と、音楽が流れ込んでくる。

優しくて懐かしいメロディーだ。10年くらい前の記憶たちを呼びおこすような。徐々に、悔しい思いをした野球部での記憶、年下の女の子に告白された記憶等は、呼び起された。

だけど、それら記憶とともに有るはずの悔しさや喜びは、なだめられているようであって、沸いてこない。

「後悔する記憶も喜びたくなる記憶も、今のお前を見守っているけれど、お前は、記憶たちに気を遣わなくていい、感情的になるなんてエネルギーも使わなくていいんだ」、そう記憶たちに言われているようでもあった。


いつの間にか、俺の間の前に、告白してきた後輩がいた。下校中の道にいた。

あれ?俺は何で高校生に戻った?

疑問に思いつつも俺はその後輩に近づいた。



その時。

足元でガサッと音がして、丘の坂道に戻った。片脚を茂みに入れて、俺は立っていた。

音楽ももう、聞こえない。時々春のそよ風に、ザワめく葉の音等がするくらいだ。

疑問にも不思議にも思いつつ、俺はジョギングを再開して、帰宅した。


第四章:俺の才能?|春風に舞う記憶【怪談】


翌日、アパートですれ違った隣人たちに、夜中に音楽を聴かなかったか尋ねた。

だけど、誰も聞いていない。夜にはシンと静まる土地なので、笛の音が響いていれば、誰かしら気付いても良いとは思うのだけど。少し奇妙にも思った。



その後日、作業服を来た者たちが何人か、例の茂み辺りにいた。

尋ねると、市の歴史を扱う博物館の調査団だそうで、神社の敷地内から戦国時代くらいの笛が見つかったという。それで今、茂みにも調査範囲を広げたとのこと。



そんなことも有って、俺は興味から、アパートの辺りの戦国時代~江戸時代の歴史を、調べてみた。

寝る前にネットで調べる程度だったのだが、いつの間にか何日も費やした。また、市の図書館や博物館を訪れて史料を探るようにもなった。



或る日、それらで得た情報と、笛のメロディーを思い出して、怪奇的な連想をしてしまった。

連想に関わった情報としては、

・戦国時代の人物で、日本史教科書に掲載されるような有名人ではないものの、この辺ではリーダーのような存在を知ったこと。

・そのリーダーのもとに、笛の名手が出入りしていたこと。

・次の江戸時代のこの辺りの盟主を調べても、上の戦国時代の人物と同じ苗字の者は、いなかったこと(上の家は没落してしまったのかもしれない)。

等。


また、あの夜中に聞こえてきた笛のメロディーは、俺のイメージだけど、記憶を優しく包むようだった。

没落してなお自分たちに誇りを持ちつつ江戸時代を生き延びようとした姿、盟主が没落したために仕事を失った笛の名手が過去を誇る姿、そんな想像をしてしまうのだ。



権力者の歴史だけではなくて庶民の歴史もまた、掘り起こすべきものも有るのかもしれない。




そんな出来事も有って、俺は考古学者を目指そうと思った。


それにしても、なぜ、俺に聞こえた笛の音は近所の者には聞こえなかったのだろう。

俺には、いにしえからの声を聴く才能でも有るのでは?

学者の仕事で心の折れそうになった時には、そう思うようにしている。


以上「春風に舞う記憶【怪談】」。



※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

※本ブログの記事は全て著作権によって保護されておりますことへのご理解をお願い申し上げます。


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