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土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】

この話は、或る男が、旅行先で太古世界を彷徨ったかもしれない話、その時に見た怪奇的光景が気になって、旅行後に心理と歴史の調査にのめり込んだ話です。

果たして、男の見た光景とは?また、太古世界へ分け入る奇怪な方法とは?


(分量は、文庫本換算7P程。次の目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:「土の記憶」のメカニズム|土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】


自然あふれるこの地への旅行。今、俺(駿河台辰実・獣医師・30歳)は、或る山の頂に立った。低い山ではあるが、遠くを見通せる。

緑の山々がいくつもいくつも、地平線へと折り重なっていて、その先では夕日が柔らかなオレンジに輝いている。夕日をバックに、紫のちぎれ雲は、追いかけっこをしている。



日頃は、人間の作ったルールやら人間の作った予定で成立する文明社会に生きる俺。

目の前には、文明社会のことなんて関係なく広がる大自然。

心地の良い諦めのような気にもなった。



同時に、「人間社会と関係の無いこの大自然の中に、人知の及ばない存在も有ったりして?」なんて、冗談めいた想像もしてしまうのだった。



何にせよ、綺麗な風景だ。いきあたりばったりで決めたこの旅行だが、成功だろう。



それから、俺は下山。

旅館に到着すると、温泉に浸かった。

温泉から上がると、山の幸溢れる食を頂いた。

夜中にまたフラりと、二度目温泉につかった。

悠々自適な一人旅だ、そんなことを思いながら、出入り口前ソファーに座って、冷たいジュースを片手にくつろいでいた。



その時。

同い年くらいの男が現れて、笑顔で俺に近づいて来た。

その笑顔は好感を持てるが、何と言えばよいのだろう、接したことのない笑顔であって、興味と警戒心とを抱かせるのだった。

男は、テーブルをはさんで向かいのソファーに立って、俺に、名と所属会社名を述べて挨拶して、腰を下ろした。

それを聞いて、警戒心は解けた。何のことはない、旅行会社の一員だった。



そして、明日のプランを提案してきたのだ。

それは、「土の記憶」というものである。何でも、太古世界を旅できるというのだ。

この旅行で、旅行会社にしてもらったことと言えば、旅館と自然溢れる絶景ポイントと周辺の商業施設を教わって、それらをお得に利用する割引チケットを得たのみ。

ただ、気になることも言っていた、「条件が合えば、太古世界を旅できるかもしれない」と。

詳細を訪ねたが、特殊技能を持った社員でないと、説明できないなんて言っていた。

今、目の前の男の言っていることは、旅行会社の言っていた「条件が合えば~」のことだろう。

俺は、「イリュージョンのようなものか?」と、男に尋ねる。

男は「そうではない」と言って、メカニズムを説明し始めた、


「例えば、生物は自身にふりかかる光をとらえて、自身内部で処理して、「見る」ことをできる。自身に降りかかる空気の振動をとらえて、自身内部で処理して「聞く」ことをできる。

土にも日は当たり、空気の振動を受け、動物に蹴飛ばされたりして、いろいろな作用が刻まれている。ただし、土は生物と違って、自身内部で処理するは、おそらくできない。

でも、土に刻まれたものは、確かに有る。


そんな、土に刻まれた光の影響を人間の視覚としてとらえなおす、土に刻まれた空気の振動の影響を人間の聴覚でとらえなおす等すれば、土に刻まれたものを、まるで、人の五感に変換してとらえなおす。

そんなことをできたらどうでしょう?土は、太古の昔から存在していますから、太古の世界を知れますね。

私は、そんな、土に刻まれたものを読み取れる能力者の一人。

さらに、私は、私以外の人間もまた五感でとらえられるように、伝達をできる。


よろしければ、明日、旅館裏手の山に登ってみてください。

頂上辺に有る大きな石に座って、目を閉じて、意識を周囲に任せてみてください。

周辺の土等に刻まれたものを、あなたは自身の五感のように捉えられるでしょう。私が、変換のようなことをしてあげていますので。

まるで、太古世界へ足を踏み入れたかのような体験となるでしょう」と。



俺は思った、男はイリュージョンのことを、雰囲気作りのために、もっともらしく説明しているのだろう。

とは言え、イリュージョンとしては面白そうだ。

男の提案に、乗ることにした。


第二章:これが「土の記憶」?旅館裏山にて|土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】


翌日、俺は、妙な男に言われた通りに、旅館裏手に有る登山道を登った。

登山道脇に、大きな石が有った。座りやすいように、直線的平面的に整えられている。



俺は、虫よけスプレーを全身に噴霧して、その石に座った。

静かに目を閉じて、周囲に意識を集中した。


絶えない鳥の声。

小鳥かな?高い音程で、忙しそう。こちらは大きな鳥だろう。小鳥に比べると野太い声。

大小の風が、木々や葉を揺らす。ザワザワ、ガサガサ。時々、ボトッ。木の実でも落ちたのだろう。

どれも、心地良く耳に入ってくる。

こうした山の営みは、太古の昔から、続いているのだろう。


その内に、俺はうたた寝をしたのか?木々の茂る山の途中に立っていた。見知らぬ風景だ。

周囲をぐるりと見まわすが、どこを見ても、折り重なる木々は続いている。日も遮られて薄暗い。

先程の登山道とは、似ているようだし違う気もする。


それにしても、夢にしては、自由に動ける印象だ。これまで体験したことの無い感覚だとも思う。

これが「土の記憶」か?



登り方面の奥は明るい。木々が開けているのかもしれない。

俺は、そちらに歩いてみた。

やがて、木々は開けた。


そこは、広い平地だった。

自転車でもないと、平地を横断縦断するのは、骨が折れる程だ。また、平地の大部分を、大きな池が占めていた。

池を挟んで反対側には、さらなる高い山がそびえる。ここから、さらに数百メートル程の高さはある。

また、ここから少し離れた池の周囲には、石でできた城のような建物も有る。


俺はまず、池に近づいて、水面をのぞきこんだ。

水面には、水草や大きな葉は浮かんでいる。透明な水中に、大きな黒い魚や派手な色をした魚がうごめいているのを見通せる。

釣り糸を垂らせば、すぐにかかりそうな程、人口密度ならぬ魚口密度は高い。


何気なく空を見上げると、澄んで青かった。夜になると、星空は綺麗だろう。

空を見ていると、ふと先程の山は目に入った。山頂は、よく尖っている。

あの尖りは、自然の作用でできたのか?誰かの手で意図的に作ったように見える。

そう思うとこの池にも、淵等に人為的なものを感じる。魚の数だって、自然のものとは思えない程に、多すぎる気もする。


それから俺は、先程から目に付いていた、大きな石の建造物へと歩く。


玄関前に立つものの、静かだ。誰も住んでいないように思う。

城の壁に使われている石の色と俺が土の記憶?に入る前に座った登山道脇の石と、似ている気がする。

取りあえず俺は、城のようなものの中に入った。



漠然とだが古い建物だと感じられる。

(劣化具合は大したことないが、古いと思ったのは、機械等で作ったものとは思えないこと、電化製品等も置いて無いこと等のせいだろう。

また、階段の段差の大きさや手すりの高さ等からして、ここに住む者の体格は俺と同じ程だと思う。)


見知らぬものたちに興味を持つものの、特に大きなイベントは無い。すると、目の前の風景の内容よりも、目の前の風景を見るメカニズムの方が気になり出す。

男の言っていた、石に刻まれたものを読み取るだの五感に変換するだの、本当のこととは思えない。

幻覚のようなものだろうか?それとも、催眠術?まさか、俺の朝ごはんに妙な薬でも入っていた?



そんなことを考えていると、いきなり、どこかの部屋からゴトンと音がした。


第三章:人知の及ばない秘密?その古い城|土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】


①未知なる存在?


俺は、音がしたと思う方へ歩いていった。

そこに、一つの部屋が有ったので、覗く。



薄暗い部屋で、床に液体が広がっている。

液体の横には、小さめのゴリラが横たわっている。



俺は、ゴリラが動いていないことを遠目で確認して、近づいた。

足元で、寄り添うようにしゃがみつつ、液体もちらっと眺めた。

液体は、おそらく毒物だ。かわいそうに。人間の建物に迷い込んだゴリラは、たまたま残っていた毒物を、誤って飲んでしまったのだろう。

今俺の見ているものは土の記憶とやらであって、実際に有るものではないはず。でも、目の前にゴリラが横たわるのを見ると、「助けてあげたい」という思いが湧き上がってくるのだ。


鎮魂の意味を持って、ゴリラの顔をしっかりと見よう。

俺は、横たわるゴリラの顔がしっかり見える位置へ移動すべく、立ち上がった。


近づく内に、不自然なことに気付く。ゴリラにしては、頭が大きい。

そんな疑問も持ちつつ、ゴリラの顔の前にしゃがむ。


違う!


この生物は、ゴリラに似ているが、ゴリラではない。

額もまるで現生人のように広い。

一体、何者だ?



謎の生物の登場にびっくりした俺は、思わず身体が浮いて、その衝撃で、土の記憶から覚めた。

目の前には、登山道とその周辺風景が広がっている。先程まで居た、見知らぬ風景ではない。

心地よく、木々のざわめきや野鳥の声は、聞こえる。


俺は、しばらく動けなかった。呆気にとられていたし、疲れてもいる。(肉体的な疲れではなくて、頭を使い過ぎた時のような疲れ。)

もう一度、土の記憶へと意識を集中するのは、億劫だ。土の記憶をまた体験するとして、その前に例の男とメカニズムも話したい。


まだ昼間だったので、山道や周辺商業施設等をウロウロした。


夕方になって、旅館に戻った。

旅行会社に電話をして、昨日の男に会えないか尋ねる。

だが、「その男はもう、違う地へ移動した」と言う。

土の記憶について質問すると、「その男でないと分からない」とのみ言われた。


温泉に浸かって後、ソファーに座ってくつろぎながらスマホ検索してみた、「土の記憶」や「ゴリラのような未確認生物」等と。


②トンデモ見解?


検索結果として表示されるさまざまなサイトページとそのページタイトルの中で、「INBOU」という雑誌社のものに興味を持った。

タイトルに、「関東地方の山奥で発見」「太古の城」「ヒト?類人猿?」という文字が有ったためだ。

(ただし、「INBOU」はトンデモオカルトサイトである可能性も疑いつつ。)

その内容は次のものだ。



「その教授は、関東地方の或る山にて、旧石器時代に造られたと見られる城が発見されたこと、その城の近くの池が養殖場として利用されたとみられる形跡があることを発見し、さらに、同じ山においてサピエンスでもなくネアンデルターレンシスでもない謎のおそらくは人類の化石を発見した。

その教授は、城や養殖場や謎の人類の化石の正体を明かすことに在職中も退職後も研究を続けたにも関わらず、80歳を過ぎた辺りから自身の功績を消すことに尽力しはじめたのだ。

その教授の発見した謎のおそらくは人類の化石は、博物館に所蔵されていたのに、どこかに消えた。おそらく、その教授の工作によるものだろう。そんなこともあって、現在は、その謎の人類の研究は進んでいない。」

読んで、まずは一息ついた。


一息ついて、さらに読み進めた。

「果たして、謎の人類の化石の正体は?

その教授は、自身の功績を消して回る以前、友人の教授に自身の説を語っている。その友人の教授は、弟子にふとその説をしゃべったこともある。

我々INBOUのteamは証言をたどる調査によって、その教授が消した教授自身の説へと辿りついたと思われる(伝言ゲームよりも不確かなことではあるものの)。それは、次のようなものだ。


謎の人類の化石の正体は、

可能性1:
現生人サピエンスとネアンデルターレンシスは兄弟姉妹とも例えられるが他にもまだ兄弟姉妹もいてそれが謎の人類の化石だとする説

可能性2:
ゴリラの一部から分岐進化したものが謎の人類の仮説だとする説(この場合は「人類」ではなくて「類人猿」か?)

とのこと。


また、その教授は感傷的な一面もあったと思われる。

なぜなら、こうも語っていたそうなのだ、『この謎の人類は、多人数で暮らせる城を建てたあたりに仲間意識の強さを伺えるが、現在は絶滅しているということは絶滅前の最後の一頭になってしまった者もいただろうに、その悲しさや絶望感はどれ程のものだっただろう』と。」

以上のようなことが、「INBOU」というサイトの記事に書いてあった。



以上を読んで、俺が見た光景や男の言っていたことを合わせて、想像をめぐらせた。

ゴリラのような生物は、おそらく毒物を飲んで息絶えた。

妙な男が言うに、土の記憶によって太古地球を知れる。

もし、この論文の言う謎の人類の化石と俺が見たゴリラのような生物が、同一種なら。

さらにだ、俺が見たゴリラのような生物こそ最後の一頭であって、絶望のため服毒自殺をした?



ここまで真剣に考えたものの、これ以上は広がらない。

いつの間にか信じて想像を深めていた自分に対して、こじつけだと笑ってしまった。

旅行から帰宅したらまた旅行会社を訪ねて質問しよう、それだけを決めて、部屋に戻った。


第四章:消えた旅行会社|土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】


翌々日、旅行から帰宅した。

その翌日に、出勤した。



職場近くに有る、例の旅行会社の入っているテナントビルの前を通る。



だけれども、旅行会社は無かった。

ガラス玄関やガラス窓に、テナント募集中の張り紙が張ってある。

張り紙の向こうを見通すと、デスクもカウンターも無くて、ただ床と天井のみ。寂しい風景だ。


俺は、旅行前に登録した、旅行会社の電話番号にかけてみた。

「現在使われていません」という自動音声のみ。



この旅行によって、課題ができてしまった、「土の記憶をメカニズムの解明すること」「旧石器時代の歴史を探求すること」「旅行会社の行方を掴むこと」。


以上「土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】」。

続きは「ゴリラ?或る田舎の目撃談【ファンタジー怪奇小説】」へ。

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進化史については「子孫が異種になる?生物進化史1【コズミックホラーのきっかけに】」へ。



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