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秋風に吹かれながら【秋の幻想的風景?怪談】

郊外のアパートに暮らす大学院生が、隣人の音大生の奏でる音楽により不思議な体験をした話です。

(本話の分量は、文庫本換算4ページ程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:徒歩で帰宅|秋風に吹かれながら【秋の幻想的風景?怪談】


俺(三田辰・23歳・大学院生)は、駅舎を出た。

バイトを終えた帰り道で、時刻はもう0時を回ろうとしていた。

空気はそれほど冷たくないけど、風が吹くと寒いと感じさせる。

じめじめに苦しんだ夏に比べると、カラッとして良いけど、これ以上季節が進むなら、乾燥を感じるように思う。

秋も終盤かもしれない。


多摩地方にはいくつか都市が有るが、この駅は、そんな都市の数駅隣。

俺の暮らすアパートは、ここからバスで10分程のところに有る。農村優勢に、住宅の混ざった場所だ。


駅から順に、駅前繁華街、住宅街、俺の暮らす農村優勢の住宅街と広がっている。


俺は、バス停へと、駅前繁華街を歩く。

駅周辺繁華街には、スーパーや薬局、居酒屋、塾、中小企業のオフィス等々大抵のものは揃っている。

ただし、都市部に比べると、繁華街の面積は狭い上に、建物は古くて小さいのが基本。「場末」ということばの似合う居酒屋も多い。今、歩きながら、そんな居酒屋の並ぶ、細い路地を横目に見る。薄暗い路地に、玄関の灯りを消した古い小さな居酒屋が並ぶのは、多少不気味である。



繁華街を抜けて、バス停にたどり着いた。この時刻だと、待ち時間も有る。

明日は学校もバイトも休みだし、時々は適度に疲れる程度に有酸素運動をすると、頭もスッキリするように思う。

俺はバスには乗らず、歩くことにした。



繁華街を抜けると、都心と多摩地方をつなぐ四車線の大通り。深夜だが、交通量は有る。

大通りを横切って、大通りと交差する二車線の道路に入る。この道路は、住宅街の真っただ中を通って後に、田園地帯やさらにその先に有る山々へ通じる。


しばらく、住宅が左右に並ぶ通りを歩いた。住宅の後ろにもまた、住宅がぎっしり並ぶ。


さらに歩いていると、住宅は疎らとなって、田畑が混ざる。



さらに歩いていると、住宅よりも、田畑が目立つようになった。

住宅から漏れる灯りや街灯等人工の灯りより、満月や星々の明かりが目立つ。

ビルや住宅がそびえるよりも、果樹園の木々がそびえるのが目立つ。

アスファルトは減り、田畑が増える。


田園地帯のところどころに、丘が有る。俺の暮らすアパートは、そんな丘の一つに有る。

今、一つの丘を横切る。どの丘も大抵、木々を茂らせている。



その時。ドッと秋風が吹いた。

涼しく穏やかな世界の中で、一線を画すような強い秋風が、正面から後ろへ吹いた。

道路わきの木々や果樹園の木々、丘の木々を、ゴトゴト揺らす。葉を、ザワザワ言わす。枝の葉は、散らされて吹雪のように舞う。

道路散らばっていた枯れ葉は、カラカラ舞い上がる。道路は、車の通り道ではなくて、枯れ葉のための通り道となる。

俺は、寒さすら感じながら、防御のために目を細めた。薄目に、枯れ葉の舞う夜空を、見上げた。

紺色の夜空を背景に、黒いシルエットとなった枯れ葉は、金色の月に照らし出された時だけ茶色に変わる。

しばらくして、風は収まる。枯れ葉は、穏やかな雪のように、ひらひらと落ちてきた。


俺はまた、歩きはじめる。


第二章:アパートから聞こえる音楽|秋風に吹かれながら【秋の幻想的風景?怪談】


やがて、アパートの有る丘が見えて来た。歩いている道路の先で、隣接するように迫っている。



その時。また秋風がドッと吹いた。

冷たい風に、先程同様、枯れ葉たちは舞った。

ただ、今度の風は長い。

そのためか、先程以上に、枯れ葉を舞い上がらせている。やがて、一方向の風によってか、葉は川のような流れを空中に描く。

流れを目で追うと、アパートの有る丘の上空付近。そこで、渦を描きながら丘へ降る。


やがて、風が収まる。

妙な風も吹くもんだと思いながら歩いて、アパートの敷地へたどり着いた。



その時。

かすかだが、壁に隔てられているような響きで、音楽が流れるのを感じた。また、楽器はバイオリンだ。

最近アパートに引っ越して来た者によるものだ。何駅か隣に音大も有るので、そこに通っているではないかと思っている。


俺は、音楽を聴きながら、敷地内を部屋へと歩く。

前にも演奏していた音楽だ。ただ、曲名は知らない(俺はヴァイオリン音楽にそんなに明るくない)。

印象だけど、優しくて懐かしい音楽だ。


第三章:怪音楽は記憶を呼び起こす?|秋風に吹かれながら【秋の幻想的風景?怪談】


心地よいまでに、耳に自然と流れ込んでくるその音楽は、10年以上前の古い記憶たちを呼びおこすようだ。



悔しい思いをした記憶も、楽しい記憶も、さまざま有る。

だけど、なだめられるように、後悔も喜びも感じない。

俺に語りかけてくるようだ「後悔する記憶も喜ぶべき記憶も、今のお前を見守っているけれど、お前は記憶たちに気を遣わなくていい、感情を沸かせるエネルギーなんて使わなくていいんだ」といった感じだ。

そのためか、思い出に素直になれるように思う。



俺は今、10年前の中学の部活のことを思い出した。あと一点に泣いた、県予選だ。

いや。その世界にいた。

俺は今、あの県予選のグラウンド、バッターボックスに立っている。

相手投手は、俺に投球する。俺は、思いっきりスイングした。



その瞬間。

俺は、バランスを崩して転倒した。

仰向けに転がる俺の正面には、秋の夜空が広がっている。


あれ?

確かに、俺はグラウンドに立っていたのだけど…。

自分の見える世界がコロコロと変わったようで、不思議な気分だった。


第四章:受け継がれる音楽?|秋風に吹かれながら【秋の幻想的風景?怪談】


このよなことは、今日だけではない。

以前も、音大生の奏でる音楽に耳を傾けている時に、過去の世界に居た。

あの音大生の奏でる音楽は、脳に妙な作用を与えているのだろうか?

俺は立ち上がって、土を払った。



音楽は、まだ流れている。

俺は音楽に集中しないように、自室へと向かう。聴き入ると、先程のように現実離れしていまうだろう。



自室へ向かいつつ、ふと、音大生の部屋を覗こうと思った。音楽が聴こえる方向からして、1Fである。

どのような者が音楽を奏でているのだろう?カーテンが開いていれば、表の庭から見られる。



表の庭に寄ると、一室に、20歳くらいの男子がバイオリンを奏でているのを見通せた。

優しく懐かしい音楽からは想像をできないくらいに、男子の息は上がっていて汗も光る。

その背後には、古い鎧が有った。何やら一瞬、武者が涙を流している姿も見えた気もした。


その時。秋風がドッと吹いた。

アパートの背後で、紺色の夜空をバックに大きな黒いシルエットとなっている丘の木々から、枯れ葉が舞った。

音大生の音楽に対して、静かな歓声を送っているようだった。


次に大学に登校した時。それなりに仲のよい稲岡先生に、例の怪奇音楽のことやそれとは似つかわしくない激しく演奏する音大生のことを話した。

稲岡先生は、「俺が、大学時代に、多摩地方の田園地帯のアパートで聴いたことが有る音楽と関係有るかもしれない。俺の勝手な想像だが、その音楽は、先祖や元パトロンを誇るものではないかと思う」と言う。

さらに、研究者らしく、感傷はそこそこに、妙な仮定を述べる。

「ところで、気持ちを穏やかにする優しい音楽を、なぜ荒ぶる気持ちで演奏する?

俺の聴いた音楽と三田君の聴いた音楽が仮に同じだとして、また俺の想像が正しいとして。

音楽の演奏を止めると、過去に嫌な思いをした先祖たちの幽霊は穏やかでなくなるのか?現代を生きる子孫たちが、先祖のために復讐しようとする心でも起こるのか?

まあ、オカルトというかSFというか、想像に過ぎないけどね」。

音大生の鬼気迫る様子や一瞬見えたと思った鎧武者を思い出すと、稲岡先生の言わんとすることも、わからないでもない。

それにしても、稲岡先生は、オカルト染みた想像をスラスラと述べた。日頃から、そんな想像を、しているのではないか?


以上「秋風に吹かれながら【秋の幻想的風景?怪談】」。

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※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

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テーマ : 怪談/ホラー
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上司の呪い?或る心霊現象【怪談】

「働きたくない」とは?

「働こうという思いが沸かない」か「働かないぞという思いが強い」かで、大きな違い?



これは、仕事に熱心でない男とその男を働かせたい上司の遭遇した、心霊現象の話です。


(分量は文庫本換算5ページ程ですが、以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の怪談怖い話は「本blog全記事の一覧」へ)




第一章:思い出す…数年前のこと|上司の呪い?或る心霊現象【怪談】


俺(米津秀行・29歳)の現在の仕事は、フリーライター(オカルト雑誌&サイト「INBOU」からの依頼)兼予備校講師。

学生時代に憧れていた仕事は、「本業で考古学者をしつつ傍らで太古を題材にする小説家」。今でも、その夢を捨ててはいない。小説賞に、応募もしている。

それでも、今の仕事も、嫌いではない。



ところで俺は今、「INBOU」に、数年前のことを書こうかと迷っている。

数年前、俺は多摩地方の小さな家庭教師事務所に登録して、働いていた。今同様、小説家を目指しつつ。



そこで、心霊と呼ぶべきか、奇怪な出来事に遭遇した。

その時のことを、思い出してみる。




第二章:バイトでの大きなトラブル|上司の呪い?或る心霊現象【怪談】


①所長が行方不明?




当時20代半ばの俺。



家庭教師事務所に登録して、バイト感覚で、講師をしていた。

主に、「公立学校かつ勉強嫌いの生徒」を担当した。

生徒や親御さんからの評判は、それなりによかった。



ただし、所長からの評判は、よくなかった。

大学を卒業している俺は、俺はフルタイムで働けるはず。

そこで、事務仕事や教務(講師管理育成等)を、俺にして欲しかったようだ。さもなくば、難関校受験生徒の担当だ。

小説を書きたい俺は、それを、断っていた。

(所長は、事業拡大も目指していた。なおさら、俺の勤務態度は良くないものと写っただろう。)


また、所長は時折、思い詰めた表情もしていた。



そんな中でのこと。

ちょっとしたトラブルが発生した。



講師の出社日である月曜日のこと。

(所長は、生徒や親御さんに定期的にヒアリングをしており、それを踏まえてミーティングをする。)

多摩地方の街はずれに有る古いビルの2F、俺は、挨拶の声を張り上げたが、返事はなくて、シーンと静まっていた。

入室してみる。

居るはずの所長も、誰も居ない。


コンビニにでも出かけたのだろうかと、俺は立って待った。



そのまま、ミーティング時刻になった。

でも、所長は来ない。

所長のスマホに連絡するものの、出てくれない。



しばらく様子見と思い、俺は、所長のデスクに座った。

小説案を頭に描いていたが、ふとうたた寝してしまった。

数分のうたたねの夢に、所長が出てきた。

俺を、冷ややかに、でも切迫した表情で見てくる。



はっと目を覚ました俺。

夢に出た所長の表情を、覚めてからも、忘れられなかった。

時計を見ると、ミーティング予定時刻から30分も過ぎた。



それから、玄関が開いた。大学生の出社だ。俺の後にミーティング予定なのだろう。

(普段、大学生と接することはない。でも、所長との雑談で大学生5人が登録をしていること、出社時等に大学生らしき男女を5人見ていること等、本家庭教師事務所の全大学生の顔を、知っている。)

俺と出社してきた大学生は、挨拶をしたり所長の行方は?等自然と会話は成立した。

そうこうしている内に、違う大学生も出社してきた。

この大学生は、ミーティング後すぐ担当家庭に向かわないといけないそう。

その大学生は所長のスマホに電話をかけるものの、やはり、出てくれない。



俺は、年長であること、大学生は俺を正社員講師と勘違いしているようだったこと等から、少しリーダーっぽく、「前回の授業で問題が無かったのなら、前回の続きでも良いのでは?」なんて指示みたいなことをした。

大学生は、「そうします」と言って、事務所を出ていった。



このリーダーっぽい振る舞いをしたことで、後々面倒になるのだった。


②増える仕事


その日はその後も、俺がリーダーっぽい役割を担った。

事務所に残って、出社してくる大学生に対して、所長が行方不明であることを伝えたり、前回授業の様子をもとに今回の授業の指示を出したり。

(俺にも授業が有って、担当家庭に向かわなければならなかったため、所長デスクに有った予定表や大学生の連絡先を用いて連絡もした。)



所長のことも、俺に任された感じだった。(というより、俺が引き受けないと、格好良くないような状況になってしまった。)

一時間に一度くらい、所長のスマホにかける。でも、出てくれない。所長は既婚者だけど、スマホと本事務所固定電話以外の連絡先は、知らない。

警察に連絡すべきなのか?それ程の事態に陥っていれば、奥さんから連絡しているはずだろう。事を荒立ててはいけない?だけど、奥さんともども異常事態に巻き込まれていたら?最近の所長は思い悩んだ表情もしていたが、それと関わりは有る?

結局、警察への連絡は止めにした。



翌日、俺は担当家庭に出向く前に、事務所を訪れてみた。相変わらず、所長は来ていない。

昨日同様、本日仕事の入っている大学生に、授業指示の電話をした。

また、その電話で、所長の最近の様子について気になったことはないか聞いた。

思い悩んでいたみたいと述べる大学生は多い。「自分には、この事務所を大きくできない。生徒一人辞めるだけでびくびくする」と、悲観的なことを言っていたという大学生も。

それと、警察へ連絡するタイミングについても話し合った。来週月曜日まで、様子見にすることで納得した。



その翌日。

大学生から俺のスマホに、授業指示をあおぐ連絡が入った。

その翌日。

大学生から、友人と授業を受けたいと言う生徒割安プランはないか尋ねられた。

俺はだんだん、リーダーのような役割は重苦しくなった。



そして、もう一つ。

所長が行方不明になってから、毎日所長の夢を見ていた。


第三章:どこかで見ていたのか?所長が夢で言う|上司の呪い?或る心霊現象【怪談】


①昼間どこかで見ていたのか?夢の中の所長


その日の夢。

所長が夢に現れて、昼間の俺の働きを見ていたように言った、「そうだ、そんな風に指示を出せ。君は今日から、教務リーダーだ」と言った。

夢の中で俺は、プレッシャーを感じた。

目を覚ますと、汗びっしょり。

所長が行方不明になった夜から、こんな調子だ。所長に呪われているような気分だ。



所長と連絡がつかなくなって、4日目。

この日も、俺は事務所に出社。

所長は、相変わらず出社せず、また電話にも出てくれない。



俺は所長のデスクに座って、各家庭の名簿を眺めた。そして、頭を抱える。

今日は木曜日。

本家庭教師事務所は、週一でヒアリングをする。まさか、俺が各家庭に電話なり出向くなりするのか?



その晩の夢。

やはり所長が出てきた。そして俺に言った、「そうだ、お前がヒヤリングをするんだ」なんて言う。

「嫌だ!」。俺はそう思いながら目を覚ます。汗びっしょりだ。



翌金曜日。

今日も事務所に出社した。やはり所長はいない。

大学生には、ヒアリングのことを聞かれたら、「金曜日~日曜日に行う」と伝えるよう指示している。今のところ、不服は出ていない。

まだ土日が残っている。



その晩の夢。

やはり所長が出てきた。そして俺に言う、「ヒアリングしろ!それを書類にまとめて、大学生と作戦会議しろ」と。


②そうはさせない!夢の中の俺


夢の中で言われた俺は、夢の中で開き直った。

悩みやプレッシャーを吹き飛ばすように、言い放ってやった、「無駄なことだ!ヒアリングはしない!教務主任もやらない!仕事を増やすんじゃない!」と。



言った瞬間、夢の中で、スッキリした。

夢の中の所長は、驚いていた。それ以上、何も言わなかった。

目が覚めた。

いつも感じていたプレッシャー等は、無い。


第四章:夢と現実の奇妙な一致|上司の呪い?或る心霊現象【怪談】


さて、本日土曜日。

俺は、事務所をのぞいて見た。

所長がいないのなら、俺がヒヤリングしないといけない。



緊張しつつ、事務所の扉を開けた。

そこには、少しやつれた所長がいた。

俺は、一安心した。



俺の身の安心の次に、所長のことが気になり出す。それに、出社拒否していた所長を、どう出迎えればよいのか?

所長も、出社拒否した自分自身、講師たちとどう接すればよいのか、分からないのだろう、互いによそよそしい。

適当に、挨拶、「体調は大丈夫ですか」「連絡つかなくて申し訳ない」等述べ合った。

また、各家庭には金曜日~日曜日にヒアリングすると言っていることも、伝えた。

その後、所長は、各家庭へヒアリングをしていた。



その日から何日も経った。

所長は、時折悩みの表情を浮かべることも有るが、以前の通り、働いた。また、大学生と所長は、以前の通りに話すようになった。

だけど所長は、俺に対しては、よそよそしいまま。また、事務だ教務だ新たな仕事は、要求してこなくなった。

俺は、所長とぎこちない関係を除けば、問題無く働いた。

気になったことと言えば、所長の出てくる夢を、見続けていたこと。



ただし、追い詰められるような夢ではない。

俺は以前、夢の中で、所長に対して自己主張したわけだが、それは心地よかったのか、似た夢を見続けた。

夢の中で所長に対して、「新しい仕事はしません」「教務主任はしません」「仕事を増やすな!」と断固言いまくった。

事務所内の時、路上の時、所長が布団で寝ている時。さまざまだ。



それから、一ヶ月くらい過ぎた。

俺は、給料の良い予備校の、講師採用試験に合格した。

本家庭教師事務所の登録を、解除することにして、所長に申し出た。

引き止められるかと思ったが、あっさり応じてくれた。

同時に、所長は俺に言ったのだ、「これで俺を解放してくれるよな?」と。

「何のことですか?」と俺が尋ねると、所長は言った、

「見るんだ、毎日のように、君を夢に。

君は私に、『新しい仕事はしない』『教務主任はやらない』と言いつつ追いかけてくる。

この事務所で、路上で、さらには私のマンションにまで。私が逃げても逃げても、君は追いかけて私に言う。

夢の中で追い詰められた気持ちになった。目を覚ますと汗びっしょりだ。

そんな夢を、わたしの長い休みの最終日から、ずっと見ている。ずっとだ…」




以上、思い出してみた。

あれって、心霊現象の一つだったのかな?

まあ、恥ずかしくもあるので、「INBOU」には書かないでおこう。


以上、「上司の呪い?或る心霊現象【怪談】」。

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※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

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旅行気分?江戸時代作品【書籍紹介】

テーマ : 怪談/ホラー
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幽霊?江戸時代の或る農村を夢に見る【怪談】

(本話の分量は、文庫本換算5ページ程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ)。



深夜2時。

俺(米津秀行・よねづひでゆき・29歳)は、食事テーブル兼仕事机に並ぶ空きビール缶を眺めた。

6缶。今日はビールだが、ワインの時は720mlボトルを赤・白1本ずつかロゼ2本だ。焼酎なら900mlを半分とビール1缶くらい。ウイスキーなら200ml角瓶1本とビールや酎ハイを2缶くらい。



好きなお酒の銘柄もあるが、毎度同じお酒をいただくわけではない。

近隣のスーパーやコンビニで、いただいたことのない銘柄を順々にいただくこともしている。

今日で丁度、手ごろな値段のものは、全種類制覇。

そんなアルコール生活を、大学卒業後から続けている。


(仕事は、予備校講師兼フリーライター。

儲かってはいないが、朝昼は食事を抜いて夕食は卵かけ納豆ご飯3食分にすれば、毎日たっぷりと飲め上に、休日は豪華な食事も可能。)



今のところ、身体に異常はない。

だが、こんなアルコール生活を、今後ずっと続けられるとも思えない。

全種類制覇はいい機会だ。

俺は、お酒は週一にしようと思った。



翌日。

仕事から帰宅して後が地獄のようだった。

従来、仕事の終わる一時間前くらいから渇きを感じつつ23時くらいに帰宅して、風呂上がりのアルコールの一気飲みで癒した。それは、生活における楽しみの一つでもあった。

風呂上りの俺は、代わりの癒しを求めて、冷蔵庫に残っていた炭酸(ウイスキーや焼酎を割っていた)を、一気飲みした。



翌日。

仕事中に、意識して水分を取った。

例えば、授業の終わるたびに、冷水器に走った。

帰宅後の苦しみは、昨日に比べると軽減した。



それから3日後。

お酒の無い日々に、慣れてきた気もする。

夕食後は、酔っていないために、フリーライターの仕事もちょこっと行った。晩酌をしていたら仕事なんてできないため、良い生活リズムであるとも思えた。

お酒は週一と思っていたものの、このまま禁酒に繋がるかもしれない。



そう感じつつ、俺は電気を消して、布団に入った。



ふと、俺は江戸時代の農村を、2Fくらいの空中に浮かんで、眺めている。夢の中だと感じた。なぜ江戸時代と言い切れるのか?それは夢の中でそう思ったからであって、論理的理由は無い。

あの田んぼやこの田んぼにて、夏の炎天下、たくさんの農民たちが汗水を流して草刈り等の作業をしている。

暑そうだ。宙に浮かぶ俺もまた、降り注ぐ直射日光が痛いほどだった。

農民たちを眺めていると、驚くことに気が付いた。作業をしている農民たちの中に、俺と同じ顔をしている者がいるのだ。



俺は、俺と同じ顔をしている農民のことが気になって、彼のもとへ舞い降りた。

彼から俺の姿は見えないよう(他の農民も同じく俺が見えていないよう)で、近づいても、俺の方を見てこない。何事も無いように農作業を続ける。

彼は、ギラギラ太陽光を、気力で跳ね返すように、よく働く。その代償のように、額は汗で光り輝いている。

彼を見ていると実に暑苦しくて、俺もまた、汗が噴き出してきた。



それから時間は過ぎた。

あちこちで作業は終了したよう。農民たちは片付けをはじめる。俺と同じ顔をした農民も、きりの良さげなところで作業をやめて、後片付けをして、家へだろう、歩き出す。

俺もまた、彼について行った。

やがて、彼は自身の家(だろう)に入る。俺も付いて入る。



家の中で、「俺」と「俺と同じ顔をした農民」は、二人っきりになった。

彼は、やかんに入った水を一気飲みした。そして、ふうっとため息もついた。

俺も喉を潤したい。冷えたビールなら最高だろう。

だけど、お酒は週一、もしくは今後も禁酒だ。夢の中だが、意思を強く持った。



ビールではなくて、水をいただこうと思い、彼が置いたやかんを手に取って、拝借した。

冷房無しの夏の室内に置いてあった水であり、ぬるい。のど越しはよくない。

それでも、渇きは落ち着いた。

俺は、一息ついた。



やかんを元の位置に置いた瞬間、視線を感じて、ゾクッとした。

恐る恐る顔を上げると、やかんを置いた向かいに立つ、「俺と同じ顔をした農民」と、目が合ったのだ。彼はずっと俺を見えていたのか?

それにしても、彼の表情は複雑だ。

何か大切なことを訴えているようにも見えるが、底理解をされ得ぬと悟っている呆れのようなものも感じる。悲しさも混ざっているように感じる。



耐えられなくなった俺は目を逸らそうとした。

だが、目が動かない。また、身体も全く動かない。

俺は、彼の強い視線に穴の開く程にさらされている。

苦しい…。



その辺りで、目を覚ました。



喉にはやかんのぬるい水の感触が残っていて、気持ちよくない。

さらに、身体はぐっしょり汗をかいている。寝間着のジャージは身体にまとわりついている。

不快だった。

また、ひどくビールを飲みたかった。コンビニに行こうか?いやダメだ。



俺は、キッチンへ行って、蛇口をひねった。調理器具のボールに、1リットル程も水をついで、一気に飲んだ。

飲んで数分。渇きは落ち着いた。

一息ついた。

危ない。お酒に手を出すところだった。



だけど、この夢は、はじまりに過ぎなかった。

不思議な事に、江戸時代の農村の夢、「俺と同じ顔をした農民」の夢を、翌日もさらに翌日も、毎日見るのだ。

日に日に、夢の中のギラギラ太陽、夢から目覚めた後の渇き、「俺と同じ顔をした農民」の悲しそうな表情等は、厳しくなった。

俺は、無意識にも、お酒の無い生活に苦しんでいるのか?



それでも、お酒に手を出さない日々は続いて、一週間経つ。週一くらいはお酒を飲もうと思っていたし、休日前の今日こそはその日だったかもしれない。

今日までの間、夢と渇きは繰り返されている。


ただ、お酒を抜いた日々にも慣れつつある。二日酔いのだるさもない。

一方で、お酒を飲まないからといって、必ずしも身体が調子良いものでもないし、仕事も必ずしもはかどるものではないこともわかってきた。


ただ、とりあえず、今日も飲まないつもりだ。俺は、電気を消して、布団に入った。



やはり、江戸時代の農村の夢を見た。


だが、場所はいつもと違う。田畑ではない。どこかの宴会会場だろうか?

広い畳の部屋で、たくさんの人たちが二列に並んで向かい合って座っている。各々の前に膳が据えられている。


上座に、いつもの夢のごとく「俺と同じ顔をした農民」を見つけた。

ただ、いつもの夢とは違ってひどく年をとっている。白髪頭だし、顔中しわくちゃだし、背筋はぐんにゃりと曲がっている。

どういうことだろうか?


そんな風景を、俺は、宙に浮いて眺めている。



それから、給仕のような役割の女性が数人、とっくりをおぼんに載せて入って来た。

俺はとっくりを見て、うれしくなってしまった。

それともう一つ気になることも。給仕のような役割をしている若い女性の一人に、俺は見覚えあった。

でも、具体的に誰だと思い出せない。う~ん。



各席に酒は運ばれて、リーダーのような青年の音頭で、宴会ははじまった。

「俺と同じ顔をした老人」も嬉しそうであり、酒の注がれた皿に手を伸ばした。

だけど、酒の入った皿を手に持って口に運んでいたその時、うめき出して皿を落とした。そのまま身体は畳に崩れてしまった。

周囲の人たちは慌てて「俺と同じ顔をした老人」に近づいて、呼びかけたり顔をたたいたりした。でも、「俺と同じ顔をした老人」の意識は戻らなかった。



その時、俺は目を覚ました。

目を覚ました俺は、いつもと違って渇きはない。ただ、何となく悲しみを感じた。また、何でだろう?見捨てられた気にもなった。

時計を見ると、朝の4時だ。よくわからないまま、俺は寝なおした。



翌日。

今日は、フリーライターの日だ。在宅で仕事をしていた。


夕方になって母から連絡は有った。97歳の祖母のことでだ。

祖母は、何か座り作業をしていると思ったらその体勢のまま寝ている。会話途中に寝る。食後は、決まって寝ている。


一日の内、何時間はっきりした頭でいるのかわからない祖母だけど、珍しくまとまった時間、はきはきとした口調で真剣に語ったそうだ。



あまりに真剣だったし、俺に関わることだったので、連絡してきたそう。


祖母の語るには以下の通りだ、

「この年になったから言うけど、秀行はあのひいじいさんに似ている、いや、瓜二つの顔をしている。

私がこの家に嫁いだ時、義理のひいじいさんはもう90歳を超えてたな。

毎日毎日酒が飲みたい酒が飲みたいって。貧乏百姓だったから飲めるわけもないのに、うるさい。

だけど年に何度か、村の祭りや結婚式等で酒を飲めた。それだけが楽しみのようにさあ、長生きをして。

村のお金で買ったお酒をバカみたいに飲だせいでな、家の者はみんな肩身狭くてさあ、何かのたびに余分にお金を納めたり、集まりのたびに嫌味を言われたり。

ある日、結婚式があった。長老だったひいじいさんは酒を飲みたくてウズウズしていた。そのせいで気持ちが高ぶったんだろうな、お酒を前にしてさあ飲むぞって、その時に、ぽっくり逝っちゃって。

死んじゃった時にはかわいそうには思ったけど、正直やれやれと思った。

ひいばあさんも、悲しんだけど、葬式の後になってぽろっと言ったんだ、家の恥のようなじいさんよりも長生きできてよかったって。

ここ一週間くらい、なぜかあのひいじいさんの夢を見ている。私に言ってくる、『子孫の酒を飲む姿を見ると安心するのに、わざと飲まない奴もおる。わしにも今生きる若い子孫たちにも会ったあんたの口から言え、酒を毎日飲めることのありがたさを。』なんて。死んでからもよくわからんことを言う」と。

そんなことを言ってから祖母はまた、いつものように寝たそうだ。


電話をしつつ俺は、祖母の顔を思い浮かべた。それで閃いた。

昨日の夢で、給仕のような役割をしていたあの若い女性って、祖母と似ている。



電話を終えて後、以上の話しを、こう解釈した(少々冗談混じりではある)。

夢に現れた俺と同じ顔をしていた農民とは、俺の先祖様。俺の夢を通じて、俺にお酒を飲めと伝えようとした上に、さらに祖母の夢を通じて俺の禁酒をやめさせようとした。

だとすると、俺が酒を飲むことによって、先祖様の供養になるのかもしれない?

明日も休日なので、今晩は飲んでみよう。



後、夕食。

のど越し良いビールや江戸時代から続く古い技法のにごり酒を並べた。

そして、先祖様を思いつつ、飲んだ。

爽快感や幸福感は、広がった。



後、歯を磨いて布団に入った。

ふと目覚めると、朝日がカーテンから差し込んでいた。

久しぶりの、爽やかな目覚めだった。

何の因果関係だろう、江戸時代の農村の夢も見なかった。


以上、「幽霊?江戸時代の或る農村を夢に見る【怪談】」。

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※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

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ゴリラ?或る田舎の目撃談【ファンタジー怪奇小説】

この話は、『土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】』の続きです。

或る田舎にて、奇妙な生物の目撃談をめぐる話です。果たして、人々の目から潜んで動くその生物は、人類の友か競争相手か?


(分量は文庫本換算6ページ程。以下の目次をクリック・タップするとジャンプできるのでしおりの代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:『土の記憶』を研究|ゴリラ?或る田舎の目撃談【ファンタジー怪奇小説】


俺(駿河台辰実・30歳・獣医師)は、旅行から帰宅して後も、「土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】」で体験したことをずっと気にしていた。

『土の記憶』とは何なのか?単なるうたた寝の夢だったのか?それにしては映像を鮮明に覚えているし、自由に動き回れた印象だ。

自分の精神を病んでしまったという不安が無いわけではないが、それよりも、自分の脳等に何が起こっていたのか、理科学的興味も有るのだ。

また、『土の記憶』で目撃したゴリラのような生物とINBOU(雑誌&サイト)の記述は、関連有るのだろうか?

そんなこんな俺は、仕事終わりや休日等に『土の記憶』について、研究のようなことをしていた。



精神・神経科医ならば何かアドバイスをもらえるかと思い至って、今、自宅マンション近くの精神神経科を訪れた。(予約の上でのこと。また、あくまでも、患者として受診する。)



名前を呼ばれて、診察室へ入った。

俺を診察するのは、葦笛明(あしぶえあきら)という精神神経科医だった。同い年くらいの男だ。

一通りの質問を受けて後に、俺は『土の記憶』での体験をしゃべった。



葦笛明は、『土の記憶』について、一通り聞いてくれた。

ただし、結論は出なかった。現場にいなかった以上は、何とも言えないと言う。まあ、当たり前か。



だが、気になる情報も得られた。

俺が、『土の記憶』について、俺以外にも似た症例は有るか?と尋ねると、あくまでも似ているだけで同じとは断定できないと前置きの上で、有ると言ったのだ。さらには、話しの内容まで似ているとも。

そして、精神科医として、話しをまとめてくれた、「同じような症例の有った者たちは、その後に精神的な不具合等は見られない。だから、駿河台さんも安心すれば良い。そのメカニズムについてはよくはわからない」と。

それから、葦笛明は俺の脈拍や瞳孔等精神神経作用のチェックもしたが、異常は見られないという。




第二章:その精神科医は知っている|ゴリラ?或る田舎の目撃談【ファンタジー怪奇小説】


俺(葦笛明・32歳・精神神経科医並びに臨床心理士)は、今、駿河台辰実という男の診察を終えた。

駿河台辰実の視線、挙動、瞳孔の様子、脈拍、問診内容などなど、どれをみても精神や神経の不具合は見当たらなかった。

ただ、駿河台辰実が俺に語った『土の記憶』というのは、以前に違う患者も語っていた。また、内容も一致している。そのことは奇妙に思った。

俺は、先程の診察時に、駿河台辰実が俺に述べた場面を思い出してみた―



駿河台辰実は言った、

「旅館で妙な男に出会った。土や石たちに刻まれた自然の作用を、映像や音等に変換したので、感じ取ってくれと言われた。

半信半疑だったが、妙な男の言うように目を瞑って周囲に意識を集中すると、大きな池とその畔の古い城のようなものの有る景色に立っていた。

城のような建造物に入ってうろうろしていたが、ゴトンという大きな音がしたため、音のした方に行くと、ゴリラのような生物が倒れていて側に毒物と思われるものが入った瓶が落ちていた。

また、一見ではゴリラと思った生物は、脚は長い上に額は広くて頭は大きいのでゴリラではない。

それから、『土の記憶』は覚めた」と。―



俺には、駿河台辰実に言っていないことが有る。

駿河台辰実は、ゴリラのような生物の登場にびっくりして『土の記憶』から覚めたようだが、違う患者に、その先まで見た者もいたのだ。



その患者が言うには、メスと子どもの「ゴリラのような生物」が登場したそうだ。

倒れている「ゴリラのような生物」を見て、メスと子どもは慌てて駆け寄った。

何を言っているかわからないけど、倒れている「ゴリラのような生物」に対し、ことばのようなものをかけて後に、感情を爆発させるように言動は制御不能となった。ヒトでいう、泣くという状態かもしれないと思ったそうだ。

しばらくすると、メスの「ゴリラのような生物」は、決意したような表情を作って感情を鎮めて、未だに感情的な子どもに何かを強く語った。子どもも何かを決意したようで、泣きながら頷いたそうだ。



その辺りまでのはず。俺の診察した患者で最も長く『土の記憶』にとどまったのは。



『土の記憶』とやらのメカニズム等を探る必要もあるが、それは精神神経科医師として日々務めている俺にはできない。

多摩文理大学の心理学研究室や生物学研究室にツテも有るので、研究依頼をすることにした。


第三章:謎のゴリラ?の研究|ゴリラ?或る田舎の目撃談【ファンタジー怪奇小説】


その日、俺(稲岡良仁・29歳・多摩文理大学考古学研究科講師)のもとに、多摩文理大学の心理学と生物学の合同チームから、電話が入った。

考古学者の俺のアドバイスが欲しかったようで、旧石器時代に文明が築かれていたなんてことはあるか?と聞かれた。

俺が応えようとすると矢継ぎ早に言う、「現生人つまりサピエンス種によるものでなくてヒト属祖先の文明或いはゴリラ属の進化した生物による文明なんて…。

私は信じてはいないけどね、精神神経学・心理学・生物学の研究で、オカルト雑誌まで探る必要も出てきたようで」と。



この質問に対して、俺(稲岡良仁)は、多摩文理大学の講師になる前ならば、笑いながら否定していた。

だが俺は、数年前、多摩文理大学図書館整理をさせられた時、ヒト祖先と分類するべきかゴリラ等類人猿と分類するべきか結論の出ていない化石についての、古いレポートを見つけた。

1900年代前半に、多摩文理大学に在籍した教授が書いたものだ。本人は、その化石の発見者でも研究者でもない。ただ、その化石を発見並びに研究した友人教授のことを、記してあるのだ。

「どこかの山でその化石を発見したらしい」「ゴリラの骨格との類似点も多いと述べていた」「化石だけでなくガラス片や金属の釣り針も見つけたそうだ」と書いてあった。

そこで俺は、化石を発見した教授の名を覚えて、その教授自身が作成した論文を探した。多摩文理大学博物館には、その教授の作成した多くの論文が所蔵されていた。なのに、その化石についてのものとなると、一切無い。意図的にレポートや論文を隠蔽しているような気もした。



今回の心理学生物学合同チームの質問と、俺(稲岡良仁)の思っている謎の化石のことは、何か関係が有るのだろうか?

応えに窮していた俺だが、「基本的にはあり得ない」とだけ伝えておいた。


第四章:或る小学生の目撃談|ゴリラ?或る田舎の目撃談【ファンタジー怪奇小説】


俺(駿河台辰実・30歳・獣医師)は、精神神経科医の診察を受けてから一か月程経つ。

未だ、『土の記憶』のメカニズムやゴリラのような謎の生物のことはまだ未解明だ。

それどころか、さらに解決すべき問題も生じたのだ。

今、仕事は昼休み。

休憩室で昼食を終えた俺は一人、ぼ~っと窓の外を眺めつつ、その新たなる問題について、想像を巡らせている。



二週間程前の仕事中に、ニホンザルによるちょっとした事件が起きたのだ。

俺の勤めている動物病院は、都内ではあっても都心からはとても遠い、田舎町に有る。スーパーや本屋等、生活に困らない程に店は揃っているものの、各店の規模は小さいし、店と店の間は車が必要な程に飛び飛び。また、街エリアから少し遠ざかるだけで、田畑の広がる農村。

農村では、田畑が野生動物に荒らされることも、時々ある。ニホンザルに関する事件が起こること自体は、珍しくはない。



ただし、その日のニホンザルの様子は違った。ヒトに対する警戒心を感じないどころか、ド派手な動きをしていた。

それも、一匹二匹ではない。また、一部のエリア限定ではない。白昼堂々、ニホンザルは、農村エリアにも街エリアにも同時に表れて、田畑やら商店を荒らしたのだ。

幸い、人への危害は、知る限り無かった。

街エリアの動物病院にいた俺も、外が騒がしいため窓から覗くと、ニホンザル数匹駆けているのが見えた。

街エリアに有る警察署には多数の通報があり、署内は軽いパニックとなった。出動やら対処やらに、遅れは出てしまった。

ニホンザルに接近された人の中に、大声を出したり威嚇したりした者もいたが、なぜか、恐れる様子は全く無かったそうだ。まるでサーカス団に所属するニホンザルサルのように、人に慣れている様子だったそう。

ニホンザルがこのような行動を取ったのは、過去にも現在にもこの時のみだった。



獣医師の俺は、ニホンザルの本事項に興味を持った。事件後、マスコミニュースや警察発表の情報等を調べてみた。

すると、ニホンザル襲来の日に奇妙な空き巣事件も起きていたのだ。

被害に遭ったのは、本屋だ。

ほとんど店主一人で切り盛りしている本屋だが、外が騒がしいために店主は店を出て、無人にしてしまった。その隙に、本が大量に盗まれたのだ。

本のジャンルは、物理学・数学・コンピューター・通信技術・語学関係の書物だった。



さらに、本屋の向かいの家には、風邪で学校を休んでいた7歳の小学生が居たようだ。

聞き込み調査に訪れた警察に対してその小学生は、「本屋からゴリラ人間が5人、大きな袋を背負って出てきた」と証言しているという。

小学生の両親は警察に対して、「幼い上に風邪で高熱でもあったので、証言を真に受けないでください」と言っているとのこと。



俺は今、窓の外をぼ~っと眺めつつ、小学生の証言を、『土の記憶』と重ねてしまった。

小学生は「ゴリラ人間」と表現している。俺は『土の記憶』で見た生物をゴリラであると見間違えた。

仮に小学生の言う「ゴリラ人間」と「俺が『土の記憶』で見た生物」を、同種の生物だとしよう。

また『土の記憶』を見せてくれた妙な男を信じるなら、『土の記憶』は過去地球において実際に有ったものだ。つまり『土の記憶』で見たゴリラのような生物は、過去地球に存在した生物となる。

となると、現在その子孫がこの地球上に存在する可能性も有る。小学生の言う「ゴリラ人間」の正体か?

でも、一般的にそんな生物は知られていない。そんな生物が存在するとしたら、一目につかない山奥だったりだろう。

それなら、山奥で暮らす中で、ニホンザルと接触して手なずけているなんてことも有り得るのかもしれない。

それと、『土の記憶』で見た生物は城作りや養殖もできる高知能生物だ。ならば、その子孫も同じような高知能である可能性は高くて、山に有る植物から薬を作る知識も有るかもしれない。興奮させる薬、判断力を鈍らせて従順にさせる薬を作って、ニホンザルに与えていたなら…。

そして、ニホンザルに騒ぎを起こさせる。その隙に、物理学・数学・コンピューター・通信技術・語学の本を盗んだ…。



そこまで想像して、俺は頭を振った。一人で笑った。SFじみている。



何にせよ、ニホンザルにも目立った健康被害報告はないようだ。獣医師としてもほっとしている。

それにしても旅館で出会ったあの男は、なぜ俺に『土の記憶』なんて見せた?いったい、俺に何を伝えたかった?


以上「ゴリラ?或る田舎の目撃談【ファンタジー怪奇小説】」。

続きは、「今年こそはあの川が出来る?奇妙な魚たち【幻想怪奇小説】」へ。

他の話は「怪談・怖い話・無料小説一覧」へ。

進化史については「子孫が異種になる?生物進化史1【コズミックホラーのきっかけに】」へ。



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深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】

この話は、覗き男が遠くに在るマンションの怪奇的秘密を知ってしまったために、毎週金曜日にお金を脅し取られる話です。

果たして、男が目撃した怪奇とは?



(分量は文庫本換算6ページ程ですが、以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:深夜の勤務中に|深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】


夏の金曜日の深夜2時。

俺(麦倉行・警察官・29歳)は、交番にて夜勤に臨んでいた。

デスクに座って、書類を作成している。



この交番は、市中心部の駅から一つ隣の駅の前に有る。

駅周辺は、住宅街だ。交番からの眺めは、中低層マンション、アパート、戸建て住宅が目立つ。それら合間に、小さな飲み屋やコンビニ、スーパー等もちらほら。

ただし、営業時間を終えて、シャッターの降りた店も多い。コンビニ等24時間営業の店の前のみ、明るく照らされている。

交番横の駅も、もう終電は出た。電気も消えていて、駅舎も線路も暗い。寝静まっているよう。

時々、外で楽しげな話し声がする。おそらく、終電を逃した者ただ。タクシーで、この寝床の街に降り立ったのだろう。しばらく陽気にしゃべっていても、すぐに自宅マンション等へと解散して、静まる。

街なので、全くシンとすることはないが、総じて静かだ。



そうした中。

「すいません、いいですか」と、若い男が、慌ただしく交番に駆け込んで来た。



見たところ、大学生か新人社会人か?

俺は、事務作業の手を止めて、立ち上がって応じる、「どうしました?」。

奥の部屋で休んでいた同僚も出てきたが、俺は同僚を制して、部屋で休んでいるよう、ジェスチャーした。



その男を、向かい合う椅子に座らせてから、俺も座り直した。

男はしゃべりだす、「どう言ったらいいか、或る女から金を脅し取られているんです」。


第二章:覗き男の話し①(遠くマンションで見た怪奇)|深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】


「女?失礼ですけど、どういうご関係の?」、俺は尋ねた。

男は、不都合なことを聞かれたように、挙動が不安定になりつつ、「う~ん、そもそも名前も知らない…」等と、奇妙なことを言う。

「失礼ですが、何を脅しネタにされているんでしょうか?」俺は尋ねた。

男は、観念した表情になって、しゃべりだす、


「どこからしゃべればいいんだろう、時系列のまましゃべります。

もともと、いけないのは俺なんです。

社会人になって、給料は、毎月何万円も余るようになった。

調子に乗って、キャバクラなんかに出入りするようになった。

でも、キャバクラは、仕事と割り切った感じの女の子ばかりに当たって、何ていうか、ドキドキは無い。恋愛感は無い。

その…彼女もいるんですけどね。こちらは慣れちゃってつまらないというか。



或る日の帰宅途中。

メチャクチャ好みのタイプの美女が、自身ののマンションだろう、入っていくのを見て…その…久しぶりにドキドキしたな。



でも、ナンパするのも怖いというか、勇気もないというか、モヤモヤして、それで…。

その美女の生活を覗けば、多少はモヤモヤも収まるかななんて…。



位置的に、俺の住んでいるアパートから、望遠鏡を使えば、この美女の部屋を覗けると思って…。

もちろん、犯罪はダメだってわかっていますからね。その上で『故意に覗くのでは無くて、自宅アパートの窓から望遠鏡の性能を調べるために使用してみた』という体裁です。」

男は、いったん話しを切る。警察官の俺に対して、「だから逮捕しませんよね」というアピールをしてくる。強気と恐れと、ごちゃまぜになった表情だ。

俺は男に対して、「なるほどね」とテキトーに頷いて、先を促す。



男は続ける、

「後日、仕事帰り、それなりに高級な望遠鏡を購入した。



それで、自宅アパートの窓から、望遠鏡をのぞいてみたんです。性能を試すべく。

遠くのマンションでも、窓のカーテンレールまではっきり見えた。すごいと思った。



それから今度は、自宅アパートの屋上に上った。

まずは、肉眼で周囲を見回す。

近隣にはアパートもマンションたくさん立っているけど、高くて10Fくらい。遠くを見通すのを、遮られることもなくて、隣駅や周辺中心街までもを見通せる。

市中心街には、高層マンションがいくつも立っていて、目立つ。



近くのアパートも遠くのマンションも、夜なので、窓や廊下に明かりが灯っている。

中心街の高層マンションも、地平線を意識する程に遠いけど、豆粒ほどの大きさくらいには、灯りは見える。

大抵、黄色や白の灯りがズラリと並んでいる。

だけど、中心街の高層マンションの一室に、明らかに青とわかる輝きが見えた。一か所だけ青。不自然で目立った。

俺は気になったので、青い光の方へ望遠鏡を向けて、覗いたんです」

男は、いったん間を置く。


第三章:覗き男の話し②(鳴りやまないインターホン)|深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】


男は、しゃべりを再開する、

「青い光に、望遠鏡を向けて覗く。

カーテンを閉めていないマンションの窓だと、わかった。

青いライトで部屋を照らしている上に、部屋中真っ青の壁だった。

さらに、色とりどりのライトが、艶めかしく移り変わっている。雰囲気は良かった。俺は、少し期待した。



しばらくすると、バスタオルを巻いただけのロン毛の女が現れた。

こちら側に向かって歩いて来たのだけど、首を左に向けていて、顔はよく捉えられない。左側にTVでも有るのかな?

窓まで来て立ち止まって、顔を向けていた方に身体も向けて、つまり右半身をこっちに向けて、ストレッチのようなものをはじめた。

髪艶は綺麗で、スラッとした体型。印象としては美女だ。

俺はバスタオルが取れないかと、期待した。



そして、右肩のストレッチの流れで、美女は窓につまりこっちに、顔を向けた。

その顔…やはり美女だった。一部を除いたらなら。

鷲のような鋭い目をして、肉食爬虫類のようにさけた口、そして、長い舌をしまいきれないようにベロンと出している。

俺は驚いて、思わず声をあげてしまった。また、望遠鏡も落としてしまった。」



男は、いったん話しを切る。恐ろしい記憶を思い出したのか、怯えた声に変わってしゃべり出す、

「俺は、望遠鏡を拾い上げて、再びそのマンションの部屋を見たんだ。



するとその美女は、俺が再び望遠鏡を覗くことを待っていたかのように、窓際に立っていた。望遠鏡越しに目が合った。そしてニッと笑った。それから、手招きしてきたんだ。

俺は、望遠鏡から顔を上げて、肉眼で美女のいるマンションの部屋の窓を見る。

豆粒程のぼんやりした光のみであって、もはや窓からの灯りか廊下の灯りかも判別できない。まして、女が立っているなんて、わからない。

俺はまた、望遠鏡で青い光を見る。

美女は変わらず、望遠鏡を通して俺と目を合わせてくる。そして手招きをする。

あの美女は、驚異的視力で俺の存在を捉えていた、そういうことだろ!



俺は、怖さに耐えられなくなって、屋上から自室に戻った。

部屋に戻ってからも、電気を付けられなかった。

あの美女の部屋は、俺の部屋の窓の方向に有る。屋上から引っ込んですぐに電気をつけたら、俺の部屋を教えているようなもんだろう。



俺は、カーテンを閉めた。

深夜2時を過ぎていたこともあり、布団をかぶった。

暗い部屋の中で、あの美女がカーテン越しにこの部屋を見ていると思うと、恐ろしくて、寝られなかった。


30分くらい経ったかな、いきなりインターホンが鳴った。

飛び上がる程にびっくりした。時計を見ると、3時前だった。

こんな時間に訪問者なんて、今まで無かった。あの美女ではないか?


放っていると、またインターホンは鳴った。

静まった真っ暗なアパートに、何度も何度もインターホンの電子音は響く。俺を、脅迫するようだった。

逃れられないと思った俺は、起きて玄関に行った。玄関ドアの覗き穴を、覗いた…。


やはり、さっき望遠鏡で見た美女が立っているんだ。

今度は、目の前ではっきり見た。やはり、鷲のような鋭い目、肉食爬虫類のような口と牙と長い舌だった」。

ここまで言って、男は怯えるように黙った。



「ドアを開けたんですか?」と、俺(麦倉行)は尋ねた。

「開けるわけないだろ、化け物みたいな相手なんだぞ」と、男は応えて、また続ける、



「開けたなら何をされるだろう。


どうしようもなく部屋の奥に戻ると、ふと財布が目についた。中を確かめると、2万円有った。『ごめんなさい』というメモを添えて、玄関ドアの隙間から、その美女に差し出した。


すると、その日はもう、インターホンは鳴らなかった」


「『その日は』ねえ」、俺は先読みして、繰り返した。


第四章:怪奇の正体?深夜に出会った美女|深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】


男は真剣な表情で続ける、「そう、その日だけじゃなかった」。



その後の男の話しを、まとめる。

その日から今日に至るまで、1か月くらい経っている。その美女は、毎週金曜日深夜に、インターホンを鳴らしに来る。お金を払うと帰る。合計10万円程を取られたようだ。

警察官である俺に、その美女に対して、もう来ないでくれと言ってほしい、とのこと。



さて、俺はどうすれば良い?

男は、覗きについては否定している。女は、「金を出せ」と述べたわけでもない。犯罪の取り締まりでなくて、トラブルの仲介になりそうだ。

ただ、男の話しは本当なのか?トンデモオカルトのようでもある。

男の話しは嘘で、警察をからかったり、何等かの目的でどこかに連れたい恐れもある。



俺は男に、女の存在を証明するものはないか?と尋ねる。

男は、玄関ドアの覗き穴越しに撮った、スマホの写真を見せてくる。

どの画像も、横顔ばかり。普通の女に見える。「証明にならない」と伝える。

その後のやり取りの結果、男が朝まで交番付近に居させてもらう、ということで話しはついた。



男は、朝まで俺の見える範囲をウロウロして、帰宅した。


その次の週も、その次の週も、毎週金曜日に男は交番に表れた。俺が居る時もあれば、居ない時もあった。

俺は、時々話しもした。男の住所もわかった。



ところが、一か月くらい経った頃、男は来なくなった。

解決したのだろうか?



気になった俺は、次の自転車パトロールの時に、男のアパートに行ってみた。たまたまだが、金曜日午前3時だった。

1Fに有る部屋前まで行くと、郵便受けに仲介業者の名前入りのガムテープが張ってあった。

どうやら、引っ越したようだ。



それから、パトロールの続きへとアパートを出る。その時、一人の女が入れ違いに入って行った。

髪艶や体型等、職業モデルのようにすら見える。

顔は…。

鷲のように鋭い目つきだ。マスクをしているので、口はわからない。美女には違いない。


吹き曝しの廊下なので、アパートの外からでも、廊下を歩く女を見通せる。俺は、自転車のロックを外したりしつつ、横眼で女を追う。

女は、男の部屋の前に立つ。

郵便受けにガムテープが貼ってあるのに気が付くと、Uターンしてアパートを出てきた。



俺は、出てきた女に、「その部屋の方に御用ですか?」と声をかけた。

女は立ち止まって、俺の方を向く。5mくらい距離は有るが、女は目を俺と目を合わせずに、俺の頭の上辺りに視線を向けて、目や首をきょろきょろしている。


「引っ越した見たいですね」、俺は続ける。

女は、一例して立ち去った。


その背を見送っていた俺だが、首の辺りがチクッとした。反射で払うと、ぷ~んという音がした。

蚊だ!おのれ!と思ったが、もう遅い。暗闇に紛れて、もう追えない。


諦めつつ、俺は、はっとした。

あの女、俺の周りを飛ぶ蚊を追って、きょろきょろしていた?


以上、「深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】」。

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