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幻の宴?或る田舎にて【怪談】

この話は、或る男が、或る田舎にて幼い時に体験した、奇妙な灯りと奇妙な人たちにまつわるです。あの人たちはもしかして…。

大人になった今思うことは、息子にも同じことが起こるのだろうか?ということ。


(分量は文庫本換算3ページ程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)





第一章:田舎への帰省|幻の宴?或る田舎にて【怪談】


俺は、東京で、フリーのコンピューターエンジニアをしている。

夏休みを得て今、妻と息子とともに、俺の田舎に帰省しているところだ。

あと30分もすれば、田舎の家に到着する。



後部座席では、チャイルドシートに座りつつよくしゃべる息子と適当に相槌を打つ妻。



息子は今年で5歳。幼稚園に通いはじめた。

俺は幼稚園くらいの時、今向かっている俺の田舎にて、怪奇体験をした。まあ怪奇体験なのか夢だったか、あやふやだけど。

息子もまた、同じ体験をするのだろうか?そうなると、俺の体験は、夢ではないかも。



現在運転中の道路は、渋滞しているようだ。車の流れは遅いし、停車も繰り返す。

余裕の有る俺は、5歳の時の体験を思い出してみた。





第二章:或る夜中の灯りとそこで出会った人たち|幻の宴?或る田舎にて【怪談】


幼稚園に入る前のこと。父の転勤に伴って、俺と父と母と兄で、父の田舎に引っ越した。



いわゆる農村。

田畑は延々と広がっている。ところどころ低い山や丘が有って、山裾や山中に家は点在している。

家の無い山は、大抵、昔は棚田だったそう。今では、耕作放棄の影響で木々の生い茂る山となっている。

低い山でも、安易に入ると迷う。昼でも薄暗い。山と山は折り重なっていて、迷うと、どこまでも山を歩き続けることになる。山で遊ばないよう、小さい頃、近隣の老人たちから言われた。



俺は、田舎で暮らし始めてすぐ、馴染めないものに出会った。

仏壇の有る部屋だ。

昼間でも薄暗い。家の中で、みんなでご飯を食べる部屋から遠い位置に有る。寂しい。どう見たって、仏壇のある部屋は、「ウェルカム!」という雰囲気でない。

線香の匂いも、嫌ではないものの、楽しい気分にさせるものではない。



そんなこんな、俺は仏壇の部屋には近づかないでいた。



それから、一年くらい経った。幼稚園へ入る手続きで、祖母や母にあっちこっちに連れられていた時期のことと思う、怪奇体験をした。



季節は覚えていないけど、寒くは無かった。そんな或る夜中。俺は目を覚ました。

夜中なのに眠たくなくて、意識ははっきりとしていた。起き上がると、隣では父母兄は寝ていた。

シンとして静かだった。時々木々のざわめく音が聞こえてくるのみだった。



しばらくすると、それ以外の音が聞こえた気がした。俺は集中して、耳をすませた。

かすかだが、笛の音だ。



俺は布団を抜け出して、窓から外を見た。

この家は山の裾に有ったが、その山中に人家は無い。その窓は、山に向かって有る。

どうやら、山中遠くから、笛の音は聞こえてくるとわかった。



当時の俺は、一人でトイレに行くことすら怖かったのに、笛の音は楽しい気分にさせるものであった。



俺は、笛の音に誘われるように外に出た。

月明かりを頼りにしたのだと思う、庭を抜けて、山頂へ通じる山の道までたどり着いた。土の道だし、常に落ち葉が積もっている。



山道を見上げる。真っ暗で、何も見えない。両側に木々茂る道であって、真っ直ぐ登った先で右に折れることは、記憶で知っている。記憶を頼りに、道が有るだろう真っ暗闇を目で追う。

異変を感知した。

カーブするだろう辺りが、ぼんやりとオレンジに照らされていたのだ。まるで、灯りでも有るようだ(山道に街灯等は設置されていない)。



俺は、オレンジの灯りを目指して山道を登る。

オレンジの灯りまで辿りつくと、それは提灯だとわかった。

俺は、カーブを曲がる。そこで見た光景は、穏やかにも圧倒的だった。

カーブの先はまた、両側に木々茂る真っ直ぐの道だが、その木々に、等間隔くらいに、火の灯った提灯が取り付けられていて、山道は延々と、柔らかなオレンジに染まっていた。

俺は、オレンジの山道を歩いた。

歩く程に、笛の音は大きくなる



そして、木々の開けた山頂にたどり着く。笛の音は、いよいよ響く。

俺は、一つの木からそっと顔を出して、様子を伺った。

そこに、木や石を椅子にして、20人程のおじいさんおばあさんたちが、おちょこやらとっくりをそれぞれの側に置いて、楽しそうにしゃべっている。

笛を吹いている老人や鼓を鳴らす老人もいる。お面をつけて踊っている老人もいる。

ただし、俺の知っている近所の老人はいなかった。



老人の一人が、俺に気が付いた。「あれは○○(俺の苗字)のところの子じゃないの?」と言った。

すると、二人のじいさんばあさんが立ちあがって、「ああ本当じゃ。夜更かしはダメだろう」と言って俺のところに来たのだ。

俺は怖いような怖くないような、どうすることもできず身を任せていると、おじいさんに抱きかかえられて、老人の輪の中に連れられた。

そのおじいさんおばあさんの膝に抱かれつつ、その深夜を過ごした。


第三章:その翌日の驚き|幻の宴?或る田舎にて【怪談】


翌朝、目を覚ますと、俺は布団の中にいた。

起きて朝食のテーブルに着くと、父母やら祖父母は俺を心配する。

どうやら、早朝に俺が玄関で寝ていたので元の布団に戻したと言うのだ。


その後、何事も無く日常を過ごしていた。

或る日、思い切って、仏壇の有る部屋へと入ってみた。

さらに、仏壇をよく見た。仏壇には、何人かのおじいさんおばあさんの写真が有った。その内の二人こそは、あの笛の音のした深夜に、俺を膝に抱いた二人だったのだ。その後知ったこと。その二人は、俺のひいおじいさんとひいおばあさんだった。幼稚園やら小学校で、友人に聞いたことには、この田舎では俺と同じ体験をした人もいるとのこと。





第四章:受け継がれるもの?|幻の宴?或る田舎にて【怪談】


俺は、今まで年二度程のペースで、息子を連れて帰省をした。

俺と同じような怪奇体験は、して無さそう。

でも、今までは、山道を一人で歩くことは無理だった気もする。今回は、できるはず。

もしかすると、山道を歩けるくらいに成長することを、先祖様は待っているのかもしれないと、ふと思うのだ。



さて、渋滞も抜けた。俺は、運転に集中した。


以上「幻の宴?或る田舎にて【怪談】」。

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※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

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