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星降る丘にて或る夏の深夜【怪談】

この話は、仕事帰りに星空を眺めていたひと時の、嬉しいけれど不気味な話です。


(分量は文庫本換算5P程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:仕事帰りの小旅行|星降る丘にて或る夏の深夜【怪談】


或る金曜日の仕事帰りのこと。俺(米津秀行・28歳)は、自宅アパートの建つ丘に巡らされた道たちの中で、アパート棟への階段道ではなくて、丘頂上の展望広場への土の道を歩いた。仕事帰りのちょっとした幻想旅行とでも呼ぼうか。またその旅行の中で、あの美女に会えるかもしれない期待もありつつ。

丘頂上へ向かうこの道は、自宅アパートへの道から分岐する。土の狭い道であり、丘の内で木々の茂るエリアに分け入るように伸びているため、左右には数えきれない程の木々が奥を見通せない程に思い思いに立っている。

そんな木々が、嵐の残していった生暖かい暴風で絶えずざわめいている。時折、突風のような強い風が吹くと、ザワザワ、ゴトンゴトンとまるで歓声のようだ。ボトッと木の実だろう落ちる音もする。

歩きつつ、空を見上げる。黒いシルエットとなっている木々の間から、紺色の夜空が、木々の動きに合わせて見え隠れする。満月もまたチラチラ覗ける。夜空は、金色に輝く月周囲から順に、紫~紺のグラデーションで、数限りない恒星たちが金粉のように散在している。灰色の千切れ雲は、暴風のためだろう、飛行機を目で追うようなスピードで流れている。



小道を歩いていると、木々は開けた。月の薄明りに照らされる平地、丘の頂上だ。俺は、高い空に包まれた。真上程の位置に月は浮かんでいて、その月から天球を辿るようにして正面へと視線をズラしていくと、地平線のさらにずっと先まで天球は広がる。天球のどこでも、星々は浮かんでいる。手前、地平線にも遠く及ばない小さな街が山に囲まれつつ、こじんまりと日常馴染みある灯りで輝いている。

宇宙の壮大さを感じることや宇宙の光を感じることは、人の作った文明社会にて生きる日常においてはあまり無い体験だ。目の前の風景は、日常から離れた気分にさせるものとも言える。これが、俺にとっての、心のプチ旅行の一つだ。

丘頂上は、整備されている公園エリアと、その外の整備されていないエリアとに、木の手すりによって区切られている。整備されていないエリアを見やると、草原が広がっていて、ところどころに木も立っており、生暖かい暴風によって、海の波ように靡いた。俺は、そちらへと、公園ベンチを通り過ぎて歩いて、木の手すりの前に立つ。

さて、プチ旅行のお伴の出番だ。コンビニで買った芋焼酎の炭酸割りの缶を鞄から取り出して、プシュッと言わせた。まずは一口目だ。生暖かい風の中で、冷えた炭酸は、喉に対して爽快な刺激をもたらした。アルコール度数7%。しばらくして、身体にはびりびりと違う刺激も走る。それから、手すりを焼酎缶置き場にして、草原や夜空やを眺めたりした。

その時、すぐ背後で足音が聞こえた。


第二章:或る美女|星降る丘にて或る夏の深夜【怪談】


びっくりして振り返ると、例の美女だった。長身で切れ長の目つきをした美女であり、30歳前後だろう。俺は、想定外のこの事態に、どんな言動を取るべきかわからずに、立ち尽くしてしまう。先週もその前の週の金曜日も、俺がこうして丘頂上の広場で一杯飲んでいると、いつの間にやら彼女が居る(まるで野生の獣が密かに様子を窺ってくるように)のだが、いつも遠目に見るくらいで、話したことは無い。

今、彼女は振り返った俺と目が合うと、ニコッと笑いかけてきた。俺はドキッとして、さらにどうするべきかもわからず、目を泳がせながら首で挨拶するのみだった。彼女は「金曜日によく会いますね」と言って来た。俺は「ええ」以外に応えられない。彼女は「いいですね。星空を見ながらお酒なんて」と言いつつ、手すりへ歩いて、手を置いて夜空を見上げる。

整理のつかない俺だが、星空を見上げる彼女の横顔を見ていると閃いた。そうだ、高校時代に憧れていた先輩に似た系統の顔つきだ。

彼女は見上げていた顔を俺に向ける。俺は、ドギマギしつつ、目をそらしてしまった。彼女は「焼酎をお好きなんですか?」と続ける。俺が彼女の顔を見直すと、彼女の目線は手すりに置いてある缶へと移っていた。「私は芋焼酎を得意ではないですけどね」と続ける。俺は「でも、この焼酎は臭みは抑えられているんですよ。マスカットのような香りで、飲みやすいですよ」と、売り場に書いてあったことを述べた。彼女は「へー。今度私も挑戦してみようかな」なんて言う。



それから、いつの間にか俺のドギマギは薄れて、気づくと意味のないことを話していた。話していると、彼女は俺に何度かボディタッチもしてきた。そのたびに思わずドキッとして、心地の良い息苦しさも沸いた。

話しのきりの良いところで、彼女はニコッと切れ長の目と口元を崩して「それじゃあね」と言って、行ってしまった。俺は遠のく彼女の背中を、見送っていた。

年上美女や人妻に憧れるものの、今のところそのような女性とは付き合ったことは無い。今、そんな女性と二人っきりで話しをしたにも関わらず、ナンパ一つできなかったことを後悔してしまう。これからも憧れを果たせずに過ごすんだろうな。彼女は公園出入口の小道へと足を踏み入れて、姿は見えなくなった。

それから俺は、芋焼酎缶を飲み干して、アパートへと帰宅した。


第三章:妙な看板|星降る丘にて或る夏の深夜【怪談】


翌日。俺は小説家を目指してもいるのだが、六時間程小説を書いた。理科学が原子分子を発見したことによって従来だと幽霊の仕業と思われていた現象の一つを解決するが、一方で原子分子自体が新たな謎ともなり、そんな謎に幽霊だの怪奇だのを見出すために、人と幽霊の関係はいつまで経っても切れないなんて内容だ。

小説を書いたり家事をしたりしている内に、いつの間にか夕方になっていた。俺は夕食の材料を調達するため、昨日のコンビニかその近くのスーパーへと玄関を出た。

丘斜面の階段を降りていると、丘頂上への小道との合流点が見えて来た。そこに作業服を着た人が数人、作業をしているのが見える。抱えていた看板を置く者やらその看板を倒れないよう立っている木の幹に針金を巻き付けて固定する者やら指示を出す者。

俺は歩きながら、看板の文字を目で追った。「狐に注意」とある。



俺は一人の作業員の隣で立ち止まり、「狐の目撃でもありましたか?」と尋ねる。

その作業員は応える、「丘頂上に公園があるだろ?そこのベンチに座ってスマホをいじっていた男が忍び寄って来た狐にポケットの財布をひっぱり出されたって。男が気づいた時には、もう狐は財布を咥えて逃げて行ったけれど、男は追いつけないまでも逃げた方に歩いていくと、道路に財布は落ちていたんだって。カード等いろいろと無事だったけど、おさつは抜き取られていたそう」と。俺は頷きながら聞いていたが作業員は付け加えて、「狐さんがお金を使うのかね?」と笑った。

俺が「この丘には野生動物も多いみたいですけど、人に近づくなんて珍しいですね」と言うと、作業員は「確かにな。野生動物と人間の距離が近くなったとしたら、良くないね」と。

それから俺は、キリのよいところで話しを切り上げて、買い物へと階段を降りた。


第四章:財布の中身|星降る丘にて或る夏の深夜【怪談】


スーパーでの買い物。店内を、いつも通り入口からコの字に回る。野菜のコーナーではピーマンが目に付いたが、まだアパートに残っている。魚コーナーで戻りガツオの刺身、肉のコーナーでウインナー、それからお酒のコーナーでは現在芋焼酎コーナーを片っ端から制覇しようとしているため前回の隣のもの、惣菜コーナーでは大根や胡瓜の糠漬け、その横のパンコーナーで甘栗デニッシュ、その近くに特設で置いて有ったご当地もののカップラーメンなどなど、目についたものを籠に入れた。ざっと、3000円。財布には一万円札が有るはず。昨日ATMで引き出した。

そのままレジへ行って、籠を店員に預ける。ピッピと商品がスキャンされるのを横目に、俺は一万円札を取り出すつもりで、財布を開いた。ところが、お札が全く無かった。俺は一瞬で、疑問と焦りで頭がいっぱいになった。その内にスキャンが終わり、「2888円です」と店員。

俺はとりあえず、「すいません。ATMってありますか?」と尋ねる。「お店を出て左手の駐輪場の駐輪場の前に有ります。お戻りになったらサービスカウンターにてお支払いをお願いします」と店員。

俺は、店を出て駐輪場へ歩いた。歩きつつ、昨日一万円札を引き出したシーンから今に至るまでにお金を使った場面はないかと、記憶を辿ってみた。



コンビニで芋焼酎を買った時、一万円札は有った。200円の芋焼酎を買うのに一万円札で支払いたくないと思いつつ、小銭が有ったことでほっとしたのも覚えている。

その後、丘頂上の公園で切れ長目つきの女としゃべった。そこまで思い至った時、はっとした。あの切れ長目つきの女、何度か俺にボディタッチして来た。すりだったのでは?それから、切れ長目つきの女と話して以降から今に至るまでの記憶を辿っても、やはり一万円札を用いた記憶はない。やはりあのボディタッチの時にすられたか?そう思ったものの、確証はない。有るはずの一万円札が無いという大損な気持ちだけが残った。

それにしても。もしも切れ長目つきの女がすりだとしたら、先程の作業員の話し、狐が財布を奪ったという話しも連想されてしまう。すりが多発しているのか?思わず苦笑してしまう。だが、奇妙なことを閃いて苦笑も自然と収まる。これは妙な偶然なのだろうか?切れ長目つきの女が狐さんの化けた姿であったならどうだ?思えば、美女の方から声を駆けられるシチュエーションを都合が良すぎるとも感じたんだ。

そこまで考えて首を振った。ホラー小説の書きすぎだ。ATMを見つけた俺は、そちらへと速足に向かった。


以上「星降る丘にて或る夏の深夜【怪談】」。



※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

※本ブログの記事は全て著作権によって保護されておりますことへのご理解をお願い申し上げます。


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テーマ : 怪談/ホラー
ジャンル : 小説・文学

追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】

この話は、「奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】」の続きです。

さて、教授は本物か偽物か?偽物だとすれば、何のために大学に潜り込んで来たのか?この話は、或る化石をめぐって、深夜の大学博物館での怪奇的な追跡劇(コズミックホラー)です。


(分量は文庫本換算13ページ程。以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:教授の偽物?|追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】


俺(稲岡良仁・29歳・多摩文理大学講師)は一人、自分の研究室のデスクに座っている。

もう夕方だ。

3Fに有るこの研究室の窓から、オレンジの夕日が多摩の街を遠くまで染めているのが見える。

手前には広い大学キャンパス各棟、その向こうに中小企業のビルの混ざる住宅街、その向こうに街中心部の高層ビルやデパート等の建物。みんな、夕日の柔らかいオレンジ色に染まっている。



徐々に世界は静まる時間帯に。だが、今日の俺の戦いは、これから始まる。

国領教授は、夜中に自身の研究室に籠って、何をしているのか?今日は俺も帰宅をせずに、こっそりと国領教授の夜中の行動を突き止めるという、強硬策に出る。



国領教授は、戻ってきた日以来、様子はおかしい(「奇妙な化石?或る山奥【コズミックホラー小説】」のこと)。

国領教授もまた、隠遁生活者同様、表情はぎこちなくて、歩くたびにゴトゴト音をさせるようになっていた。会話もかみ合わない。帰宅もせずに、自身の研究室で寝泊まりにしているようだ。

事務局に国領教授の授業を尋ねたところ、しばらく休講だそうだ。国領教授の奥さんに連絡をしたところ、研究のためしばらく帰宅しないと言っているそうだ。

果たして、国領教授は、研究室に籠って何をしているのだろう?大学に人のほとんどいない夜中にはどうしているのか?

そんな疑問を解決するためにも、俺は今日、俺の研究室に泊まって、同フロアの研究室に籠る国領教授の夜以降の行動等、探ろうと思っているのだ。



ただ、俺は隠遁生活者の家での体験(「奇妙な化石?或る山奥【コズミックホラー小説】」のこと)からして、今本大学にいる国領教授を、本物だとは思っていない。「国領教授に扮した何者か偽物」へとすり替わっていると思っている。



夕方になった今だが、「国領教授に扮した何者か偽物」に、特に動きはない。


第二章:追跡劇|追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】


①動き出した教授


それから時間は過ぎた。俺は、教授の動きがないか、廊下の音を探りつつ、デスクに座って論文の案を考えたりしていた。

夕日は沈み、すっかりと夜に。



22時を過ぎる。

俺の居る大学研究室の窓から見えるキャンパスの景色に、人の姿はほとんどない。時々、電灯の下でダンス練習をしている学生等がいたり、どこぞの部屋で活動を終えた一団が下校する場面も有るくらい。



23時。

もう、サークル等の活動をしている学生も見えなくなる。



そして0時。

廊下でゴトゴトと音がしてきた。「国領教授に扮した何者か偽物」の歩く音だ。俺に、にわかに緊張感が生じた。

俺は椅子から立ち上がって、ドアの前に立って耳を澄ます。ゴトゴトという音は、俺の研究室の前を通り過ぎていったようだ。

通り過ぎたことを確認してから、俺はそっとドアを開けた。廊下には、遠くでゴトゴトという音は響いている。



俺は研究室を出て、その音を追った。

足音を立てないように慎重に、でも「国領教授に扮した何者か偽物」に追いつくために、素早く、廊下を歩いた。

ゴトゴトという音は、それ程速いペースでもなくて、また歩幅も大きくはないようだ。ゴトゴトの音が大きくなっていることで、追いついていると感じた。

廊下の曲がり角のたび、その曲がり角を曲がった先の廊下を「国領教授に扮した何者か偽物」は歩いてはいないか先を見通して、進んだ。

そして、一つの曲がり角からそっと先を見通すと、その廊下をずっと先の方で、「国領教授に扮した何者か偽物」を見た。こちらに背を向けて、ゴトゴト言わせつつ、さらに奥へと歩いていた。



俺は、追うスピードを落とした。

曲がり角や廊下の柱等に隠れつつ、「国領教授に扮した何者か偽物」との距離を保って、追跡を続けた。


②向かう先は?


「国領教授に扮した何者か偽物」が高性能な機械であるなら、ちょっとした物音にだって気づく恐れも有る。また、音以外にも、何ら刺激に反応するセンサーを搭載しているかもしれない。例えば、俺が後ろから追うことで生じる空気の揺らぎを感知する機能も有ったり?

分からない以上は、下手な動きはできない。その背を見ながら、緊張感は増した。



それから、「国領教授に扮した何者か偽物」は大学研究棟を出た。

途中で立ち止まったりきょろきょろしたりせず、真っ直ぐに大学キャンパス内を歩く。

おそらく、目的地ははっきりしているのだろう。

俺も大学研究棟を出て、キャンパス内にところどころそびえるイチョウの木に隠れつつ、後ろを追った。



そして「国領教授に扮した何者か偽物」は、大学博物館に到着。表玄関前に立つ。

俺はイチョウの木に隠れて、「国領教授に扮した何者か偽物」は何をするのだろうかと眺めていた。

すると「国領教授に扮した何者か偽物」は、戸締りをしてあるはずの大学博物館表玄関スライド式自動ドアを、手動で押し開けて、中に入って行った。



俺は、ゴトゴト言う音が遠のきそうになった辺りで、イチョウの木を飛び出して、玄関ドアの開いている大学博物館へとそっと入った。


③博物館に何がある?


大学博物館は、表玄関を入ると、真っすぐに廊下は続く。その廊下の先で、ゴトゴトという音は響いていた。

営業時間外でなおかつ夜中である大学博物館内は、当然暗い。基本は暗闇の世界であって、非常口を示す緑の灯りの周囲や消火器の置いてある赤い灯りの周囲のみ、壁や床等は、ぼんやりと浮いている。

ゴトゴト音のする前方に目を凝らしも、「国領教授に扮した何者か偽物」の背中は見えずに、暗闇が口を開けているのみだった。



俺は、日常よく大学博物館を訪れるので、暗くても、どこに何があるか、見当は立てられる。

俺の記憶、非常口等の灯り、時々スマホの灯りを駆使しつつ、「国領教授に扮した何者か偽物」を追った。



しばらくして、ゴトゴト響く足音は、遮られるように減少した。

おそらく、どこかの部屋に入ったのだろう。

では、どの部屋か?俺は記憶を頼る。廊下には、1F展示室への第一入口と第二入口が並ぶ(扉無し)。その先には、階段とスタッフエリアの出入口。

階段を上っている音ではないし、スタッフエリアのドアを開けると開閉音がするはず。「国領教授に扮した何者か偽物」は、おそらく、1Fの展示室に入ったのだろう。

1F展示室は、人類史のフロアだ。展示室や展示室奥に有る収蔵庫に有るものと言えば、人類史関係の史料だ。



やがて、俺は、1F展示室入口にたどり着いた。

展示室入口をくぐると、室内ではゴトゴトという音が響いている。やはりこの1F展示室にいる。



俺は、非常口等の灯りやスマホの灯りを利用しながら、暗い展示室内で、ゴトゴト言う足音を追った。

展示物は、一列に整列配置してある場所も有れば、入り組んで配置してある場所も有る。不用意に歩いていると、展示物にぶつかる恐れも有る。

俺は、スマホの弱い灯りを、床に照らしつつ、慎重に歩いた。ぼんやりと浮かぶ床の端に、猿人復元模型の毛むくじゃらの脚や化石復元模型の白い脚等も浮かんできた。



身長に歩いていると、ふと「国領教授に扮した何者か偽物」の動きで気になることが有った。

俺の進む速さは、暗さや展示物にぶつからないようにとの慎重さ等から、遅くなった。一方、「国領教授に扮した何者か偽物」のゴトゴト言う足音は、迷いもなく一定だった。

それと、「国領教授に扮した何者か偽物」が懐中電灯でも使用していれば、周囲は灯りに照らされて俺にもわかるはずだけど、室内はどこも暗闇だ。

おそらく、「国領教授に扮した何者か偽物」は、暗闇でもものを捉えられるのだろう。

となると、俺に見通せない暗闇から、「国領教授に扮した何者か偽物」は俺を見通せるということか?。

俺の中で、より一層緊張感は高まった。



ごちゃごちゃ思いながら進んでいると、ふと、展示されている旧人の復元模型に触れてしまった。復元模型は揺れる。俺は、さっと血の気が引く思いだった。

ただ目立った音は立っていないし、ゴトゴトいう音はこちらに気にするようなそぶりもなく一定のままだ。



やがて、ゴトゴトいう足音は止まった。

どこに立ち止まった?暗くて見えないが、今俺のいる所から推測すると、1F隅に有る、収蔵庫扉の前だ。

しばらくすると、収蔵庫扉の、特徴的な開閉音がする。

やはり。

でもなぜ、「国領教授に扮した何者か偽物」は収蔵庫に入った?また、なぜ施錠されていない?



疑問に思いつつも、俺は展示物の間を慎重に歩いて、俺もまた収蔵庫の扉の前に立った。


④収蔵庫に何がある?


俺は、収蔵庫の扉に耳を圧し当てた。

金属製のドアに隔てられた向こうで、ゴトゴトいう音が、一定間隔で聞こえる。やはり、「国領教授に扮した何者か偽物」は、収蔵庫内にいた。

収蔵庫内にも、人類史の史料は多々有る。



ただ、俺は、今は収蔵庫に入らないことにした。

収蔵庫扉は、開閉すると特徴的な音を出す。また、収蔵庫内は、棚が何通りにもズラリと並んでいる上に、歩くスペースは非常に狭い。音で気づかれるリスクは高い。

そして、収蔵庫の出入り口はここだけである。「国領教授に扮した何者か偽物」はまた、ここから出てくるはず。



俺は、収蔵庫出入口から斜め前方に少し離れた所に有る展示物に隠れて、出てくるのを待った。待つのみであって、しばし休憩のように、ため息をついた。



息を入れなおし、扉が有るはずの闇をじっと見ていると、ドアノブを回すガチャガチャという音がした。

俺に、緊張感が戻る。身体全てを、展示物に隠れるように潜んだ。

続いて、開く時のきしむ音、閉まった時のガチャンという大きな音が、展示室に響く。

そして、ゴトゴトという足音が、規則的に響きはじめる。

俺は、息すらを止めた。

ゴトゴトいう音が、展示物越しに、俺の目の前を通り過ぎた。

音が一定程度遠のくと、俺は展示物からそろりと飛び出して、音の後を追った。



ゴトゴトいう音は、おそらく、展示室の出入り口に向かっている。来た道を戻っているのだろう。

俺は、来たとき同様、暗闇を記憶と非常灯等の灯りやスマホの灯りを駆使して手探りに進む。

そして、もうすぐ展示室の出入り口というところまで来た。



展示室出入り口を入ってすぐの壁には、非常灯の灯りが設置されている。

俺の居る所から展示室出入口は、非常灯に照らされた薄暗闇の中に、より暗い廊下への口を開けているようにも見える。

薄暗闇に、「国領教授に扮した何者か偽物」の姿は、浮かび上がった。腕に何かを抱えている。おそらく、収蔵庫から持ちだしたものだろう。

そのまま、暗闇の口へと入っていく。



俺は、展示物に隠れながら進むが、「国領教授に扮した何者か偽物」の足音は、壁越しになってボリュームを落とす。もう、部屋を出たようだ。

それなら、俺はもう、隠れる必要はない。展示物の影からそっと飛び出して、出入口へ向かった。



展示室の出入口は、非常灯が薄っすらと照らしている。

俺は、少し気を抜いてしまった。また、手に持っていたスマホを、ポケットに入れつつ歩いた。

その時だ。

歩くために出した脚だが、つま先を通じて脚に重くて固い感触は有って、前進を妨げられたと感じた。同時に「コーン」と金属音は響いて後に、ドタン!と大きな音となった。

消火器を蹴飛ばしてしまったのだった。

不覚だった。非常灯の灯りを、歩くためにとばかりに意識していたため、非常灯の下に消火器が在ることを忘れていた。

暗闇と静寂を乱すような大きな音とともに、俺の血の気は引いた。気づかれたか?



展示室の外で響いていたゴトンゴトンという音は、立ち止まった。

一瞬の間が有って後、ゴトンゴトンという音はまた始まる。足音は、こちらに向かって大きくなっていないだろうか?

混乱しそうな気持を無理やり抑えて、展示室内の奥へと隠れに戻る。


⑤脱出できる?


俺は、展示室奥へと手探りしつつ速足で向かう。

適当なところで、展示物の影にしゃがみ、膝歩きやハイハイをしつつ進んだ。

ゴトンゴトンという音は、展示室内に響きだす。「国領教授に扮した何者か偽物」は、展示室に戻ってきた。



俺は展示室の中程まで来た。ゴトゴトという音は規則的に響く。

俺は、額から汗が流れるのを感じた。見つかってしまうのか?



俺は、展示物の影からそっと、出入口辺りを見る。「国領教授に扮した何者か偽物」は、非常灯に浮かび上がる。また、出入口辺りをウロウロしている。



ただ、緊張感の中で俺のセンス等は研ぎ澄まされたのか、不自然なことにも気が付いた。

もし、「国領教授に扮した何者か偽物」は俺が立てた消火器の音で慌てて戻って来たとして、その割にペースが変わっていない。

もっと思うと、研究棟の廊下を歩く音も大学構内を博物館へと歩く時も、ペースは同じだったと思う。

それだけでは確証を持てないものの、歩くスピードに限界があるのではないか?

俺は、その可能性に賭けて、一つの作戦に出ることにした。



「国領教授に扮した何者か偽物」は、速さに自信が無いのなら、展示室の出入口辺りで俺を待ち構えるだろう。俺を追って展示室の奥まで来れば、速さに勝る俺は、出入口へとダッシュで脱出できる。

とは言え、「国領教授に扮した何者か偽物」は、出入り口付近で待ち構える作戦だと、時間的な限界が有る。夜が明ければ、出勤者も有るのだから。

俺は、忍耐作戦か速さ作戦で、脱出できるはずだ。



俺は、展示室の中央くらいまで来た。なおも展示物の影を膝立ちやハイハイで移動する。同時に、出入口つまり脱出口の位置も確認していた。

ゴトゴトという足音は、展示室に入ってから、動いたり止まったりしている。見当たらない俺を探して、展示物の前後を確認でもしているのだろう。俺からは、遠い位置だ。出入口からも、少しずつ離れていると思う。



それから、目論見通り、俺の居る位置の方が「国領教授に扮した何者か偽物」のゴトゴトという位置よりも、展示室出入口に近くなったと思った。

俺は、展示物の影で膝歩きやハイハイをしつつ、より展示室出入口へと近づいた。

そして、展示室出入口まで一直線のところまで来た。

脱出の時だ。俺は立ち上がった。展示室出入り口に通じる通路へと、飛び出した。

俺の中で緊張感よりも希望が目立っている。



俺が立ち上がると、「国領教授に扮した何者か偽物」は俺に気が付いたようで、暗闇の中でゴトゴトという音が規則的に響きだす。こちらへと向かっているのだろう。

だけど、俺の予想通りだ、俺の方が脚は速い。俺は追いつかれることもなく展示室を出た。



展示室を出ると、廊下の先には、博物館玄関のガラス扉が、構内の灯りで薄明るく闇に浮かんでいる。

俺は、そちらを目指して走った。

また、玄関には、ガラス扉越しに、守衛がこちらに背を向けて立っている。

おそらく、校内を夜警していた守衛は、博物館の玄関が開いていることを不審に思って、警察に通報をして、到着を待っているのだろう。



俺は、ついに、博物館玄関を飛び出した。

そのまま守衛に言った、「不審な者が博物館内にいる」と。

だけど、守衛のその顔…。

隠遁生活者や国領教授と同じだった。ぎこちない表情なのだ。

ぎこちない表情に気づいた俺は、後ずさりをしてしまった。そんな俺に、守衛か守衛に扮した何者か偽物は、ゴトゴト言わせながら俺に向かって歩いて近づいてきた。

俺は、逃れるべく大学キャンパス内を走った。



走りながら思った。なる程と。

博物館が施錠されていないから「国領教授に扮した何者か偽物」は簡単に侵入をできたが、それは守衛等セキュリティ関係者まで「扮した何者か偽物」にされてしまったからだろう。



それでも、「守衛に扮した何者か偽物」も、そんなに移動スピードは速くない。

俺は、追いつかれることもなくて、大学を飛び出して人気のない住宅街を抜けて夜中であれど人のちらほら往来している街までたどり着いた。

往来する者みんな、表情は人間的であり、歩くたびにゴトゴト言わない。

それを見て、俺は、安心の一息をついた。



それから、終電は出ていたので、街に有るホテルに泊まった。


第三章:今まで何をしていた?戻って来た教授|追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】


それから、俺の泊まっているホテルの一室に、何者か押しかけてくることもなく、特に変わったことは起きないまま、朝を迎えた。



とりあえず、大学に行ってみよう。職員も学生もいるので、「扮した何者か偽物」も、派手には動けないだろう。

それでも、当然ながら、俺は警戒心を強く持って出勤した。

まずは大学の校門で、次に大学研究棟に入る時、自分の大学研究室に入る時。それぞれ、強く警戒心を持った。でも、特に変わったことは起きなかった。



俺は、自分の大学研究室のデスクに座って、今後の方針を練った。

「国領教授に扮した何者か偽物」は収蔵庫から何を持ちだしたのか?それを知れば敵の目的もわかるかもしれない。

でも、収蔵庫に近づくことは、さすがにできない。大学博物館の守衛は怪しいからな。では警察に連絡するか?警察にはどう説明する?

また、俺の身に、とりあえず一晩は何も起きていない。断定は早計だが、敵は俺に危害を加えるつもりなら無いと見て良いのか?



そんなことを考えていると、研究室のドアをノックする音が響いた。



返事をして、デスクを立って、迎えのためにドアを開ける。

そこ立って居たのは、国領教授だった。

俺は一瞬、「国領教授に扮した何者か偽物」が現れたと思ってびっくりしたけど、教授の表情は人間的なものに戻っていたし、歩いてもゴトゴトいわない。



研究室に招き入れると、俺は国領教授からいろいろとお礼を言われた。奥さんに、俺が隠遁生活者宅から戻って来ない国領教授のためにいろいろとしてくれたと聞かされたそう。また、教授は「自分は今日まで山で遭難していた」とも言う。

俺はわざと教授に尋ねた、「何日も前から研究室に居たじゃないですか?」と。

国領教授は首をかしげて、「妻も私を『大学の研究室に籠っている』と言っていた。何のことかわからない」と言う。

あくまでも国領教授は、隠遁生活者とともに、昨日まで深い森の中を遭難していたのだと言う。

するとつまり、10日以上も彷徨ったことになる。「その割には元気そうですね」と俺が言うと、国領教授自身もそのことが引っかかっているらしい。



国領教授は自身の記憶を辿りつつ、真剣な深い表情となって言った。

「森を彷徨っていた時の記憶は、飛び飛びだ。

何度か、土の中に引っ張り込まれた気もする。

でもそのたびに記憶が飛んでいるんだ。寝ていたのかな。目覚めると、土の中ではなくて相変わらず森に居る。そしてなぜか、疲れは飛んでいる。何かを食べた気もしないのだけれど、栄養は足りていたように思う」と。また、一緒に居た隠遁生活者も同じことを言っているとのこと。



何にせよ、教授はこうして戻って来たのなら、教授をロボットのようなものとすり替えた何者かの目的は、達成されたのかもしれない。

とすると、俺を襲う者もいないのではないか?

俺は、恐る恐るではあるが博物館収蔵庫に行ってみた。


第四章:冒険の血脈|追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】


①収蔵庫から消えていたもの


博物館収蔵庫に行ってから、変わったことはないかと探ってみた。

すると一か所、棚は空になっている。

ここには何があったかとデータベースを見たものの、消去されていた。



俺は、自分の記憶を頼りに思い出した。この辺りなら化石だったと思う。モグラのような化石だったような、もっと大きい化石だったような。

ざっくりとは、博物館収蔵庫には研究が進展せずに忘れ去られていたようなものも多いけれど、その一つだった気がする。



俺は、モグラのような化石だのとデータベースを探ったり、データベース化をされていない古いレポートを眺めて、モグラのような何らの記述はないか探った。

徐々に、40年前に定年退職をした小岡という教授が、モグラのような腕をした何者かの化石の研究をしていたことは浮かび上がる。

小岡本人の論文ではなくて、周辺に居た教授等のレポート等を読むことでわかった。

その内容は奇妙であって、モグラのような腕をした類人猿の可能性も有る等とあった。

でも、当の小岡本人のレポートや論文は見当たらなかった。もしかすると、「国領教授に扮した何者か偽物」に持ち出されたのかもしれない。

俺は今日はこのくらいにしようと、立ち上がった。


②隠遁生活者との対談


それから何日かして、俺は、隠遁生活者の家にも行ってみた。

家へのアクセスは手間だなと思いつつ、多摩地方の山中を延々と歩いた。そして、小道脇の、小さな階段を見つけた。

階段を上る前に、小道をはさんで向かいのガードレール向こうをみた。森林は茂って、昼間でも薄暗く、遠くまで見通せない。

以前、この森林から奇妙な生物が這い上がってきたのを思い出してみた(「奇妙な化石?或る山奥【コズミックホラー小説】」のこと)。

目の前に広がる森林は、至って静かだった。話し声のようなものもない。



俺は、ガードレールの奥への視線を階段に戻して、上った。

上りつつ、ピンと来た。そうだ、俺が以前見た奇妙な生物の腕、モグラのような腕だった。



その奇怪な一致に、頭は整理しきれずにいた。整理できないまま、玄関にたどりつく。

家の玄関をノックすると、返事の後に隠遁生活者は出てきた。

以前とは違い、もとの人間的表情に戻っていた。歩いても、ゴトゴト音はしない。



隠遁生活者は、俺を応接室のようなところに招き入れた。テーブルに座ると冷たいお茶を運んで来てくれた。

「稲岡君、心配して来てくれたのか?ここ10日間くらい山を遭難していたみたいでね」、隠遁生活者は言った。

俺は、「10日間山を遭難していたのは変ですね。俺は何日か前にこの家に訪れてあなたと会いましたよ」と、わざと言ってみた。

隠遁生活者は、「そうなのか?国領教授も研究室に居たことになっているらしいよね。でも、何のことかわからないんだ」と言う。



このまま話しても進展しないだろうから俺は話題を変えて、「教授に見せたかった化石って何でしょうか?」と尋ねた。

隠遁生活者は至って真面目な表情になって言う、「モグラのような爪をした、類人猿のような化石だった。でも、遭難して戻ってきた時には、どこかに消えた」と。表情は、悔しさを加える。

俺は、収蔵庫のことを思い出す。ここでもまた、モグラのような化石が登場するなんて。



この小屋付近にモグラのような腕をした生物がいること、遭難、「扮した何者か偽物」のモグラのような化石盗み。ここまでの流れからして、隠遁生活者が一人でこの山奥に暮らすのは、危険だろうと思った。


俺は切り出す、

「東(あづま・隠遁生活者)さん、危険じゃないですか?一人でこんな山中で暮らすなんて」、俺は言った。

隠遁生活者はふっと笑ってから、「大丈夫大丈夫」と意に介さないように言った。

俺は強めに言った、「変な生物も見たんですよ」と。

言うと、隠遁生活者の表情は真剣に変わった。もしかしたら、隠遁生活者は謎の生物のことを知っているのかもしれない。



俺は、「奥さんだって、一人で山中に暮らす旦那に怒っているんじゃ」と続けた。

隠遁生活者は口を開いた、「そんなことはない。自由にしていいって言われている」。

隠遁生活者は続ける、「わたしは婿養子なんだけど、婿入りの代わりに、自由に考古学の研究をさせてくれと頼んだ。きちんと働きながらなら構わないよと言ってもらった」と答える。

「この深い山中で、何を研究しようというのですか?」、俺は探るように尋ねた。

隠遁生活者は答える、「稲岡君も見たんじゃないのか?居るかもしれないんだよ、謎の生物、つまり人間のような身体とモグラのような爪を持った生物。わたしは追っている、元多摩文理大学教授小岡の孫として」。

言われた俺は、「国領教授に扮した何者か偽物」の持ちだした化石を発見した人物が、小岡という人であったのを思い出した。

俺は、小岡と隠遁生活者のつながりに驚いたが、同時に、そうと知ったからには、伝えなければならないことも有る。俺は、隠遁生活者に恐る恐る言った、「その化石、最近盗まれたんです。国領教授に扮した何者かに」と。



隠遁生活者は「え?」と驚いたような声を上げてから、一層悔しそうな表情になった。それから、気持ちを整理するためだろう黙った。

そして、しばらくしてしゃべりだした、「いるんだと思う。謎の生物。『国領教授に扮した何者か偽物』はロボットのようなものかもしれないし、私や国領教授が10日程彷徨っていたのに栄養状態に問題ないことや土に引きずり込まれたような記憶のあることを思うと…。謎の生物は、地底に文明を有するに至った可能性もある」と。



俺は、一連の話しをどう解釈すれば良い?

とりあえず、隠遁生活者に尋ねた「東さんは、いつから、その生物の存在を思うようになったのですか?」と。


以上「追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】」。

続きは「或る山奥にて地下階段【怪奇話】」へ。



※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

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テーマ : 怪談/ホラー
ジャンル : 小説・文学

奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】

この話は、大学講師の男が、山奥へ化石調査に出たっきり戻って来ない教授を探して遭遇した、怪奇的な話(コズミックホラー)です。


(分量は文庫本換算12ページ程。以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)





第一章:教授が行方不明?山奥で発見された奇妙な化石との関係は?|奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】


俺(稲岡義仁・いなおかよしひと・29歳)は、国領教授(考古学者・55歳)を探しに、多摩の或る山奥へと出発するところだ。

国領教授は、友人の隠遁生活宅へ行ったきり、帰ってこないのだ。



10日前のこと、国領教授に対して隠遁生活者から「面白い化石を発見したよ。怪奇的でもあるぞ」と連絡が有った。

国領教授は、その翌日から三日間の滞在計画で、隠遁生活者宅の在る山奥へと出かけていった。それっきりなのだ。



隠遁生活者と国領教授の関係は、平たく言えば友人。何年来の付き合い等は知らない。

同い年だが、隠遁生活者は、金融の仕事で十分稼いだこともあって、50代で退職した。

その後、現在に至るまで、趣味の宝探しのようなことを楽しんでいる。

特に、旧石器時代の遺跡に魅力を感じているようで、論文等を読んで遺跡を訪れて自分なりに調査して論文を書いているようだ。

家は、本宅は別に有るようだが、現在は、山奥の粗末な小屋で暮らしている。山奥で、化石探しでもしているようである。



このたび、隠遁生活者は、その山小屋付近で、「面白い化石」を発見したよう。そして、友人である国領教授に、見て欲しいと依頼して来たというわけだ。



国領教授は、出かける前に俺に、顛末や滞在計画等を説明した。

(俺と国領教授は、研究チームを組んだりと、何かと関係が有る。)

だが、国領教授は、帰ってくる予定の日になっても帰って来ないし、滞在を延期するという連絡も無かった。



俺は、教授の携帯電話に連絡してみたが、つながらなかった。隠遁生活者の携帯電話の番号も知っているので、そちらにもかけたものの、つながらない。

唯一、隠遁生活者宅の固定電話はつながった。だが、隠遁生活者が出たものの、会話がかみ合わなかった。

こちらの質問に対して、ただただ「心配ない」とばかり言っていた。また、電話越しの隠遁生活者の様子は、以前のものと違っていると感じた。ことばのやりとりならできているものの、感情は伝わらないというかな。(状況的に「心配ないと」言われて心配が収まるものでもないのに、心配ないと述べるのみで言うべきことは全て言ったと言われているような。)

また、その電話で教授の声も聞いた。

声は、確かに教授のものだった。だが、隠遁生活者と同じように「心配ない」とばかり言って話しはかみ合わない。

その間に、俺は教授の奥さんにも連絡した。俺同様の心配であるようだったが、俺同様に、隠遁生活者宅に電話して、教授の声は聞いたと言う。



奇妙には感じた俺だが、「心配ない」を信じて、教授の帰ってくるのを待っていた。

だが結局は、連絡も無いままに一週間経った。



俺は、こうした一連の事態に、今日、強硬手段に出る。隠遁生活者宅に、連絡無しに、押し掛けるのだ。


第二章:山小屋への遥かなる道のり|奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】


①異世界小道?


俺は大学研究室を出て、〇〇線(電車)に乗った。都心とは逆の方向、多摩地方の山々の広がる地へ、向かった。



電車内でスマホ検索して、国領教授の滞在しているはずの山小屋周辺等で、何ら事件等は発生していないか、調べた。

検索結果として表示されたページの中で、個人的なブログも表示されて、その内容は気になった。それは、次のもの。

「登山中に谷を見下ろした。谷に茂る木々が、激しく揺れている箇所が有った。周囲は全く揺れていないから、風によるものではない。さらに、その妙な揺れは移動していた。まるで、木々を揺らしながら歩いている何者かいるみたいだった」と。

この投稿に対する返信はたくさん有って、ブログ内ではちょっとした騒ぎになっていた。

国領教授のことと関係有るのだろうか?



窓の景色は、多摩地方の都市をいくつか過ぎて、そのたびに、遠くに眺めていた山々が近づいてきた。やがて、それら山々の麓に在る駅に、到達した。

駅舎を出ると、山々は目前にせまり、見上げるようにそびえている。今先頭に並ぶ山々の間からは、違う山々が顔をのぞかせている。都会と違って、昆虫の鳴き声が目立つ。

駅舎周辺は、駅舎や駐車場等のために、平地にならしているので、土地は開けている。そんな駅舎スペースの外を、二車線のアスファルトの道路が横切る。

この二車線道路は、山々の合間を縫う幹線道路であり、それなりの量の車も通る。

ただし、まだ深い山々の真っただ中ではない。この駅舎の辺りから、(都心とは逆方向に進むと)どんどん山々は深くなっていくのだ。



この幹線道路からは、小道もところどころに延びる。

幹線道路を進むなら、深い山中へと分け入っても、その先には都市が待っている。一方、小道を進むと、深い山中をさらにさらに深くへと分け入って後に、深い山中でゴールとなるものも有る。

俺は本日、そんな小道へと分け入る。



俺は、幹線道路を、山々の深くなる方向へと歩き出した。

二車線道路の左右には、木々が茂る。道路に覆いかぶさることもなく、日中の今は太陽の光を受けていて明るい。適度に森林浴を楽しめるので、ハイキングには良いだろう。

しばらく歩くと、幹線道路から小道が伸びる地点に至った。車一台分程の幅の小道だ。

今回、俺の進むべき小道だ。まるで、木々の作るトンネルのようだ。



俺から向かって、小道の右手側は木々の茂る山肌が迫っている。逆に、小道の左手側は山の下り斜面だ。どちらの側にも、木々が聳えて枝々を伸ばす。

枝々はそれぞれ、太陽光を求めてくねくねと伸び放題である上に、葉を茂らせている。そのせいもあって、小道にまで到達する太陽光は少ない。

幹線道路からは、この小道の先は薄暗くて見通せない。まるで、異世界への入口とでも言おうか?

何やら、この小道は人が作ったものではなくて、人の世界に用のある異世界の者が作ったものだとも感じてしまう。



俺は、小道へと歩を進めた。


②遥かなる山小屋-地平線へと続く山々


薄暗い小道を、俺は、教授にまつわるものは落ちていないかも注意しつつ歩く。右手側の山肌やら左手側の谷を目視して。



先程の幹線道路は、この小道への入口を過ぎて以降は、下り道。逆に、この小道は登り道。

小道を歩きはじめた時には、左手側の木々の間から、幹線道路を見下ろすこともできた。走る車のエンジン音も聞こえてきた。

だが小道歩いている内に、幹線道路と小道の高低差は大きくなり、幹線道路は見えなくなった。エンジン音も聞こえなくなった。

今や俺は、薄暗く閉ざされた世界を、寂しく歩いているようだった。

この小道の先に、それも、歩きなら遥かな先に、例の隠遁生活者の山小屋は有るのだ。



俺は小道を歩き続ける。小道を曲がったり、登ったり下ったり。

いつの間にか、右手側が谷で左手側が山肌と、逆になった。俺は、次第に、方向感覚が無くなってきた。ここまで一本道だが、同じ道を引き返しても、幹線道路に戻れる気もしなくなってきた。



さらに小道を歩く。

左手側の木々の奥行が浅くなって、薄暗いこの小道へ差し込んでくる光が強くなった。

さらに歩くと景色は開けた。

開けたそこは、緩やかな斜面ではなくて、崖であった(崖だから木々の奥行きは減ったようだ)。

遠くを見通せた。

地平線へと延々、山々は続いている。また、山々には木々が茂っていてまさに深緑色の世界だった。(山々の間に、山々の裾や平地も有る。それらは、まるで木々の大海原だ。隠遁生活者の家は、そうした所に位置していたような。)

随分と遠くまでやって来た気持ちだ。それでもまだまだ、隠遁生活者の山小屋は遠い。俺は、地平線へと広がる山々を横に、また歩き出した。


③遥かなる山小屋-夕立


小道をさらに奥へと歩いていると、周囲がさっきよりも暗くなっていることに気が付いた。

見上げると、枝や葉の間から、真っ黒な積乱雲が空を覆っているのが見える。冷たい風はドっと吹いて、周囲で落ち葉はカラカラと舞う。そして、山一帯に雷鳴の轟音は響いた。

俺がリュックから傘を出すのとほぼ同時に、葉っぱをパチパチ打つ音がする。いかにも大粒の雨だ。どんどんと雨音の連打は速くなっていき、ついに滝のように降り出した。左手側の地平線は、滝のような豪雨に煙る。

慌てて傘を広げると、傘を打つ雨音が激しい。

不定期な強い風が、方角を問わず雨の滝をねじまげる。そのたびに俺は、バケツで水を浴びせられたように、水浸しとなった。俺は、傘を両手で握りしめつつ、前後左右風上へと向けて、傘が壊れないように必死になった。

時折閃光は走り、雷鳴が響く。



それでも相変わらず、小道を歩き続けた。

何分たったか何十分たったか。

いつの間にか、強風や豪雨に苦労をせず歩いている自分に、気が付いた。

空を見上げると、先程の真っ黒な雲は、太陽光を透かす程の薄い雲になっている。雨粒の大きさも、小さくなった。風も弱くなった。雷鳴も、遠くの方で小さく聞こえている程度だ。


④遥かなる山小屋-夕空そして夜の闇


さらに、山小屋を目指して歩く。

灰色の空には、いくつもの隙間ができてきた。

地平線に広がる山々に、あちこちで太陽光の柱が立つ。傘を打つ雨音は、空から降ってくる雨ではなくて、木々から落ちる滴の音だ。



その後も、時間が経つ程に雲はかき分けられていった。空ものぞくことができる。

ただしその空というのは、青空でなくてオレンジの空。スマホで時刻を見ると、夕方の18時であった。



柔らかなオレンジの空に、ふと穏やかな気持ちになったが、ふと本日の計画を思った。

空の青い内に、隠遁生活者の山小屋に着くと思っていたのに。



その時、俺の頭上で、バサッと木々を揺らす音がした。

見ると、猛禽類のような大きな鳥が、左手側の崖へと飛び立ったところだった。山々の折り重なるその奥に夕日のオレンジの柔らかく輝く地平線へ、横一文字に翼を広げて空を切っていった。

遠いオレンジ色の空には、チリジリの細かい雲たちは、紫色に染められつつ、追いかけっこのように同じ方向に流れている。

あと1時間もすれば夜の闇に包まれるだろうと俺は考えた。



それからの小道は、どんどんと下っていった。崖沿いの道から見えていた景色で言う、「木々の茂る大海原」に潜っているのだ。

先の見通せない真っ暗な深海のようだ。時刻も夕方から夜へと差し掛かっており、周囲のあらゆるものが藍色に染まっている。



さらに歩いていると、懐中電灯を必要とするくらいに暗くなった。俺は、隠遁生活者の山小屋は、この先に本当に有るのだろうかと、不安になってきた。もし、記憶違いならどうしようかな。


第三章:木々の間から聞こえる奇妙な声?隠遁生活者の山小屋|奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】


①誰かいるのか?


さらに歩く。

小道の脇の斜面に、不自然に木々が途切れている場所を見つけた。そこに、階段も有る。隠遁生活者の山小屋への入口だ。

俺は、安心感でため息をつきつつ、階段に足をかけた。



その時だ。



周囲の闇の中から、話し声らしきものが聞こえた。



どこだ?



振り返って懐中電灯あちこちに向ける。小道やガードレールや木々等が、懐中電灯の光の範囲のみ、闇の中に浮かぶ。

そこには、誰もいない。でもまだ、話し声のようなものは聞こえる。

会話のように、二つの違う音が抑揚をつけてやり取りしている。だから、単に「音」ではなくて「話し声」「会話」だと判断した。

ただし、何を言っているのか理解できない。音が小さいからではなくて、知らない言語を聞いているようだ。

やがて、「話し声」は徐々に遠ざかっていって、聞こえなくなった。後には、虫の鳴き声や葉や枝の風にざわめく等だけであった。



俺は疑問にも、また不気味にも思った。

とりあえず、階段へと身体を直して上った。


②電話の時と同じ?隠遁生活者の奇妙な様子


階段を上りきると、山の斜面に沿って細い道は続く。その先にぼんやりと灯りが見える。隠遁生活者の山小屋だ。

俺は斜面を登り、隠遁生活者の木造の山小屋玄関に立った。

呼び鈴はないので、拳でノックをした。返事が有る。それから、こちら玄関へと向かって来る足音が有って、ドアが開いた。



そこには、以前会った通りの隠遁生活者が灯りを持って立っていた。

隠遁生活者に対して、質問したいことはたくさんあるが、不躾なのはよくない。俺は、「お久しぶりです」「連絡も無しに来てしまいました、すいません」等と、挨拶をした。



挨拶は通じたのか通じていないのか、解らない。隠遁生活者は、ただ「あがれあがれ」等と言って中に入るよう促す。俺は靴を脱いで上がる。

隠遁生活者は、しゃべり方も表情もぎこちない上に、俺を先導するために歩くが、ゴトゴトと変な音もする。

「こんな感じの人だったかな?」と疑問にも思った。

それから、「きょうはにかいにとまりなさい」と言いながら俺を二階の部屋に誘導した。俺が部屋に入ると、とっととドアを閉めて階段を降りていった。

流れ作業のようだ。



一人で部屋に残された俺だが、話しをしないことにははじまらない。俺は、隠遁生活者を追って一階へと部屋を出ようとした。

ところが、ドアノブに手をかけたところ、回しても押しても引いても、ドアは動かない。

外から施錠されているのでは?という考えに至って、疑問と不安は芽生えた。

室内を見回すと、部屋の窓の鍵が不自然だと気が付いた。フック式のロックは、内からでなく外から施錠をするように設置されている。そして施錠されていた。

隠遁生活者は、なぜ俺を部屋に閉じ込めたのか?


③脱出できるか?そして隠遁生活者の秘密を捉えろ


だが、俺には知識が有る。フック式ロックを、正規の操作で外すのではなくて、ロックの付いていない側から外せるのだ。俺は脱出を試みることにした。



鞄から針金を取り出して窓際へ行って、針金をフック式ロックに関わっている重なった窓の隙間に通して、多少強引に操作して、フック式ロックを外した。

探偵小説好きの俺は、ガムテープと針金とピッキング道具は常に持ち歩いている。学者でなければ刑事になっていたと思っている。

持ってきた荷物を背負って、ロックを外した窓を開けて、雨どいを伝って裏庭へと降り立った。



靴を取りに行くため、表玄関へと小屋に沿って回る。

通る窓の一つ一つで、奇妙な隠遁生活者がこちらを監視していないか、教授にまつわる情報は得られないか、家の中の様子を探りながらそろりそろり歩いた。



玄関に近い窓から室内を見通した時に、隠遁生活者を見つけた。

小さなランプの黄色い光にぼんやりと、部屋は浮かぶ。その中で、背もたれの付いた木の椅子に、隠遁生活者は座っている。俺のいる方には、背を向けている。背もたれの上側に隠遁生活者の頭だけのぞいている。



その窓をそろりと通り過ぎて、玄関の前に来た。

ゆっくりと、玄関のぶを回す。

ガチャと音がした。家の中にいる隠遁生活者は、この音に反応する動きがあるかもと、ドアに耳を当てた。

特に動きはないようで、全く静まり返っていた。小さい音だが、何やら機械のエンジンのような音がするのみ。

俺はそのまま、ドアに耳を当てつつゆっくりと玄関の扉を開けた。

そして、玄関に有った俺の靴を手に持った。



後は、靴を履いて、この山小屋から逃げるのみだ。

ただ、俺は迷った。

隠遁生活者の奇妙な言動からして、近寄らないのが妥当だろう。でも、国領教授の情報を全く得られていないのは、味気無い。また、隠遁生活者に対して問い詰めたいことも多々ある。

それに、建物から隠遁生活者以外の気配はない。隠遁生活者と取っ組み合いなんて嫌だけど、俺が隠遁生活者と言い合いしている時に、誰か敵として加勢する者もいないはず。



俺は、手に持った靴を、また置いた。そして、そろりと家に上がった。



先程、窓から確認したところでは、隠遁生活者は玄関横の部屋にいるはず。俺は、その部屋の前に立った。

俺は取りあえず、ドアに耳を付けて部屋の中の音を探った。中から、小さなエンジン音以外には目立つもの無い。



問い詰めたい思いも不安の思いも有りつつ、俺は思い切ってドアを開けた。

そこには…。

隠遁生活者が、先程、窓から頭を覗いたのとは逆に、こちらに向かって座って居た。

隠遁生活者の身体は、Yシャツのボタンは外されていてはだけている。そして、はだけたそこは、生身の身体ではなかった。

黒くて金属のように硬そうなものであって、床下から伸びている何本ものコードが刺さっている。

隠遁生活者の顔(この光景を見たなら本物の隠遁生活者ではなくてそっくりに作られた何か疑わざるを得ない)は目を閉じたままであって、俺のことに気が付いていないように無反応。

でも、何らの刺激を与えると目が開いて、俺に何か攻撃をしてくる気もした。



俺は、心は焦りながら、刺激を与えないようにゆっくりと後ずさりした。

後ずさりしつつ気が付いたのは、先程からのエンジン音は、床下から聞こえてくるようだ。ここは1Fであるが、床下に、地下室でも有るのだろうか?



やがて、玄関にたどり着いた。

ここからでは、部屋の中にいる隠遁生活者(或いは隠遁生活者そっくりに作られた何者か)は見えない。

そのまま、静かに靴を履いた。そして、開いたままにしてある玄関ドアを、ゆっくりと外に出た。

外に出てからは、恐怖や焦る気持ちが一気に爆発した。庭から、小道へと、一気に駆け降りた。


その時。

また先程のように話し声がした。やはり山小屋の周辺に何かいるのか?

先程とは違って、慌てているようにも思う。どこからだ?

俺は、さっとリュックから懐中電灯を取り出して、声のする方へと向けた。


第四章:謎の生物?そして教授は?|奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】


①大きくて腕と手と爪に特徴有る生物


懐中電灯は、光の範囲のみ、闇から小道、ガードレール、ガードレール向こうの木々の茂る自然の地を浮かび上がらせる。

そしてガードレールの向こうで、うごめいているものがあった。黒くて大きなものだ。

何かいる!でも、何者かわからない。俺の中で、不安と緊張感が走った。

俺は、うごめくものが懐中電灯の灯りの中心になるように、向けた。

うごめくものから、何か伸びた!腕だ!

うごめくものは、腕を伸ばして指でガードレールを掴んだ。

人か?

いや…。

その指に目を凝らすと、やたら太いし、毛むくじゃらだし、爪は鋼鉄のように丈夫そうな上に鋭利で長い。

何者だ?

それから、うごめくものは、ゆっくりと頭、上半身、下半身の順に起こす。片方の手でガードレールに手を添えて、もう片方の手で顔をおさえつつ立つ。

人間のようでもあるが、ゴリラのようでもある。でも、どちらでもない。身長は2mを越えている。身長に比して、腕はやたらと長い。また、腕の長さに比して、指はやたらと長い。全身毛むくじゃら。



俺は、恐怖に後ずさりしていたが、そいつは、立ち上がって後も、ガードレールに手を添えて、フラフラしている。

顔を手でおさえつつ、何かを探すように首を左右にきょろきょろして、鼻は何かを探すように嗅いでいる。

俺にとびかかってくる様子も無い。そんなに獰猛な生物でもないのか?

首をきょろきょろさせていたが、俺のいる方に定まって来た。匂いで俺を感知したようだ。



それから、抑揚や高低有りの、多種の音を発する。ことばのようにも思った。

試しに、俺はそいつに、懐中電灯を向けたまま、しゃべりかけて見た。「何者だ?」と。

するとそいつは、何を言っているのかはわからないが、ことばのようなものを返した。何となくだけど、俺に何かを尋ねているようにも思った。

俺はよく解らないので、「解らない」と述べた。その後も、何か尋ねられている気がしたけれど適当に返事する以外にない。



しばらくしてそいつは、顔を覆っていた手を外した。

その瞬間、そいつは激しいうめき声をあげて、ガードレールから手を離して、痛そうに両手で目を覆う。また、ガードレールから手を離したことで、バランスを崩してガードレール向こうの斜面を転げ落ちた。



俺はガードレールにかけよって、斜面下に懐中電灯を向けた。

だが、そこにはうごめくものは何も無い。草木が茂って、夜風に揺れているだけだった。



一瞬で消えた?

何だったのだろう、今の生物は。俺の知らない生物か?人類にとって謎の生物か?



俺はまた、はっとした。

山小屋への階段を、懐中電灯で照らす。隠遁生活者らしき何者か?は、俺を追って来ていないようだ。



とりあえず、今日のところは逃げよう。俺は、来た道を走り出した。



俺は、時々振り返って何も追いかけて来ていないことを確認しつつ、真っ暗な山道を、恐怖心とともにひたすら走った。

走っても走っても、暗くて細い道は続いていて、暗闇から抜け出すことができないかもしれないと、思った。



それでも、走っていると、暗闇の奥で、かすかに自動車の走る音が聞こえてくるようになった。また、車のライトや街灯も見える。

それから、幹線道路へ出ると、もう一度小道を振り返った。妙な生物等、追ってきていないようだ。

俺は、走るのをやめて、歩いた。

やがて、電車の走る音も耳に届くようになった。遠くに、駅舎の灯りも目に入るようになった。

それから、安心感も持ちつつ、駅構内に入った。


②戻って来た?教授


電車に乗ってから、色々考えた。

隠遁生活者の奇妙な様子を、警察に連絡するべきなのか?連絡するとしたら、どのように説明する?事件として取り上げてくれるか?そして何より、国領教授は今どこにいるのだろうか?

それと、あの妙な生物は何者なのだろうか?懐中電灯の光ですら激しく眩しがったり、大きな爪だったり、まるでモグラのようではないか?地中で暮らしているのだろうか?



その後、自宅アパートで、食事中もシャワーの時も布団に入ってからも、隠遁生活者のこと、国領教授のこと、妙な生物のことを考えていた。



結局、答えを出せないまま、翌日になった。とりあえずは、いつものように大学に出勤した。



研究室のデスクに座っていた時だ。

ノックをした者があった。返事をするより前に、ドアが開いた。

驚いたことに、国領教授が入ってきた。

俺はデスクから立ち上がって、国領教授に歩み寄って、「帰ってくる予定の日にも帰って来ないから心配したんですよ」なんて、言った。国領教授の顔を見ながら。

そんな俺に対して、国領教授は、「しんぱいさせてしまってもうしわけないけど、なにもしんぱいすることはないから、わたしのことをほうっておいてくれ、けんきゅうしつをのぞかないでくれ」と一方的に言って、すぐに俺に背を向けて部屋を出るべくドアへと向かった。



ドアに向かう国領教授は、歩くたびにゴトゴトと変な音がしている。

また、今見た国領教授の表情は、妙にぎこちなかった。

会話もかみ合わない。

それらは、昨日、山奥で会った隠遁生活者の変わり様と、同じではないのか?…。



「帰ってこない国領教授の件」は、これで解決なのか?そんなはずはないだろうな…。


以上、「奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】」。

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テーマ : 怪談/ホラー
ジャンル : 小説・文学

街外れ幻想怪奇散歩【怪談】

日常よく訪れる土地でも、詳細に見回すと、立ち入ったことのない路地等も有ります。

会社帰りや散歩等、道を一つ変えるだけでも、日常は非日常へと変貌をします。

ただ、そのせいで怪奇現象に出くわすこともあるかも?

この話は、仕事帰りの散歩で偶然見つけた、古い建物のラーメン屋での話です。


(分量は文庫本換算4ページ程ですが、以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:仕事帰りの冒険|街外れ幻想怪奇散歩【怪談】


或る金曜日。時刻は20時程。

職場の有る都心から、アパートの有る多摩地区(東京都内において23区と島嶼部を除いた市町村部)へ電車に揺られていた。



真っ直ぐに帰宅するのはもったいない。

自宅アパート一駅隣は、多摩の一大都市の一つに位置する。



しばらくして、その駅に到着。俺は、降りた。

ホーム、駅舎、駅舎周辺と歩いてみる。

そこに有る店たちは、グループ客で賑やかだ。一人飲みには適していない。



俺は、街中心から離れるように、歩いて行った。


駅舎を出てすぐのところに、南北の大通りが走る。大通りに沿って、高層ビルやら大手デパート等も立ち並んでいる。現代的風景だ。

また、新旧ラーメン屋も多々有って、激戦区の様相。醤油、塩、味噌、豚骨、鳥、魚介、こってり系、あっさり系…。多種揃っている。



南北の通りに沿って南へと歩く。通りの先に、大きくて歴史の古い神社が待ち構える。南北の通りは、そのまま参道へと切り替わる。

現代的な都市に大きな神社の有る風景は、この街の特徴とも言える。

神社前には、南北の通りと交わる、東西の通りも有る。この東西の通りを東へとずっと進めば、都心に出る。

俺はこの東西の通りを、西へと折れた。



少し歩くだけで、街の風景は変わり始める。

駅周辺の洗練された高層ビルは、姿を消す。2・3階建ての、低くて古いビルやら一戸建ての古い家屋といった、古い建物たちが並ぶ。

すれ違う人の数も、駅周辺に比べると、ずっと少なくなった。



この辺りになら、金曜日でも一人飲みできる店だって、有るかもしれない。


第二章:街中心部からどんどん離れて|街外れ幻想怪奇散歩【怪談】


低層の古いビルには、大手も個人商店も問わず、飲食店や量販店や何ら中小企業事務所等、さまざまに入っている。

大手外食チェーンの看板は現代的であって、古いビルとはマッチしていない。店の中では、看板と違い、奇妙な仕事でも為されているのでは?といった、不気味さもある。

(また、以前、仕事の都合で夜中にこの街を歩いたこともある。店仕舞いするも多くて、エリア全体、暗くなる。そんな暗い街で、古いビルに数店のみ、深夜営業の店の看板がぼんやりと浮かぶ光景も見たことがある。怪しさも感じてしまった。)



店前に出ているメニュー看板等を見つつ歩いたが、失礼ながら、しっくりこない。

街からさらに遠ざかるように、歩は進んだ。



それで、南北の幹線道路との交差点に、達する。俺は横断して、なおも東西の街道を、西へと歩く。

この交差点を越えると、年季の入ったビルや一戸建て家屋が増える。

そんな古い家屋たちの間には細い路地があって、この東西の街道から、分け入ることができる。



俺は、そんな細い路地の一つに、足を踏み入れた。

細い路地にも、街道からは見えない古い家屋が、延々と並んでいる。本当に失礼ながら、蹴ったら倒れるのでは?という古い家屋も有る。

また、この辺りは、街灯は点々と照らす程度。街中心部と違って、大きな看板も無い。建物の窓も小さいため、窓から漏れる灯りの量も少ない。総じて、暗い夜道だ。


そんな、古い家屋の並ぶ暗い路地に、お洒落な居酒屋を見つけた。

建物の大枠は、実に古い木造家屋だ。だが、補強したり整備したりで、現代的でシックでお洒落な居酒屋となっている。ガラス張りの玄関の向こうで、アーティストの手掛けたような内装が、柔らくて薄い明りにぼんやりと浮かんでいる。静かにお酒を楽しんでいるグループも見える。


満席のようなので、俺はその店には入らずに再び路地をウロウロした。


細い路地を、南北に東西に、歩いた。


住宅も増えてくる。

古い戸建て住宅、古い低層アパート、比較的新しい中層マンションなどなど。こうした古い小さい建物の屋根越しに、駅前の巨大高層ビルも見える。何やら、遠近感を狂わされるようだ。


今俺の歩いているのは東西の路地か南北の路地か?わからなくなってきた。

路地を右に折れた時、遠く先で、料理屋らしい看板が、暗い通りに一か所、ぼんやりと灯っているのが見えた。俺の視力では、看板に何と書いてあるのか解らない。

灯った看板に向かって歩いていると、ようやくピントは合って、中華料理屋であることを捉えられた。昔ながらのラーメンや炒飯を出すような、街中華っぽい。


第三章:とても古い日本家屋のラーメン屋|街外れ幻想怪奇散歩【怪談】


やがて、店の前にたどり着いた。

家屋は、木造日本家屋である上に、とても古い。看板は、半透明のプラスチック板を、内側から電灯で照らす、レトロなもの。

全体として、平成時代を経ているとは思えないようだ。



俺は、冒険心をくすぐられた。

こんな店なら、例えまずくても、現代では珍しい味に触れらる可能性も高い気もした。

暖簾をくぐった。いかにも古い暖簾だった。



入ってみると、客は誰もいない。

80代?いや90代か?店員と思しき老夫婦がテーブルに座って、テレビを見ていた。

俺を見て、「いらっしゃい」と言う。


二人ともゆっくり立ち上がり、曲がった腰で動き出す。

じいさんは厨房に、ばあさんは俺をカウンター席に誘導して、水を継いだ。


俺は座って、コップ一杯の水で一息ついた。

店の時計を見たところ、もう21時を回っていた。


内装もまた古い。カウンターもドアも、年季の入った木製のもの。腐ってはないがさまざまな作用は積もって、変色している。カウンターの花瓶も壁の装飾も、現代は見かけない色味、模様だ。

俺の知っている街中華の店の中で、トップを争う古さだ。



木の壁にズラリ並ぶ、メニューを見上げる。

醤油ラーメンをトップに、チャーハンやら野菜炒め、レバニラ、麻婆豆腐、唐揚げ定食などなど、街中華の定番メニューたちだ。


俺は、メニュートップのラーメンを注文した。

待っている間、厨房の音とTVの音以外に、古いアナログ時計の「カチカチ」という音以外、何もない。


しばらくして、ばあさんが、ラーメンを運んできた。

ラーメンの見た目は、予想通り、街の中華料理屋によく有る、優しそうな醤油ラーメンだ。


一杯すすって、その味に驚いた。

見た目とは裏腹に、鳥ガラと魚介のコクや甘味は強い。でも、まったりとはしていない。旨い。


やがて食べ終えた俺は、満足して店を出た。



店から出た時。ここはどこなのか?と迷った。

路地をめちゃくちゃに歩いてたどり着いたのが、この店だ。

遠くの方で、ガタンゴトンと電車の走る音がした。線路に出れば、方向は掴みやすい。とりあえず、線路に出ようと思った。

だけど、古い建物たちに反響して、どっちの方向で電車が走っているかを、掴めない。やがて電車も過ぎて、ガタンゴトンは収まった。

スマホを立ち上げたが、速度制限のためか、地図を開けない。



まあ金曜日だし、フラフラ歩いていると、旨い店を見つけられるかもしれない。

呑気な気持ちで、暗い路地を、また歩きだす。


結局、中層ビルのホテルに出くわした。スマホを見ると、もう23時30分。くたくただったので、俺はそのホテルに泊まった。


翌朝、フロントで駅への道を尋ねて、ホテルを出た。

太陽で明るい街を見ると、何のことはない。ホテルの前の一本道のずっと先には、線路が横たわっている。


俺は、フロントで聞いた駅への道には向かわずに、線路の位置から自宅アパートの位置を計算して歩き、難なく自宅アパートにたどり着いた。


第四章:あれ?変だな|街外れ幻想怪奇散歩【怪談】


あのラーメン屋には、その後も通った。

TVやネットニュースで取り上げられるラーメン屋にも興味有ったものの、それより、あのラーメン屋の他のメニューも気になった。



だけど、仕事帰りの21時くらいに訪れた場合、いつも閉店している。



自宅アパートから歩いて行ける距離なので、仕事が休みの夕方に、訪れてみた。

開いている。


だが、初めて店を訪れた時に応対してくれた、じいさんばあさん店員には、一度も会わないのだ。

夕方に会う店員は、70代くらいのおじさんおばさんだ。

何にせよ、ラーメンは以前同様に旨い。


驚いたのは、壁に、営業時間案内の張り紙が有るのに、気が付いた時のこと。

平日昼を重点に営業している店であって、夜は18時~19時程で閉めるとのこと。

では、俺が初めてこの店に入った日、22時くらいでも営業していたのは、なぜ?


張り紙に疑問を持った俺は、野菜炒め定食を運んできた70歳くらいの店員に尋ねた、「90歳くらいのおじいさんおばあさん店員は、いつお店に出るんですか?」と。

その応えにまた驚いた。

70歳くらいの店員は言った、「そんな店員、おられませんよ」と。


以上、「街外れ幻想怪奇散歩【怪談】」。



※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

※本ブログの記事は全て著作権によって保護されておりますことへのご理解をお願い申し上げます。


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テーマ : 怪談/ホラー
ジャンル : 小説・文学

春風に舞う記憶【怪談】

この話は、郊外のアパートに暮らしていた男が、深夜に不思議な音楽を聴いたこととその音楽の秘密を探る話です。

過去の持つ「後悔させる力」、未来の持つ「不安にさせる力」を除去できれば。せめて、後悔と不安を抑えるように耳から脳を刺激する音楽があるなら…。

(分量は、文庫本換算4ページ程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:今の仕事につながる?大学時代に体験した或る夜のこと|春風に舞う記憶【怪談】


俺(稲岡良仁・多摩文理大学考古学研究科助手・29歳)は、大学時代に不思議な体験をした。

また、その不思議体験こそ、考古学者を目指したきっかけだった。




第二章:その夜…金色の月・ネイビーの空・舞う桜|春風に舞う記憶【怪談】


大学生の俺は、多摩地方の街外れの丘の麓に有るアパートを借りていた。

その夜中、いつものように、ランニングに出た。決まったコースで、丘周辺を走り、丘頂上に有る神社へと走る。

土地柄は、農村と新興住宅地の入り交ざるような場所だった。

二車線の道路沿いに、大きな畑や古い家々が並ぶという農村の様相も有る一方、そんな中にコンビニや新興住宅の密集している一画も在る。

近場の街と言えば、アパートの有る丘を登れば、遠く地平線に多摩の一大都市の駅周辺高層ビル群が見える。夜になれば、高層ビルの無数の窓たちからの灯りや屋上警戒灯は、向こう岸のことのように輝いている。



アパート玄関からアパートの敷地出入口へと歩いていると、桜の甘い香りがした。

敷地出入口には、大きな桜の木が有る。俺は、5m程離れたここで立ち止まり、桜の木の背景に輝いている月の明かりで、桜の木全体を眺めた。

10m以上の高さで、夜空に向かってそびえている。薄ピンクがかった花びらが、茂る枝に雪のように積もり、ネイビーの夜空をバックに、金色の月明かりを得て、映える。

今、満開から散りはじめに、移りつつあった。花びらは、常に、何枚かひらひらと舞っている。時々そよ風が吹くと、量を増して風の方向にスピードを増して、舞う。



その時。

春らしい温い風が、いつもより強く長く吹いた。

花びらは、吹雪のように舞ったかと思うと、さらに渦を描きながら空へと舞い上がった。

上空では、桜の木は近隣にもそびえているがどこかの桜の木から流れてきたのだろう、花びらの吹雪は同じように渦を描いて空を舞って来て、合流する。


なおも、風は吹き続ける。

丘の木々もザワザワにぎやかになる。さらに多くの近隣の桜の木から花びらは集ったのだろう、東西南北いくつもの花びらの流れが渦を描きつつ流れて来て、上空で合流する。

視界一面の夜空は、桜の流れに染まった。


俺は、呆気にとられたまま、動けなかった。



しばらくして、徐々に風は緩やかになっていって、治まった。

それに伴って、視界一面の夜空も、ピンクがかった白い流れは緩やかになって、やがては治まった。

目の前の桜の木も、元の通りに、ひらひらと舞う程度になる。


妙な風も吹くものだと思いつつ、俺は、駆け出した。


第三章:その夜…聞こえて来た奇妙な音楽|春風に舞う記憶【怪談】


丘周辺を走った俺は、丘頂上へ通じる上り坂を駆け始める。走る道はアスファルトだし、住宅が整備されている場所ならどこでも、アスファルトは延びている。

一方で、アスファルトを外れると木々が茂るし、ところどころ、手入れもされていない場所は広がる。今は夜だから暗くて見えないが、昼に通れば、落ち葉は降り積もって、倒れている木はそのまま腐っていたり、苔むしていたりする。



その時。

また先程のような、強くて長い風が吹き始める。

正面からも吹く。上り坂である上に向かい風まで吹いて推進力を妨げられるし、さらに目を十分に開けていられない。

俺は、薄目になりつつ、歩きへとペースを落とした。

目の前の上り坂は、木々の黒いシルエットが両サイドに茂って丘頂上へと遠く並んで、強い風でガサガサザワザワ賑やかだ。そんな先に、木々の開けた頂上を通じてネイビーの夜空は見える。遠くてしっかりとは見えないものの、月明かりを反射して、白く輝くものが渦を巻いている。おそらく桜の花びらだろう。



しばらくして風は緩やかになって、後、収まった。

俺の目の前にもまた、どこからか流れて来たのだろう、ひらひらと数枚の桜の花びらが舞い降りた。

と思ったその時。

雅楽だろうか?笛の音楽が聞こえてきたのだ。


どこから?


俺は立ち止まって、耳に意識を集中する。

おそらく、整備されていない茂みからだ。

そちらを見るが、街灯や月明かりに照らされた範囲のみ見えるが、その他は暗闇だった。


こんな夜中に誰が笛を奏でているのだろう?

俺は、笛の聞こえる茂みにゆっくりと歩いてみた。


笛の音の方に歩いていると、耳に心地よいまでに自然と、音楽が流れ込んでくる。

優しくて懐かしいメロディーだ。10年くらい前の記憶たちを呼びおこすような。徐々に、悔しい思いをした野球部での記憶、年下の女の子に告白された記憶等は、呼び起された。

だけど、それら記憶とともに有るはずの悔しさや喜びは、なだめられているようであって、沸いてこない。

「後悔する記憶も喜びたくなる記憶も、今のお前を見守っているけれど、お前は、記憶たちに気を遣わなくていい、感情的になるなんてエネルギーも使わなくていいんだ」、そう記憶たちに言われているようでもあった。


いつの間にか、俺の間の前に、告白してきた後輩がいた。下校中の道にいた。

あれ?俺は何で高校生に戻った?

疑問に思いつつも俺はその後輩に近づいた。



その時。

足元でガサッと音がして、丘の坂道に戻った。片脚を茂みに入れて、俺は立っていた。

音楽ももう、聞こえない。時々春のそよ風に、ザワめく葉の音等がするくらいだ。

疑問にも不思議にも思いつつ、俺はジョギングを再開して、帰宅した。


第四章:俺の才能?|春風に舞う記憶【怪談】


翌日、アパートですれ違った隣人たちに、夜中に音楽を聴かなかったか尋ねた。

だけど、誰も聞いていない。夜にはシンと静まる土地なので、笛の音が響いていれば、誰かしら気付いても良いとは思うのだけど。少し奇妙にも思った。



その後日、作業服を来た者たちが何人か、例の茂み辺りにいた。

尋ねると、市の歴史を扱う博物館の調査団だそうで、神社の敷地内から戦国時代くらいの笛が見つかったという。それで今、茂みにも調査範囲を広げたとのこと。



そんなことも有って、俺は興味から、アパートの辺りの戦国時代~江戸時代の歴史を、調べてみた。

寝る前にネットで調べる程度だったのだが、いつの間にか何日も費やした。また、市の図書館や博物館を訪れて史料を探るようにもなった。



或る日、それらで得た情報と、笛のメロディーを思い出して、怪奇的な連想をしてしまった。

連想に関わった情報としては、

・戦国時代の人物で、日本史教科書に掲載されるような有名人ではないものの、この辺ではリーダーのような存在を知ったこと。

・そのリーダーのもとに、笛の名手が出入りしていたこと。

・次の江戸時代のこの辺りの盟主を調べても、上の戦国時代の人物と同じ苗字の者は、いなかったこと(上の家は没落してしまったのかもしれない)。

等。


また、あの夜中に聞こえてきた笛のメロディーは、俺のイメージだけど、記憶を優しく包むようだった。

没落してなお自分たちに誇りを持ちつつ江戸時代を生き延びようとした姿、盟主が没落したために仕事を失った笛の名手が過去を誇る姿、そんな想像をしてしまうのだ。



権力者の歴史だけではなくて庶民の歴史もまた、掘り起こすべきものも有るのかもしれない。




そんな出来事も有って、俺は考古学者を目指そうと思った。


それにしても、なぜ、俺に聞こえた笛の音は近所の者には聞こえなかったのだろう。

俺には、いにしえからの声を聴く才能でも有るのでは?

学者の仕事で心の折れそうになった時には、そう思うようにしている。


以上「春風に舞う記憶【怪談】」。



※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

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