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土の記憶?奇妙な旅行にて【怪奇話】

この話は、或る男が、旅行先で太古世界を彷徨ったかもしれない話、その時に見た怪奇的光景が気になって、旅行後に心理と歴史の調査にのめり込んだ話です。

果たして、男の見た光景とは?また、太古世界へ分け入る奇怪な方法とは?


(分量は、文庫本換算7P程。次の目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:「土の記憶」のメカニズム|土の記憶?奇妙な旅行にて【怪奇話】


自然あふれるこの地への旅行。今、俺(駿河台辰実・獣医師・30歳)は、或る山の頂に立った。低い山ではあるが、遠くを見通せる。

緑の山々がいくつもいくつも、地平線へと折り重なっていて、その先では夕日が柔らかなオレンジに輝いている。夕日をバックに、紫のちぎれ雲は、追いかけっこをしている。



日頃は、人間の作ったルールやら人間の作った予定で成立する文明社会に生きる俺。

目の前には、文明社会のことなんて関係なく広がる大自然。

心地の良い諦めのような気にもなった。



同時に、「人間社会と関係の無いこの大自然の中に、人知の及ばない存在も有ったりして?」なんて、冗談めいた想像もしてしまうのだった。



何にせよ、綺麗な風景だ。いきあたりばったりで決めたこの旅行だが、成功だろう。



それから、俺は下山。

旅館に到着すると、温泉に浸かった。

温泉から上がると、山の幸溢れる食を頂いた。

夜中にまたフラりと、二度目温泉につかった。

悠々自適な一人旅だ、そんなことを思いながら、出入り口前ソファーに座って、冷たいジュースを片手にくつろいでいた。



その時。

同い年くらいの男が現れて、笑顔で俺に近づいて来た。

その笑顔は好感を持てるが、何と言えばよいのだろう、接したことのない笑顔であって、興味と警戒心とを抱かせるのだった。

男は、テーブルをはさんで向かいのソファーに立って、俺に、名と所属会社名を述べて挨拶して、腰を下ろした。

それを聞いて、警戒心は解けた。何のことはない、旅行会社の一員だった。



そして、明日のプランを提案してきたのだ。

それは、「土の記憶」というものである。何でも、太古世界を旅できるというのだ。

この旅行で、旅行会社にしてもらったことと言えば、旅館と自然溢れる絶景ポイントと周辺の商業施設を教わって、それらをお得に利用する割引チケットを得たのみ。

ただ、気になることも言っていた、「条件が合えば、太古世界を旅できるかもしれない」と。

詳細を訪ねたが、特殊技能を持った社員でないと、説明できないなんて言っていた。

今、目の前の男の言っていることは、旅行会社の言っていた「条件が合えば~」のことだろう。

俺は、「イリュージョンのようなものか?」と、男に尋ねる。

男は「そうではない」と言って、メカニズムを説明し始めた、


「例えば、生物は自身にふりかかる光をとらえて、自身内部で処理して、「見る」ことをできる。自身に降りかかる空気の振動をとらえて、自身内部で処理して「聞く」ことをできる。

土にも日は当たり、空気の振動を受け、動物に蹴飛ばされたりして、いろいろな作用が刻まれている。ただし、土は生物と違って、自身内部で処理するは、おそらくできない。

でも、土に刻まれたものは、確かに有る。


そんな、土に刻まれた光の影響を人間の視覚としてとらえなおす、土に刻まれた空気の振動の影響を人間の聴覚でとらえなおす等すれば、土に刻まれたものを、まるで、人の五感に変換してとらえなおす。

そんなことをできたらどうでしょう?土は、太古の昔から存在していますから、太古の世界を知れますね。

私は、そんな、土に刻まれたものを読み取れる能力者の一人。

さらに、私は、私以外の人間もまた五感でとらえられるように、伝達をできる。


よろしければ、明日、旅館裏手の山に登ってみてください。

頂上辺に有る大きな石に座って、目を閉じて、意識を周囲に任せてみてください。

周辺の土等に刻まれたものを、あなたは自身の五感のように捉えられるでしょう。私が、変換のようなことをしてあげていますので。

まるで、太古世界へ足を踏み入れたかのような体験となるでしょう」と。



俺は思った、男はイリュージョンのことを、雰囲気作りのために、もっともらしく説明しているのだろう。

とは言え、イリュージョンとしては面白そうだ。

男の提案に、乗ることにした。


第二章:これが「土の記憶」?旅館裏山にて|土の記憶?奇妙な旅行にて【怪奇話】


翌日、俺は、妙な男に言われた通りに、旅館裏手に有る登山道を登った。

登山道脇に、大きな石が有った。座りやすいように、直線的平面的に整えられている。



俺は、虫よけスプレーを全身に噴霧して、その石に座った。

静かに目を閉じて、周囲に意識を集中した。


絶えない鳥の声。

小鳥かな?高い音程で、忙しそう。こちらは大きな鳥だろう。小鳥に比べると野太い声。

大小の風が、木々や葉を揺らす。ザワザワ、ガサガサ。時々、ボトッ。木の実でも落ちたのだろう。

どれも、心地良く耳に入ってくる。

こうした山の営みは、太古の昔から、続いているのだろう。


その内に、俺はうたた寝をしたのか?木々の茂る山の途中に立っていた。見知らぬ風景だ。

周囲をぐるりと見まわすが、どこを見ても、折り重なる木々は続いている。日も遮られて薄暗い。

先程の登山道とは、似ているようだし違う気もする。


それにしても、夢にしては、自由に動ける印象だ。これまで体験したことの無い感覚だとも思う。

これが「土の記憶」か?



登り方面の奥は明るい。木々が開けているのかもしれない。

俺は、そちらに歩いてみた。

やがて、木々は開けた。


そこは、広い平地だった。

自転車でもないと、平地を横断縦断するのは、骨が折れる程だ。また、平地の大部分を、大きな池が占めていた。

池を挟んで反対側には、さらなる高い山がそびえる。ここから、さらに数百メートル程の高さはある。

また、ここから少し離れた池の周囲には、石でできた城のような建物も有る。


俺はまず、池に近づいて、水面をのぞきこんだ。

水面には、水草や大きな葉は浮かんでいる。透明な水中に、大きな黒い魚や派手な色をした魚がうごめいているのを見通せる。

釣り糸を垂らせば、すぐにかかりそうな程、人口密度ならぬ魚口密度は高い。


何気なく空を見上げると、澄んで青かった。夜になると、星空は綺麗だろう。

空を見ていると、ふと先程の山は目に入った。山頂は、よく尖っている。

あの尖りは、自然の作用でできたのか?誰かの手で意図的に作ったように見える。

そう思うとこの池にも、淵等に人為的なものを感じる。魚の数だって、自然のものとは思えない程に、多すぎる気もする。


それから俺は、先程から目に付いていた、大きな石の建造物へと歩く。


玄関前に立つものの、静かだ。誰も住んでいないように思う。

城の壁に使われている石の色と俺が土の記憶?に入る前に座った登山道脇の石と、似ている気がする。

取りあえず俺は、城のようなものの中に入った。



漠然とだが古い建物だと感じられる。

(劣化具合は大したことないが、古いと思ったのは、機械等で作ったものとは思えないこと、電化製品等も置いて無いこと等のせいだろう。

また、階段の段差の大きさや手すりの高さ等からして、ここに住む者の体格は俺と同じ程だと思う。)


見知らぬものたちに興味を持つものの、特に大きなイベントは無い。すると、目の前の風景の内容よりも、目の前の風景を見るメカニズムの方が気になり出す。

男の言っていた、石に刻まれたものを読み取るだの五感に変換するだの、本当のこととは思えない。

幻覚のようなものだろうか?それとも、催眠術?まさか、俺の朝ごはんに妙な薬でも入っていた?



そんなことを考えていると、いきなり、どこかの部屋からゴトンと音がした。


第三章:人知の及ばない秘密?その古い城|土の記憶?奇妙な旅行にて【怪奇話】


①未知なる存在?


俺は、音がしたと思う方へ歩いていった。

そこに、一つの部屋が有ったので、覗く。



薄暗い部屋で、床に液体が広がっている。

液体の横には、小さめのゴリラが横たわっている。



俺は、ゴリラが動いていないことを遠目で確認して、近づいた。

足元で、寄り添うようにしゃがみつつ、液体もちらっと眺めた。

液体は、おそらく毒物だ。かわいそうに。人間の建物に迷い込んだゴリラは、たまたま残っていた毒物を、誤って飲んでしまったのだろう。

今俺の見ているものは土の記憶とやらであって、実際に有るものではないはず。でも、目の前にゴリラが横たわるのを見ると、「助けてあげたい」という思いが湧き上がってくるのだ。


鎮魂の意味を持って、ゴリラの顔をしっかりと見よう。

俺は、横たわるゴリラの顔がしっかり見える位置へ移動すべく、立ち上がった。


近づく内に、不自然なことに気付く。ゴリラにしては、頭が大きい。

そんな疑問も持ちつつ、ゴリラの顔の前にしゃがむ。


違う!


この生物は、ゴリラに似ているが、ゴリラではない。

額もまるで現生人のように広い。

一体、何者だ?



謎の生物の登場にびっくりした俺は、思わず身体が浮いて、その衝撃で、土の記憶から覚めた。

目の前には、登山道とその周辺風景が広がっている。先程まで居た、見知らぬ風景ではない。

心地よく、木々のざわめきや野鳥の声は、聞こえる。


俺は、しばらく動けなかった。呆気にとられていたし、疲れてもいる。(肉体的な疲れではなくて、頭を使い過ぎた時のような疲れ。)

もう一度、土の記憶へと意識を集中するのは、億劫だ。土の記憶をまた体験するとして、その前に例の男とメカニズムも話したい。


まだ昼間だったので、山道や周辺商業施設等をウロウロした。


夕方になって、旅館に戻った。

旅行会社に電話をして、昨日の男に会えないか尋ねる。

だが、「その男はもう、違う地へ移動した」と言う。

土の記憶について質問すると、「その男でないと分からない」とのみ言われた。


温泉に浸かって後、ソファーに座ってくつろぎながらスマホ検索してみた、「土の記憶」や「ゴリラのような未確認生物」等と。


②トンデモ見解?


検索結果として表示されるさまざまなサイトページとそのページタイトルの中で、「INBOU」という雑誌社のものに興味を持った。

タイトルに、「関東地方の山奥で発見」「太古の城」「ヒト?類人猿?」という文字が有ったためだ。

(ただし、「INBOU」はトンデモオカルトサイトである可能性も疑いつつ。)

その内容は次のものだ。



「その教授は、関東地方の或る山にて、旧石器時代に造られたと見られる城が発見されたこと、その城の近くの池が養殖場として利用されたとみられる形跡があることを発見し、さらに、同じ山においてサピエンスでもなくネアンデルターレンシスでもない謎のおそらくは人類の化石を発見した。

その教授は、城や養殖場や謎の人類の化石の正体を明かすことに在職中も退職後も研究を続けたにも関わらず、80歳を過ぎた辺りから自身の功績を消すことに尽力しはじめたのだ。

その教授の発見した謎のおそらくは人類の化石は、博物館に所蔵されていたのに、どこかに消えた。おそらく、その教授の工作によるものだろう。そんなこともあって、現在は、その謎の人類の研究は進んでいない。」

読んで、まずは一息ついた。


一息ついて、さらに読み進めた。

「果たして、謎の人類の化石の正体は?

その教授は、自身の功績を消して回る以前、友人の教授に自身の説を語っている。その友人の教授は、弟子にふとその説をしゃべったこともある。

我々INBOUのteamは証言をたどる調査によって、その教授が消した教授自身の説へと辿りついたと思われる(伝言ゲームよりも不確かなことではあるものの)。それは、次のようなものだ。


謎の人類の化石の正体は、

可能性1:
現生人サピエンスとネアンデルターレンシスは兄弟姉妹とも例えられるが他にもまだ兄弟姉妹もいてそれが謎の人類の化石だとする説

可能性2:
ゴリラの一部から分岐進化したものが謎の人類の仮説だとする説(この場合は「人類」ではなくて「類人猿」か?)

とのこと。


また、その教授は感傷的な一面もあったと思われる。

なぜなら、こうも語っていたそうなのだ、『この謎の人類は、多人数で暮らせる城を建てたあたりに仲間意識の強さを伺えるが、現在は絶滅しているということは絶滅前の最後の一頭になってしまった者もいただろうに、その悲しさや絶望感はどれ程のものだっただろう』と。」

以上のようなことが、「INBOU」というサイトの記事に書いてあった。



以上を読んで、俺が見た光景や男の言っていたことを合わせて、想像をめぐらせた。

ゴリラのような生物は、おそらく毒物を飲んで息絶えた。

妙な男が言うに、土の記憶によって太古地球を知れる。

もし、この論文の言う謎の人類の化石と俺が見たゴリラのような生物が、同一種なら。

さらにだ、俺が見たゴリラのような生物こそ最後の一頭であって、絶望のため服毒自殺をした?



ここまで真剣に考えたものの、これ以上は広がらない。

いつの間にか信じて想像を深めていた自分に対して、こじつけだと笑ってしまった。

旅行から帰宅したらまた旅行会社を訪ねて質問しよう、それだけを決めて、部屋に戻った。


第四章:消えた旅行会社|土の記憶?奇妙な旅行にて【怪奇話】


翌々日、旅行から帰宅した。

その翌日に、出勤した。



職場近くに有る、例の旅行会社の入っているテナントビルの前を通る。



だけれども、旅行会社は無かった。

ガラス玄関やガラス窓に、テナント募集中の張り紙が張ってある。

張り紙の向こうを見通すと、デスクもカウンターも無くて、ただ床と天井のみ。寂しい風景だ。


俺は、旅行前に登録した、旅行会社の電話番号にかけてみた。

「現在使われていません」という自動音声のみ。



この旅行によって、課題ができてしまった、「土の記憶をメカニズムの解明すること」「旧石器時代の歴史を探求すること」「旅行会社の行方を掴むこと」。


以上「土の記憶?奇妙な旅行にて【怪奇話】」。

続きは「ゴリラ?或る田舎の目撃談【怪奇話】」へ。



※本ブログの記事は全て著作権によって保護されておりますことへのご理解をお願い申し上げます。


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テーマ : 怪談/ホラー
ジャンル : 小説・文学

奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】

この話は、大学講師の男が、山奥へ化石調査に出たっきり戻って来ない教授を探して遭遇した、怪奇的な話(コズミックホラー)です。


(分量は文庫本換算12ページ程。以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)





第一章:教授が行方不明?山奥で発見された奇妙な化石との関係は?|奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】


俺(稲岡義仁・いなおかよしひと・29歳)は、国領教授(考古学者・55歳)を探しに、多摩の或る山奥へと出発するところだ。

国領教授は、友人の隠遁生活宅へ行ったきり、帰ってこないのだ。



10日前のこと、国領教授に対して隠遁生活者から「面白い化石を発見したよ。怪奇的でもあるぞ」と連絡が有った。

国領教授は、その翌日から三日間の滞在計画で、隠遁生活者宅の在る山奥へと出かけていった。それっきりなのだ。



隠遁生活者と国領教授の関係は、平たく言えば友人。何年来の付き合い等は知らない。

同い年だが、隠遁生活者は、金融の仕事で十分稼いだこともあって、50代で退職した。

その後、現在に至るまで、趣味の宝探しのようなことを楽しんでいる。

特に、旧石器時代の遺跡に魅力を感じているようで、論文等を読んで遺跡を訪れて自分なりに調査して論文を書いているようだ。

家は、本宅は別に有るようだが、現在は、山奥の粗末な小屋で暮らしている。山奥で、化石探しでもしているようである。



このたび、隠遁生活者は、その山小屋付近で、「面白い化石」を発見したよう。そして、友人である国領教授に、見て欲しいと依頼して来たというわけだ。



国領教授は、出かける前に俺に、顛末や滞在計画等を説明した。

(俺と国領教授は、研究チームを組んだりと、何かと関係が有る。)

だが、国領教授は、帰ってくる予定の日になっても帰って来ないし、滞在を延期するという連絡も無かった。



俺は、教授の携帯電話に連絡してみたが、つながらなかった。隠遁生活者の携帯電話の番号も知っているので、そちらにもかけたものの、つながらない。

唯一、隠遁生活者宅の固定電話はつながった。だが、隠遁生活者が出たものの、会話がかみ合わなかった。

こちらの質問に対して、ただただ「心配ない」とばかり言っていた。また、電話越しの隠遁生活者の様子は、以前のものと違っていると感じた。ことばのやりとりならできているものの、感情は伝わらないというかな。(状況的に「心配ないと」言われて心配が収まるものでもないのに、心配ないと述べるのみで言うべきことは全て言ったと言われているような。)

また、その電話で教授の声も聞いた。

声は、確かに教授のものだった。だが、隠遁生活者と同じように「心配ない」とばかり言って話しはかみ合わない。

その間に、俺は教授の奥さんにも連絡した。俺同様の心配であるようだったが、俺同様に、隠遁生活者宅に電話して、教授の声は聞いたと言う。



奇妙には感じた俺だが、「心配ない」を信じて、教授の帰ってくるのを待っていた。

だが結局は、連絡も無いままに一週間経った。



俺は、こうした一連の事態に、今日、強硬手段に出る。隠遁生活者宅に、連絡無しに、押し掛けるのだ。


第二章:山小屋への遥かなる道のり|奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】


①異世界小道?


俺は大学研究室を出て、〇〇線(電車)に乗った。都心とは逆の方向、多摩地方の山々の広がる地へ、向かった。



電車内でスマホ検索して、国領教授の滞在しているはずの山小屋周辺等で、何ら事件等は発生していないか、調べた。

検索結果として表示されたページの中で、個人的なブログも表示されて、その内容は気になった。それは、次のもの。

「登山中に谷を見下ろした。谷に茂る木々が、激しく揺れている箇所が有った。周囲は全く揺れていないから、風によるものではない。さらに、その妙な揺れは移動していた。まるで、木々を揺らしながら歩いている何者かいるみたいだった」と。

この投稿に対する返信はたくさん有って、ブログ内ではちょっとした騒ぎになっていた。

国領教授のことと関係有るのだろうか?



窓の景色は、多摩地方の都市をいくつか過ぎて、そのたびに、遠くに眺めていた山々が近づいてきた。やがて、それら山々の麓に在る駅に、到達した。

駅舎を出ると、山々は目前にせまり、見上げるようにそびえている。今先頭に並ぶ山々の間からは、違う山々が顔をのぞかせている。都会と違って、昆虫の鳴き声が目立つ。

駅舎周辺は、駅舎や駐車場等のために、平地にならしているので、土地は開けている。そんな駅舎スペースの外を、二車線のアスファルトの道路が横切る。

この二車線道路は、山々の合間を縫う幹線道路であり、それなりの量の車も通る。

ただし、まだ深い山々の真っただ中ではない。この駅舎の辺りから、(都心とは逆方向に進むと)どんどん山々は深くなっていくのだ。



この幹線道路からは、小道もところどころに延びる。

幹線道路を進むなら、深い山中へと分け入っても、その先には都市が待っている。一方、小道を進むと、深い山中をさらにさらに深くへと分け入って後に、深い山中でゴールとなるものも有る。

俺は本日、そんな小道へと分け入る。



俺は、幹線道路を、山々の深くなる方向へと歩き出した。

二車線道路の左右には、木々が茂る。道路に覆いかぶさることもなく、日中の今は太陽の光を受けていて明るい。適度に森林浴を楽しめるので、ハイキングには良いだろう。

しばらく歩くと、幹線道路から小道が伸びる地点に至った。車一台分程の幅の小道だ。

今回、俺の進むべき小道だ。まるで、木々の作るトンネルのようだ。



俺から向かって、小道の右手側は木々の茂る山肌が迫っている。逆に、小道の左手側は山の下り斜面だ。どちらの側にも、木々が聳えて枝々を伸ばす。

枝々はそれぞれ、太陽光を求めてくねくねと伸び放題である上に、葉を茂らせている。そのせいもあって、小道にまで到達する太陽光は少ない。

幹線道路からは、この小道の先は薄暗くて見通せない。まるで、異世界への入口とでも言おうか?

何やら、この小道は人が作ったものではなくて、人の世界に用のある異世界の者が作ったものだとも感じてしまう。



俺は、小道へと歩を進めた。


②遥かなる山小屋-地平線へと続く山々


薄暗い小道を、俺は、教授にまつわるものは落ちていないかも注意しつつ歩く。右手側の山肌やら左手側の谷を目視して。



先程の幹線道路は、この小道への入口を過ぎて以降は、下り道。逆に、この小道は登り道。

小道を歩きはじめた時には、左手側の木々の間から、幹線道路を見下ろすこともできた。走る車のエンジン音も聞こえてきた。

だが小道歩いている内に、幹線道路と小道の高低差は大きくなり、幹線道路は見えなくなった。エンジン音も聞こえなくなった。

今や俺は、薄暗く閉ざされた世界を、寂しく歩いているようだった。

この小道の先に、それも、歩きなら遥かな先に、例の隠遁生活者の山小屋は有るのだ。



俺は小道を歩き続ける。小道を曲がったり、登ったり下ったり。

いつの間にか、右手側が谷で左手側が山肌と、逆になった。俺は、次第に、方向感覚が無くなってきた。ここまで一本道だが、同じ道を引き返しても、幹線道路に戻れる気もしなくなってきた。



さらに小道を歩く。

左手側の木々の奥行が浅くなって、薄暗いこの小道へ差し込んでくる光が強くなった。

さらに歩くと景色は開けた。

開けたそこは、緩やかな斜面ではなくて、崖であった(崖だから木々の奥行きは減ったようだ)。

遠くを見通せた。

地平線へと延々、山々は続いている。また、山々には木々が茂っていてまさに深緑色の世界だった。(山々の間に、山々の裾や平地も有る。それらは、まるで木々の大海原だ。隠遁生活者の家は、そうした所に位置していたような。)

随分と遠くまでやって来た気持ちだ。それでもまだまだ、隠遁生活者の山小屋は遠い。俺は、地平線へと広がる山々を横に、また歩き出した。


③遥かなる山小屋-夕立


小道をさらに奥へと歩いていると、周囲がさっきよりも暗くなっていることに気が付いた。

見上げると、枝や葉の間から、真っ黒な積乱雲が空を覆っているのが見える。冷たい風はドっと吹いて、周囲で落ち葉はカラカラと舞う。そして、山一帯に雷鳴の轟音は響いた。

俺がリュックから傘を出すのとほぼ同時に、葉っぱをパチパチ打つ音がする。いかにも大粒の雨だ。どんどんと雨音の連打は速くなっていき、ついに滝のように降り出した。左手側の地平線は、滝のような豪雨に煙る。

慌てて傘を広げると、傘を打つ雨音が激しい。

不定期な強い風が、方角を問わず雨の滝をねじまげる。そのたびに俺は、バケツで水を浴びせられたように、水浸しとなった。俺は、傘を両手で握りしめつつ、前後左右風上へと向けて、傘が壊れないように必死になった。

時折閃光は走り、雷鳴が響く。



それでも相変わらず、小道を歩き続けた。

何分たったか何十分たったか。

いつの間にか、強風や豪雨に苦労をせず歩いている自分に、気が付いた。

空を見上げると、先程の真っ黒な雲は、太陽光を透かす程の薄い雲になっている。雨粒の大きさも、小さくなった。風も弱くなった。雷鳴も、遠くの方で小さく聞こえている程度だ。


④遥かなる山小屋-夕空そして夜の闇


さらに、山小屋を目指して歩く。

灰色の空には、いくつもの隙間ができてきた。

地平線に広がる山々に、あちこちで太陽光の柱が立つ。傘を打つ雨音は、空から降ってくる雨ではなくて、木々から落ちる滴の音だ。



その後も、時間が経つ程に雲はかき分けられていった。空ものぞくことができる。

ただしその空というのは、青空でなくてオレンジの空。スマホで時刻を見ると、夕方の18時であった。



柔らかなオレンジの空に、ふと穏やかな気持ちになったが、ふと本日の計画を思った。

空の青い内に、隠遁生活者の山小屋に着くと思っていたのに。



その時、俺の頭上で、バサッと木々を揺らす音がした。

見ると、猛禽類のような大きな鳥が、左手側の崖へと飛び立ったところだった。山々の折り重なるその奥に夕日のオレンジの柔らかく輝く地平線へ、横一文字に翼を広げて空を切っていった。

遠いオレンジ色の空には、チリジリの細かい雲たちは、紫色に染められつつ、追いかけっこのように同じ方向に流れている。

あと1時間もすれば夜の闇に包まれるだろうと俺は考えた。



それからの小道は、どんどんと下っていった。崖沿いの道から見えていた景色で言う、「木々の茂る大海原」に潜っているのだ。

先の見通せない真っ暗な深海のようだ。時刻も夕方から夜へと差し掛かっており、周囲のあらゆるものが藍色に染まっている。



さらに歩いていると、懐中電灯を必要とするくらいに暗くなった。俺は、隠遁生活者の山小屋は、この先に本当に有るのだろうかと、不安になってきた。もし、記憶違いならどうしようかな。


第三章:木々の間から聞こえる奇妙な声?隠遁生活者の山小屋|奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】


①誰かいるのか?


さらに歩く。

小道の脇の斜面に、不自然に木々が途切れている場所を見つけた。そこに、階段も有る。隠遁生活者の山小屋への入口だ。

俺は、安心感でため息をつきつつ、階段に足をかけた。



その時だ。



周囲の闇の中から、話し声らしきものが聞こえた。



どこだ?



振り返って懐中電灯あちこちに向ける。小道やガードレールや木々等が、懐中電灯の光の範囲のみ、闇の中に浮かぶ。

そこには、誰もいない。でもまだ、話し声のようなものは聞こえる。

会話のように、二つの違う音が抑揚をつけてやり取りしている。だから、単に「音」ではなくて「話し声」「会話」だと判断した。

ただし、何を言っているのか理解できない。音が小さいからではなくて、知らない言語を聞いているようだ。

やがて、「話し声」は徐々に遠ざかっていって、聞こえなくなった。後には、虫の鳴き声や葉や枝の風にざわめく等だけであった。



俺は疑問にも、また不気味にも思った。

とりあえず、階段へと身体を直して上った。


②電話の時と同じ?隠遁生活者の奇妙な様子


階段を上りきると、山の斜面に沿って細い道は続く。その先にぼんやりと灯りが見える。隠遁生活者の山小屋だ。

俺は斜面を登り、隠遁生活者の木造の山小屋玄関に立った。

呼び鈴はないので、拳でノックをした。返事が有る。それから、こちら玄関へと向かって来る足音が有って、ドアが開いた。



そこには、以前会った通りの隠遁生活者が灯りを持って立っていた。

隠遁生活者に対して、質問したいことはたくさんあるが、不躾なのはよくない。俺は、「お久しぶりです」「連絡も無しに来てしまいました、すいません」等と、挨拶をした。



挨拶は通じたのか通じていないのか、解らない。隠遁生活者は、ただ「あがれあがれ」等と言って中に入るよう促す。俺は靴を脱いで上がる。

隠遁生活者は、しゃべり方も表情もぎこちない上に、俺を先導するために歩くが、ゴトゴトと変な音もする。

「こんな感じの人だったかな?」と疑問にも思った。

それから、「きょうはにかいにとまりなさい」と言いながら俺を二階の部屋に誘導した。俺が部屋に入ると、とっととドアを閉めて階段を降りていった。

流れ作業のようだ。



一人で部屋に残された俺だが、話しをしないことにははじまらない。俺は、隠遁生活者を追って一階へと部屋を出ようとした。

ところが、ドアノブに手をかけたところ、回しても押しても引いても、ドアは動かない。

外から施錠されているのでは?という考えに至って、疑問と不安は芽生えた。

室内を見回すと、部屋の窓の鍵が不自然だと気が付いた。フック式のロックは、内からでなく外から施錠をするように設置されている。そして施錠されていた。

隠遁生活者は、なぜ俺を部屋に閉じ込めたのか?


③脱出できるか?そして隠遁生活者の秘密を捉えろ


だが、俺には知識が有る。フック式ロックを、正規の操作で外すのではなくて、ロックの付いていない側から外せるのだ。俺は脱出を試みることにした。



鞄から針金を取り出して窓際へ行って、針金をフック式ロックに関わっている重なった窓の隙間に通して、多少強引に操作して、フック式ロックを外した。

探偵小説好きの俺は、ガムテープと針金とピッキング道具は常に持ち歩いている。学者でなければ刑事になっていたと思っている。

持ってきた荷物を背負って、ロックを外した窓を開けて、雨どいを伝って裏庭へと降り立った。



靴を取りに行くため、表玄関へと小屋に沿って回る。

通る窓の一つ一つで、奇妙な隠遁生活者がこちらを監視していないか、教授にまつわる情報は得られないか、家の中の様子を探りながらそろりそろり歩いた。



玄関に近い窓から室内を見通した時に、隠遁生活者を見つけた。

小さなランプの黄色い光にぼんやりと、部屋は浮かぶ。その中で、背もたれの付いた木の椅子に、隠遁生活者は座っている。俺のいる方には、背を向けている。背もたれの上側に隠遁生活者の頭だけのぞいている。



その窓をそろりと通り過ぎて、玄関の前に来た。

ゆっくりと、玄関のぶを回す。

ガチャと音がした。家の中にいる隠遁生活者は、この音に反応する動きがあるかもと、ドアに耳を当てた。

特に動きはないようで、全く静まり返っていた。小さい音だが、何やら機械のエンジンのような音がするのみ。

俺はそのまま、ドアに耳を当てつつゆっくりと玄関の扉を開けた。

そして、玄関に有った俺の靴を手に持った。



後は、靴を履いて、この山小屋から逃げるのみだ。

ただ、俺は迷った。

隠遁生活者の奇妙な言動からして、近寄らないのが妥当だろう。でも、国領教授の情報を全く得られていないのは、味気無い。また、隠遁生活者に対して問い詰めたいことも多々ある。

それに、建物から隠遁生活者以外の気配はない。隠遁生活者と取っ組み合いなんて嫌だけど、俺が隠遁生活者と言い合いしている時に、誰か敵として加勢する者もいないはず。



俺は、手に持った靴を、また置いた。そして、そろりと家に上がった。



先程、窓から確認したところでは、隠遁生活者は玄関横の部屋にいるはず。俺は、その部屋の前に立った。

俺は取りあえず、ドアに耳を付けて部屋の中の音を探った。中から、小さなエンジン音以外には目立つもの無い。



問い詰めたい思いも不安の思いも有りつつ、俺は思い切ってドアを開けた。

そこには…。

隠遁生活者が、先程、窓から頭を覗いたのとは逆に、こちらに向かって座って居た。

隠遁生活者の身体は、Yシャツのボタンは外されていてはだけている。そして、はだけたそこは、生身の身体ではなかった。

黒くて金属のように硬そうなものであって、床下から伸びている何本ものコードが刺さっている。

隠遁生活者の顔(この光景を見たなら本物の隠遁生活者ではなくてそっくりに作られた何か疑わざるを得ない)は目を閉じたままであって、俺のことに気が付いていないように無反応。

でも、何らの刺激を与えると目が開いて、俺に何か攻撃をしてくる気もした。



俺は、心は焦りながら、刺激を与えないようにゆっくりと後ずさりした。

後ずさりしつつ気が付いたのは、先程からのエンジン音は、床下から聞こえてくるようだ。ここは1Fであるが、床下に、地下室でも有るのだろうか?



やがて、玄関にたどり着いた。

ここからでは、部屋の中にいる隠遁生活者(或いは隠遁生活者そっくりに作られた何者か)は見えない。

そのまま、静かに靴を履いた。そして、開いたままにしてある玄関ドアを、ゆっくりと外に出た。

外に出てからは、恐怖や焦る気持ちが一気に爆発した。庭から、小道へと、一気に駆け降りた。


その時。

また先程のように話し声がした。やはり山小屋の周辺に何かいるのか?

先程とは違って、慌てているようにも思う。どこからだ?

俺は、さっとリュックから懐中電灯を取り出して、声のする方へと向けた。


第四章:謎の生物?そして教授は?|奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】


①大きくて腕と手と爪に特徴有る生物


懐中電灯は、光の範囲のみ、闇から小道、ガードレール、ガードレール向こうの木々の茂る自然の地を浮かび上がらせる。

そしてガードレールの向こうで、うごめいているものがあった。黒くて大きなものだ。

何かいる!でも、何者かわからない。俺の中で、不安と緊張感が走った。

俺は、うごめくものが懐中電灯の灯りの中心になるように、向けた。

うごめくものから、何か伸びた!腕だ!

うごめくものは、腕を伸ばして指でガードレールを掴んだ。

人か?

いや…。

その指に目を凝らすと、やたら太いし、毛むくじゃらだし、爪は鋼鉄のように丈夫そうな上に鋭利で長い。

何者だ?

それから、うごめくものは、ゆっくりと頭、上半身、下半身の順に起こす。片方の手でガードレールに手を添えて、もう片方の手で顔をおさえつつ立つ。

人間のようでもあるが、ゴリラのようでもある。でも、どちらでもない。身長は2mを越えている。身長に比して、腕はやたらと長い。また、腕の長さに比して、指はやたらと長い。全身毛むくじゃら。



俺は、恐怖に後ずさりしていたが、そいつは、立ち上がって後も、ガードレールに手を添えて、フラフラしている。

顔を手でおさえつつ、何かを探すように首を左右にきょろきょろして、鼻は何かを探すように嗅いでいる。

俺にとびかかってくる様子も無い。そんなに獰猛な生物でもないのか?

首をきょろきょろさせていたが、俺のいる方に定まって来た。匂いで俺を感知したようだ。



それから、抑揚や高低有りの、多種の音を発する。ことばのようにも思った。

試しに、俺はそいつに、懐中電灯を向けたまま、しゃべりかけて見た。「何者だ?」と。

するとそいつは、何を言っているのかはわからないが、ことばのようなものを返した。何となくだけど、俺に何かを尋ねているようにも思った。

俺はよく解らないので、「解らない」と述べた。その後も、何か尋ねられている気がしたけれど適当に返事する以外にない。



しばらくしてそいつは、顔を覆っていた手を外した。

その瞬間、そいつは激しいうめき声をあげて、ガードレールから手を離して、痛そうに両手で目を覆う。また、ガードレールから手を離したことで、バランスを崩してガードレール向こうの斜面を転げ落ちた。



俺はガードレールにかけよって、斜面下に懐中電灯を向けた。

だが、そこにはうごめくものは何も無い。草木が茂って、夜風に揺れているだけだった。



一瞬で消えた?

何だったのだろう、今の生物は。俺の知らない生物か?人類にとって謎の生物か?



俺はまた、はっとした。

山小屋への階段を、懐中電灯で照らす。隠遁生活者らしき何者か?は、俺を追って来ていないようだ。



とりあえず、今日のところは逃げよう。俺は、来た道を走り出した。



俺は、時々振り返って何も追いかけて来ていないことを確認しつつ、真っ暗な山道を、恐怖心とともにひたすら走った。

走っても走っても、暗くて細い道は続いていて、暗闇から抜け出すことができないかもしれないと、思った。



それでも、走っていると、暗闇の奥で、かすかに自動車の走る音が聞こえてくるようになった。また、車のライトや街灯も見える。

それから、幹線道路へ出ると、もう一度小道を振り返った。妙な生物等、追ってきていないようだ。

俺は、走るのをやめて、歩いた。

やがて、電車の走る音も耳に届くようになった。遠くに、駅舎の灯りも目に入るようになった。

それから、安心感も持ちつつ、駅構内に入った。


②戻って来た?教授


電車に乗ってから、色々考えた。

隠遁生活者の奇妙な様子を、警察に連絡するべきなのか?連絡するとしたら、どのように説明する?事件として取り上げてくれるか?そして何より、国領教授は今どこにいるのだろうか?

それと、あの妙な生物は何者なのだろうか?懐中電灯の光ですら激しく眩しがったり、大きな爪だったり、まるでモグラのようではないか?地中で暮らしているのだろうか?



その後、自宅アパートで、食事中もシャワーの時も布団に入ってからも、隠遁生活者のこと、国領教授のこと、妙な生物のことを考えていた。



結局、答えを出せないまま、翌日になった。とりあえずは、いつものように大学に出勤した。



研究室のデスクに座っていた時だ。

ノックをした者があった。返事をするより前に、ドアが開いた。

驚いたことに、国領教授が入ってきた。

俺はデスクから立ち上がって、国領教授に歩み寄って、「帰ってくる予定の日にも帰って来ないから心配したんですよ」なんて、言った。国領教授の顔を見ながら。

そんな俺に対して、国領教授は、「しんぱいさせてしまってもうしわけないけど、なにもしんぱいすることはないから、わたしのことをほうっておいてくれ、けんきゅうしつをのぞかないでくれ」と一方的に言って、すぐに俺に背を向けて部屋を出るべくドアへと向かった。



ドアに向かう国領教授は、歩くたびにゴトゴトと変な音がしている。

また、今見た国領教授の表情は、妙にぎこちなかった。

会話もかみ合わない。

それらは、昨日、山奥で会った隠遁生活者の変わり様と、同じではないのか?…。



「帰ってこない国領教授の件」は、これで解決なのか?そんなはずはないだろうな…。


以上、「奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】」。

続きは「追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】」へ。



※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

※本ブログの記事は全て著作権によって保護されておりますことへのご理解をお願い申し上げます。


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テーマ : 怪談/ホラー
ジャンル : 小説・文学

追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】

この話は、「奇妙な化石?或る山奥【怪奇話】」の続きです。

さて、教授は本物か偽物か?偽物だとすれば、何のために大学に潜り込んで来たのか?この話は、或る化石をめぐって、深夜の大学博物館での怪奇的な追跡劇(コズミックホラー)です。


(分量は文庫本換算13ページ程。以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:教授の偽物?|追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】


俺(稲岡良仁・29歳・多摩文理大学講師)は一人、自分の研究室のデスクに座っている。

もう夕方だ。

3Fに有るこの研究室の窓から、オレンジの夕日が多摩の街を遠くまで染めているのが見える。

手前には広い大学キャンパス各棟、その向こうに中小企業のビルの混ざる住宅街、その向こうに街中心部の高層ビルやデパート等の建物。みんな、夕日の柔らかいオレンジ色に染まっている。



徐々に世界は静まる時間帯に。だが、今日の俺の戦いは、これから始まる。

国領教授は、夜中に自身の研究室に籠って、何をしているのか?今日は俺も帰宅をせずに、こっそりと国領教授の夜中の行動を突き止めるという、強硬策に出る。



国領教授は、戻ってきた日以来、様子はおかしい(「奇妙な化石?或る山奥【コズミックホラー小説】」のこと)。

国領教授もまた、隠遁生活者同様、表情はぎこちなくて、歩くたびにゴトゴト音をさせるようになっていた。会話もかみ合わない。帰宅もせずに、自身の研究室で寝泊まりにしているようだ。

事務局に国領教授の授業を尋ねたところ、しばらく休講だそうだ。国領教授の奥さんに連絡をしたところ、研究のためしばらく帰宅しないと言っているそうだ。

果たして、国領教授は、研究室に籠って何をしているのだろう?大学に人のほとんどいない夜中にはどうしているのか?

そんな疑問を解決するためにも、俺は今日、俺の研究室に泊まって、同フロアの研究室に籠る国領教授の夜以降の行動等、探ろうと思っているのだ。



ただ、俺は隠遁生活者の家での体験(「奇妙な化石?或る山奥【コズミックホラー小説】」のこと)からして、今本大学にいる国領教授を、本物だとは思っていない。「国領教授に扮した何者か偽物」へとすり替わっていると思っている。



夕方になった今だが、「国領教授に扮した何者か偽物」に、特に動きはない。


第二章:追跡劇|追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】


①動き出した教授


それから時間は過ぎた。俺は、教授の動きがないか、廊下の音を探りつつ、デスクに座って論文の案を考えたりしていた。

夕日は沈み、すっかりと夜に。



22時を過ぎる。

俺の居る大学研究室の窓から見えるキャンパスの景色に、人の姿はほとんどない。時々、電灯の下でダンス練習をしている学生等がいたり、どこぞの部屋で活動を終えた一団が下校する場面も有るくらい。



23時。

もう、サークル等の活動をしている学生も見えなくなる。



そして0時。

廊下でゴトゴトと音がしてきた。「国領教授に扮した何者か偽物」の歩く音だ。俺に、にわかに緊張感が生じた。

俺は椅子から立ち上がって、ドアの前に立って耳を澄ます。ゴトゴトという音は、俺の研究室の前を通り過ぎていったようだ。

通り過ぎたことを確認してから、俺はそっとドアを開けた。廊下には、遠くでゴトゴトという音は響いている。



俺は研究室を出て、その音を追った。

足音を立てないように慎重に、でも「国領教授に扮した何者か偽物」に追いつくために、素早く、廊下を歩いた。

ゴトゴトという音は、それ程速いペースでもなくて、また歩幅も大きくはないようだ。ゴトゴトの音が大きくなっていることで、追いついていると感じた。

廊下の曲がり角のたび、その曲がり角を曲がった先の廊下を「国領教授に扮した何者か偽物」は歩いてはいないか先を見通して、進んだ。

そして、一つの曲がり角からそっと先を見通すと、その廊下をずっと先の方で、「国領教授に扮した何者か偽物」を見た。こちらに背を向けて、ゴトゴト言わせつつ、さらに奥へと歩いていた。



俺は、追うスピードを落とした。

曲がり角や廊下の柱等に隠れつつ、「国領教授に扮した何者か偽物」との距離を保って、追跡を続けた。


②向かう先は?


「国領教授に扮した何者か偽物」が高性能な機械であるなら、ちょっとした物音にだって気づく恐れも有る。また、音以外にも、何ら刺激に反応するセンサーを搭載しているかもしれない。例えば、俺が後ろから追うことで生じる空気の揺らぎを感知する機能も有ったり?

分からない以上は、下手な動きはできない。その背を見ながら、緊張感は増した。



それから、「国領教授に扮した何者か偽物」は大学研究棟を出た。

途中で立ち止まったりきょろきょろしたりせず、真っ直ぐに大学キャンパス内を歩く。

おそらく、目的地ははっきりしているのだろう。

俺も大学研究棟を出て、キャンパス内にところどころそびえるイチョウの木に隠れつつ、後ろを追った。



そして「国領教授に扮した何者か偽物」は、大学博物館に到着。表玄関前に立つ。

俺はイチョウの木に隠れて、「国領教授に扮した何者か偽物」は何をするのだろうかと眺めていた。

すると「国領教授に扮した何者か偽物」は、戸締りをしてあるはずの大学博物館表玄関スライド式自動ドアを、手動で押し開けて、中に入って行った。



俺は、ゴトゴト言う音が遠のきそうになった辺りで、イチョウの木を飛び出して、玄関ドアの開いている大学博物館へとそっと入った。


③博物館に何がある?


大学博物館は、表玄関を入ると、真っすぐに廊下は続く。その廊下の先で、ゴトゴトという音は響いていた。

営業時間外でなおかつ夜中である大学博物館内は、当然暗い。基本は暗闇の世界であって、非常口を示す緑の灯りの周囲や消火器の置いてある赤い灯りの周囲のみ、壁や床等は、ぼんやりと浮いている。

ゴトゴト音のする前方に目を凝らしも、「国領教授に扮した何者か偽物」の背中は見えずに、暗闇が口を開けているのみだった。



俺は、日常よく大学博物館を訪れるので、暗くても、どこに何があるか、見当は立てられる。

俺の記憶、非常口等の灯り、時々スマホの灯りを駆使しつつ、「国領教授に扮した何者か偽物」を追った。



しばらくして、ゴトゴト響く足音は、遮られるように減少した。

おそらく、どこかの部屋に入ったのだろう。

では、どの部屋か?俺は記憶を頼る。廊下には、1F展示室への第一入口と第二入口が並ぶ(扉無し)。その先には、階段とスタッフエリアの出入口。

階段を上っている音ではないし、スタッフエリアのドアを開けると開閉音がするはず。「国領教授に扮した何者か偽物」は、おそらく、1Fの展示室に入ったのだろう。

1F展示室は、人類史のフロアだ。展示室や展示室奥に有る収蔵庫に有るものと言えば、人類史関係の史料だ。



やがて、俺は、1F展示室入口にたどり着いた。

展示室入口をくぐると、室内ではゴトゴトという音が響いている。やはりこの1F展示室にいる。



俺は、非常口等の灯りやスマホの灯りを利用しながら、暗い展示室内で、ゴトゴト言う足音を追った。

展示物は、一列に整列配置してある場所も有れば、入り組んで配置してある場所も有る。不用意に歩いていると、展示物にぶつかる恐れも有る。

俺は、スマホの弱い灯りを、床に照らしつつ、慎重に歩いた。ぼんやりと浮かぶ床の端に、猿人復元模型の毛むくじゃらの脚や化石復元模型の白い脚等も浮かんできた。



身長に歩いていると、ふと「国領教授に扮した何者か偽物」の動きで気になることが有った。

俺の進む速さは、暗さや展示物にぶつからないようにとの慎重さ等から、遅くなった。一方、「国領教授に扮した何者か偽物」のゴトゴト言う足音は、迷いもなく一定だった。

それと、「国領教授に扮した何者か偽物」が懐中電灯でも使用していれば、周囲は灯りに照らされて俺にもわかるはずだけど、室内はどこも暗闇だ。

おそらく、「国領教授に扮した何者か偽物」は、暗闇でもものを捉えられるのだろう。

となると、俺に見通せない暗闇から、「国領教授に扮した何者か偽物」は俺を見通せるということか?。

俺の中で、より一層緊張感は高まった。



ごちゃごちゃ思いながら進んでいると、ふと、展示されている旧人の復元模型に触れてしまった。復元模型は揺れる。俺は、さっと血の気が引く思いだった。

ただ目立った音は立っていないし、ゴトゴトいう音はこちらに気にするようなそぶりもなく一定のままだ。



やがて、ゴトゴトいう足音は止まった。

どこに立ち止まった?暗くて見えないが、今俺のいる所から推測すると、1F隅に有る、収蔵庫扉の前だ。

しばらくすると、収蔵庫扉の、特徴的な開閉音がする。

やはり。

でもなぜ、「国領教授に扮した何者か偽物」は収蔵庫に入った?また、なぜ施錠されていない?



疑問に思いつつも、俺は展示物の間を慎重に歩いて、俺もまた収蔵庫の扉の前に立った。


④収蔵庫に何がある?


俺は、収蔵庫の扉に耳を圧し当てた。

金属製のドアに隔てられた向こうで、ゴトゴトいう音が、一定間隔で聞こえる。やはり、「国領教授に扮した何者か偽物」は、収蔵庫内にいた。

収蔵庫内にも、人類史の史料は多々有る。



ただ、俺は、今は収蔵庫に入らないことにした。

収蔵庫扉は、開閉すると特徴的な音を出す。また、収蔵庫内は、棚が何通りにもズラリと並んでいる上に、歩くスペースは非常に狭い。音で気づかれるリスクは高い。

そして、収蔵庫の出入り口はここだけである。「国領教授に扮した何者か偽物」はまた、ここから出てくるはず。



俺は、収蔵庫出入口から斜め前方に少し離れた所に有る展示物に隠れて、出てくるのを待った。待つのみであって、しばし休憩のように、ため息をついた。



息を入れなおし、扉が有るはずの闇をじっと見ていると、ドアノブを回すガチャガチャという音がした。

俺に、緊張感が戻る。身体全てを、展示物に隠れるように潜んだ。

続いて、開く時のきしむ音、閉まった時のガチャンという大きな音が、展示室に響く。

そして、ゴトゴトという足音が、規則的に響きはじめる。

俺は、息すらを止めた。

ゴトゴトいう音が、展示物越しに、俺の目の前を通り過ぎた。

音が一定程度遠のくと、俺は展示物からそろりと飛び出して、音の後を追った。



ゴトゴトいう音は、おそらく、展示室の出入り口に向かっている。来た道を戻っているのだろう。

俺は、来たとき同様、暗闇を記憶と非常灯等の灯りやスマホの灯りを駆使して手探りに進む。

そして、もうすぐ展示室の出入り口というところまで来た。



展示室出入り口を入ってすぐの壁には、非常灯の灯りが設置されている。

俺の居る所から展示室出入口は、非常灯に照らされた薄暗闇の中に、より暗い廊下への口を開けているようにも見える。

薄暗闇に、「国領教授に扮した何者か偽物」の姿は、浮かび上がった。腕に何かを抱えている。おそらく、収蔵庫から持ちだしたものだろう。

そのまま、暗闇の口へと入っていく。



俺は、展示物に隠れながら進むが、「国領教授に扮した何者か偽物」の足音は、壁越しになってボリュームを落とす。もう、部屋を出たようだ。

それなら、俺はもう、隠れる必要はない。展示物の影からそっと飛び出して、出入口へ向かった。



展示室の出入口は、非常灯が薄っすらと照らしている。

俺は、少し気を抜いてしまった。また、手に持っていたスマホを、ポケットに入れつつ歩いた。

その時だ。

歩くために出した脚だが、つま先を通じて脚に重くて固い感触は有って、前進を妨げられたと感じた。同時に「コーン」と金属音は響いて後に、ドタン!と大きな音となった。

消火器を蹴飛ばしてしまったのだった。

不覚だった。非常灯の灯りを、歩くためにとばかりに意識していたため、非常灯の下に消火器が在ることを忘れていた。

暗闇と静寂を乱すような大きな音とともに、俺の血の気は引いた。気づかれたか?



展示室の外で響いていたゴトンゴトンという音は、立ち止まった。

一瞬の間が有って後、ゴトンゴトンという音はまた始まる。足音は、こちらに向かって大きくなっていないだろうか?

混乱しそうな気持を無理やり抑えて、展示室内の奥へと隠れに戻る。


⑤脱出できる?


俺は、展示室奥へと手探りしつつ速足で向かう。

適当なところで、展示物の影にしゃがみ、膝歩きやハイハイをしつつ進んだ。

ゴトンゴトンという音は、展示室内に響きだす。「国領教授に扮した何者か偽物」は、展示室に戻ってきた。



俺は展示室の中程まで来た。ゴトゴトという音は規則的に響く。

俺は、額から汗が流れるのを感じた。見つかってしまうのか?



俺は、展示物の影からそっと、出入口辺りを見る。「国領教授に扮した何者か偽物」は、非常灯に浮かび上がる。また、出入口辺りをウロウロしている。



ただ、緊張感の中で俺のセンス等は研ぎ澄まされたのか、不自然なことにも気が付いた。

もし、「国領教授に扮した何者か偽物」は俺が立てた消火器の音で慌てて戻って来たとして、その割にペースが変わっていない。

もっと思うと、研究棟の廊下を歩く音も大学構内を博物館へと歩く時も、ペースは同じだったと思う。

それだけでは確証を持てないものの、歩くスピードに限界があるのではないか?

俺は、その可能性に賭けて、一つの作戦に出ることにした。



「国領教授に扮した何者か偽物」は、速さに自信が無いのなら、展示室の出入口辺りで俺を待ち構えるだろう。俺を追って展示室の奥まで来れば、速さに勝る俺は、出入口へとダッシュで脱出できる。

とは言え、「国領教授に扮した何者か偽物」は、出入り口付近で待ち構える作戦だと、時間的な限界が有る。夜が明ければ、出勤者も有るのだから。

俺は、忍耐作戦か速さ作戦で、脱出できるはずだ。



俺は、展示室の中央くらいまで来た。なおも展示物の影を膝立ちやハイハイで移動する。同時に、出入口つまり脱出口の位置も確認していた。

ゴトゴトという足音は、展示室に入ってから、動いたり止まったりしている。見当たらない俺を探して、展示物の前後を確認でもしているのだろう。俺からは、遠い位置だ。出入口からも、少しずつ離れていると思う。



それから、目論見通り、俺の居る位置の方が「国領教授に扮した何者か偽物」のゴトゴトという位置よりも、展示室出入口に近くなったと思った。

俺は、展示物の影で膝歩きやハイハイをしつつ、より展示室出入口へと近づいた。

そして、展示室出入口まで一直線のところまで来た。

脱出の時だ。俺は立ち上がった。展示室出入り口に通じる通路へと、飛び出した。

俺の中で緊張感よりも希望が目立っている。



俺が立ち上がると、「国領教授に扮した何者か偽物」は俺に気が付いたようで、暗闇の中でゴトゴトという音が規則的に響きだす。こちらへと向かっているのだろう。

だけど、俺の予想通りだ、俺の方が脚は速い。俺は追いつかれることもなく展示室を出た。



展示室を出ると、廊下の先には、博物館玄関のガラス扉が、構内の灯りで薄明るく闇に浮かんでいる。

俺は、そちらを目指して走った。

また、玄関には、ガラス扉越しに、守衛がこちらに背を向けて立っている。

おそらく、校内を夜警していた守衛は、博物館の玄関が開いていることを不審に思って、警察に通報をして、到着を待っているのだろう。



俺は、ついに、博物館玄関を飛び出した。

そのまま守衛に言った、「不審な者が博物館内にいる」と。

だけど、守衛のその顔…。

隠遁生活者や国領教授と同じだった。ぎこちない表情なのだ。

ぎこちない表情に気づいた俺は、後ずさりをしてしまった。そんな俺に、守衛か守衛に扮した何者か偽物は、ゴトゴト言わせながら俺に向かって歩いて近づいてきた。

俺は、逃れるべく大学キャンパス内を走った。



走りながら思った。なる程と。

博物館が施錠されていないから「国領教授に扮した何者か偽物」は簡単に侵入をできたが、それは守衛等セキュリティ関係者まで「扮した何者か偽物」にされてしまったからだろう。



それでも、「守衛に扮した何者か偽物」も、そんなに移動スピードは速くない。

俺は、追いつかれることもなくて、大学を飛び出して人気のない住宅街を抜けて夜中であれど人のちらほら往来している街までたどり着いた。

往来する者みんな、表情は人間的であり、歩くたびにゴトゴト言わない。

それを見て、俺は、安心の一息をついた。



それから、終電は出ていたので、街に有るホテルに泊まった。


第三章:今まで何をしていた?戻って来た教授|追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】


それから、俺の泊まっているホテルの一室に、何者か押しかけてくることもなく、特に変わったことは起きないまま、朝を迎えた。



とりあえず、大学に行ってみよう。職員も学生もいるので、「扮した何者か偽物」も、派手には動けないだろう。

それでも、当然ながら、俺は警戒心を強く持って出勤した。

まずは大学の校門で、次に大学研究棟に入る時、自分の大学研究室に入る時。それぞれ、強く警戒心を持った。でも、特に変わったことは起きなかった。



俺は、自分の大学研究室のデスクに座って、今後の方針を練った。

「国領教授に扮した何者か偽物」は収蔵庫から何を持ちだしたのか?それを知れば敵の目的もわかるかもしれない。

でも、収蔵庫に近づくことは、さすがにできない。大学博物館の守衛は怪しいからな。では警察に連絡するか?警察にはどう説明する?

また、俺の身に、とりあえず一晩は何も起きていない。断定は早計だが、敵は俺に危害を加えるつもりなら無いと見て良いのか?



そんなことを考えていると、研究室のドアをノックする音が響いた。



返事をして、デスクを立って、迎えのためにドアを開ける。

そこ立って居たのは、国領教授だった。

俺は一瞬、「国領教授に扮した何者か偽物」が現れたと思ってびっくりしたけど、教授の表情は人間的なものに戻っていたし、歩いてもゴトゴトいわない。



研究室に招き入れると、俺は国領教授からいろいろとお礼を言われた。奥さんに、俺が隠遁生活者宅から戻って来ない国領教授のためにいろいろとしてくれたと聞かされたそう。また、教授は「自分は今日まで山で遭難していた」とも言う。

俺はわざと教授に尋ねた、「何日も前から研究室に居たじゃないですか?」と。

国領教授は首をかしげて、「妻も私を『大学の研究室に籠っている』と言っていた。何のことかわからない」と言う。

あくまでも国領教授は、隠遁生活者とともに、昨日まで深い森の中を遭難していたのだと言う。

するとつまり、10日以上も彷徨ったことになる。「その割には元気そうですね」と俺が言うと、国領教授自身もそのことが引っかかっているらしい。



国領教授は自身の記憶を辿りつつ、真剣な深い表情となって言った。

「森を彷徨っていた時の記憶は、飛び飛びだ。

何度か、土の中に引っ張り込まれた気もする。

でもそのたびに記憶が飛んでいるんだ。寝ていたのかな。目覚めると、土の中ではなくて相変わらず森に居る。そしてなぜか、疲れは飛んでいる。何かを食べた気もしないのだけれど、栄養は足りていたように思う」と。また、一緒に居た隠遁生活者も同じことを言っているとのこと。



何にせよ、教授はこうして戻って来たのなら、教授をロボットのようなものとすり替えた何者かの目的は、達成されたのかもしれない。

とすると、俺を襲う者もいないのではないか?

俺は、恐る恐るではあるが博物館収蔵庫に行ってみた。


第四章:冒険の血脈|追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】


①収蔵庫から消えていたもの


博物館収蔵庫に行ってから、変わったことはないかと探ってみた。

すると一か所、棚は空になっている。

ここには何があったかとデータベースを見たものの、消去されていた。



俺は、自分の記憶を頼りに思い出した。この辺りなら化石だったと思う。モグラのような化石だったような、もっと大きい化石だったような。

ざっくりとは、博物館収蔵庫には研究が進展せずに忘れ去られていたようなものも多いけれど、その一つだった気がする。



俺は、モグラのような化石だのとデータベースを探ったり、データベース化をされていない古いレポートを眺めて、モグラのような何らの記述はないか探った。

徐々に、40年前に定年退職をした小岡という教授が、モグラのような腕をした何者かの化石の研究をしていたことは浮かび上がる。

小岡本人の論文ではなくて、周辺に居た教授等のレポート等を読むことでわかった。

その内容は奇妙であって、モグラのような腕をした類人猿の可能性も有る等とあった。

でも、当の小岡本人のレポートや論文は見当たらなかった。もしかすると、「国領教授に扮した何者か偽物」に持ち出されたのかもしれない。

俺は今日はこのくらいにしようと、立ち上がった。


②隠遁生活者との対談


それから何日かして、俺は、隠遁生活者の家にも行ってみた。

家へのアクセスは手間だなと思いつつ、多摩地方の山中を延々と歩いた。そして、小道脇の、小さな階段を見つけた。

階段を上る前に、小道をはさんで向かいのガードレール向こうをみた。森林は茂って、昼間でも薄暗く、遠くまで見通せない。

以前、この森林から奇妙な生物が這い上がってきたのを思い出してみた(「奇妙な化石?或る山奥【コズミックホラー小説】」のこと)。

目の前に広がる森林は、至って静かだった。話し声のようなものもない。



俺は、ガードレールの奥への視線を階段に戻して、上った。

上りつつ、ピンと来た。そうだ、俺が以前見た奇妙な生物の腕、モグラのような腕だった。



その奇怪な一致に、頭は整理しきれずにいた。整理できないまま、玄関にたどりつく。

家の玄関をノックすると、返事の後に隠遁生活者は出てきた。

以前とは違い、もとの人間的表情に戻っていた。歩いても、ゴトゴト音はしない。



隠遁生活者は、俺を応接室のようなところに招き入れた。テーブルに座ると冷たいお茶を運んで来てくれた。

「稲岡君、心配して来てくれたのか?ここ10日間くらい山を遭難していたみたいでね」、隠遁生活者は言った。

俺は、「10日間山を遭難していたのは変ですね。俺は何日か前にこの家に訪れてあなたと会いましたよ」と、わざと言ってみた。

隠遁生活者は、「そうなのか?国領教授も研究室に居たことになっているらしいよね。でも、何のことかわからないんだ」と言う。



このまま話しても進展しないだろうから俺は話題を変えて、「教授に見せたかった化石って何でしょうか?」と尋ねた。

隠遁生活者は至って真面目な表情になって言う、「モグラのような爪をした、類人猿のような化石だった。でも、遭難して戻ってきた時には、どこかに消えた」と。表情は、悔しさを加える。

俺は、収蔵庫のことを思い出す。ここでもまた、モグラのような化石が登場するなんて。



この小屋付近にモグラのような腕をした生物がいること、遭難、「扮した何者か偽物」のモグラのような化石盗み。ここまでの流れからして、隠遁生活者が一人でこの山奥に暮らすのは、危険だろうと思った。


俺は切り出す、

「東(あづま・隠遁生活者)さん、危険じゃないですか?一人でこんな山中で暮らすなんて」、俺は言った。

隠遁生活者はふっと笑ってから、「大丈夫大丈夫」と意に介さないように言った。

俺は強めに言った、「変な生物も見たんですよ」と。

言うと、隠遁生活者の表情は真剣に変わった。もしかしたら、隠遁生活者は謎の生物のことを知っているのかもしれない。



俺は、「奥さんだって、一人で山中に暮らす旦那に怒っているんじゃ」と続けた。

隠遁生活者は口を開いた、「そんなことはない。自由にしていいって言われている」。

隠遁生活者は続ける、「わたしは婿養子なんだけど、婿入りの代わりに、自由に考古学の研究をさせてくれと頼んだ。きちんと働きながらなら構わないよと言ってもらった」と答える。

「この深い山中で、何を研究しようというのですか?」、俺は探るように尋ねた。

隠遁生活者は答える、「稲岡君も見たんじゃないのか?居るかもしれないんだよ、謎の生物、つまり人間のような身体とモグラのような爪を持った生物。わたしは追っている、元多摩文理大学教授小岡の孫として」。

言われた俺は、「国領教授に扮した何者か偽物」の持ちだした化石を発見した人物が、小岡という人であったのを思い出した。

俺は、小岡と隠遁生活者のつながりに驚いたが、同時に、そうと知ったからには、伝えなければならないことも有る。俺は、隠遁生活者に恐る恐る言った、「その化石、最近盗まれたんです。国領教授に扮した何者かに」と。



隠遁生活者は「え?」と驚いたような声を上げてから、一層悔しそうな表情になった。それから、気持ちを整理するためだろう黙った。

そして、しばらくしてしゃべりだした、「いるんだと思う。謎の生物。『国領教授に扮した何者か偽物』はロボットのようなものかもしれないし、私や国領教授が10日程彷徨っていたのに栄養状態に問題ないことや土に引きずり込まれたような記憶のあることを思うと…。謎の生物は、地底に文明を有するに至った可能性もある」と。



俺は、一連の話しをどう解釈すれば良い?

とりあえず、隠遁生活者に尋ねた「東さんは、いつから、その生物の存在を思うようになったのですか?」と。


以上「追跡劇!深夜の博物館【怪奇話】」。

続きは「或る山奥にて地下階段【怪奇話】」へ。



※本小説はフィクションであって、実際にある土地名や団体等とは一切関係ありません。

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ゴリラ?或る田舎の目撃談【怪奇話】

この話は、『土の記憶?奇妙な旅行にて【怪奇話】』の続きです。

或る田舎にて、奇妙な生物の目撃談をめぐる話(ファンタジー怪奇)です。果たして、人々の目から潜んで動くその生物は、人類の友か競争相手か?


(分量は文庫本換算6ページ程。以下の目次をクリック・タップするとジャンプできるのでしおりの代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:『土の記憶』を研究|ゴリラ?或る田舎の目撃談【怪奇話】


俺(駿河台辰実・30歳・獣医師)は、旅行から帰宅して後も、「土の記憶?奇妙な旅行にて【幻想ホラー小説】」で体験したことをずっと気にしていた。

『土の記憶』とは何なのか?単なるうたた寝の夢だったのか?それにしては映像を鮮明に覚えているし、自由に動き回れた印象だ。

自分の精神を病んでしまったという不安が無いわけではないが、それよりも、自分の脳等に何が起こっていたのか、理科学的興味も有るのだ。

また、『土の記憶』で目撃したゴリラのような生物とINBOU(雑誌&サイト)の記述は、関連有るのだろうか?

そんなこんな俺は、仕事終わりや休日等に『土の記憶』について、研究のようなことをしていた。



精神・神経科医ならば何かアドバイスをもらえるかと思い至って、今、自宅マンション近くの精神神経科を訪れた。(予約の上でのこと。また、あくまでも、患者として受診する。)



名前を呼ばれて、診察室へ入った。

俺を診察するのは、葦笛明(あしぶえあきら)という精神神経科医だった。同い年くらいの男だ。

一通りの質問を受けて後に、俺は『土の記憶』での体験をしゃべった。



葦笛明は、『土の記憶』について、一通り聞いてくれた。

ただし、結論は出なかった。現場にいなかった以上は、何とも言えないと言う。まあ、当たり前か。



だが、気になる情報も得られた。

俺が、『土の記憶』について、俺以外にも似た症例は有るか?と尋ねると、あくまでも似ているだけで同じとは断定できないと前置きの上で、有ると言ったのだ。さらには、話しの内容まで似ているとも。

そして、精神科医として、話しをまとめてくれた、「同じような症例の有った者たちは、その後に精神的な不具合等は見られない。だから、駿河台さんも安心すれば良い。そのメカニズムについてはよくはわからない」と。

それから、葦笛明は俺の脈拍や瞳孔等精神神経作用のチェックもしたが、異常は見られないという。




第二章:その精神科医は知っている|ゴリラ?或る田舎の目撃談【怪奇話】


俺(葦笛明・32歳・精神神経科医並びに臨床心理士)は、今、駿河台辰実という男の診察を終えた。

駿河台辰実の視線、挙動、瞳孔の様子、脈拍、問診内容などなど、どれをみても精神や神経の不具合は見当たらなかった。

ただ、駿河台辰実が俺に語った『土の記憶』というのは、以前に違う患者も語っていた。また、内容も一致している。そのことは奇妙に思った。

俺は、先程の診察時に、駿河台辰実が俺に述べた場面を思い出してみた―



駿河台辰実は言った、

「旅館で妙な男に出会った。土や石たちに刻まれた自然の作用を、映像や音等に変換したので、感じ取ってくれと言われた。

半信半疑だったが、妙な男の言うように目を瞑って周囲に意識を集中すると、大きな池とその畔の古い城のようなものの有る景色に立っていた。

城のような建造物に入ってうろうろしていたが、ゴトンという大きな音がしたため、音のした方に行くと、ゴリラのような生物が倒れていて側に毒物と思われるものが入った瓶が落ちていた。

また、一見ではゴリラと思った生物は、脚は長い上に額は広くて頭は大きいのでゴリラではない。

それから、『土の記憶』は覚めた」と。―



俺には、駿河台辰実に言っていないことが有る。

駿河台辰実は、ゴリラのような生物の登場にびっくりして『土の記憶』から覚めたようだが、違う患者に、その先まで見た者もいたのだ。



その患者が言うには、メスと子どもの「ゴリラのような生物」が登場したそうだ。

倒れている「ゴリラのような生物」を見て、メスと子どもは慌てて駆け寄った。

何を言っているかわからないけど、倒れている「ゴリラのような生物」に対し、ことばのようなものをかけて後に、感情を爆発させるように言動は制御不能となった。ヒトでいう、泣くという状態かもしれないと思ったそうだ。

しばらくすると、メスの「ゴリラのような生物」は、決意したような表情を作って感情を鎮めて、未だに感情的な子どもに何かを強く語った。子どもも何かを決意したようで、泣きながら頷いたそうだ。



その辺りまでのはず。俺の診察した患者で最も長く『土の記憶』にとどまったのは。



『土の記憶』とやらのメカニズム等を探る必要もあるが、それは精神神経科医師として日々務めている俺にはできない。

多摩文理大学の心理学研究室や生物学研究室にツテも有るので、研究依頼をすることにした。


第三章:謎のゴリラ?の研究|ゴリラ?或る田舎の目撃談【怪奇話】


その日、俺(稲岡良仁・29歳・多摩文理大学考古学研究科講師)のもとに、多摩文理大学の心理学と生物学の合同チームから、電話が入った。

考古学者の俺のアドバイスが欲しかったようで、旧石器時代に文明が築かれていたなんてことはあるか?と聞かれた。

俺が応えようとすると矢継ぎ早に言う、「現生人つまりサピエンス種によるものでなくてヒト属祖先の文明或いはゴリラ属の進化した生物による文明なんて…。

私は信じてはいないけどね、精神神経学・心理学・生物学の研究で、オカルト雑誌まで探る必要も出てきたようで」と。



この質問に対して、俺(稲岡良仁)は、多摩文理大学の講師になる前ならば、笑いながら否定していた。

だが俺は、数年前、多摩文理大学図書館整理をさせられた時、ヒト祖先と分類するべきかゴリラ等類人猿と分類するべきか結論の出ていない化石についての、古いレポートを見つけた。

1900年代前半に、多摩文理大学に在籍した教授が書いたものだ。本人は、その化石の発見者でも研究者でもない。ただ、その化石を発見並びに研究した友人教授のことを、記してあるのだ。

「どこかの山でその化石を発見したらしい」「ゴリラの骨格との類似点も多いと述べていた」「化石だけでなくガラス片や金属の釣り針も見つけたそうだ」と書いてあった。

そこで俺は、化石を発見した教授の名を覚えて、その教授自身が作成した論文を探した。多摩文理大学博物館には、その教授の作成した多くの論文が所蔵されていた。なのに、その化石についてのものとなると、一切無い。意図的にレポートや論文を隠蔽しているような気もした。



今回の心理学生物学合同チームの質問と、俺(稲岡良仁)の思っている謎の化石のことは、何か関係が有るのだろうか?

応えに窮していた俺だが、「基本的にはあり得ない」とだけ伝えておいた。


第四章:或る小学生の目撃談|ゴリラ?或る田舎の目撃談【怪奇話】


俺(駿河台辰実・30歳・獣医師)は、精神神経科医の診察を受けてから一か月程経つ。

未だ、『土の記憶』のメカニズムやゴリラのような謎の生物のことはまだ未解明だ。

それどころか、さらに解決すべき問題も生じたのだ。

今、仕事は昼休み。

休憩室で昼食を終えた俺は一人、ぼ~っと窓の外を眺めつつ、その新たなる問題について、想像を巡らせている。



二週間程前の仕事中に、ニホンザルによるちょっとした事件が起きたのだ。

俺の勤めている動物病院は、都内ではあっても都心からはとても遠い、田舎町に有る。スーパーや本屋等、生活に困らない程に店は揃っているものの、各店の規模は小さいし、店と店の間は車が必要な程に飛び飛び。また、街エリアから少し遠ざかるだけで、田畑の広がる農村。

農村では、田畑が野生動物に荒らされることも、時々ある。ニホンザルに関する事件が起こること自体は、珍しくはない。



ただし、その日のニホンザルの様子は違った。ヒトに対する警戒心を感じないどころか、ド派手な動きをしていた。

それも、一匹二匹ではない。また、一部のエリア限定ではない。白昼堂々、ニホンザルは、農村エリアにも街エリアにも同時に表れて、田畑やら商店を荒らしたのだ。

幸い、人への危害は、知る限り無かった。

街エリアの動物病院にいた俺も、外が騒がしいため窓から覗くと、ニホンザル数匹駆けているのが見えた。

街エリアに有る警察署には多数の通報があり、署内は軽いパニックとなった。出動やら対処やらに、遅れは出てしまった。

ニホンザルに接近された人の中に、大声を出したり威嚇したりした者もいたが、なぜか、恐れる様子は全く無かったそうだ。まるでサーカス団に所属するニホンザルサルのように、人に慣れている様子だったそう。

ニホンザルがこのような行動を取ったのは、過去にも現在にもこの時のみだった。



獣医師の俺は、ニホンザルの本事項に興味を持った。事件後、マスコミニュースや警察発表の情報等を調べてみた。

すると、ニホンザル襲来の日に奇妙な空き巣事件も起きていたのだ。

被害に遭ったのは、本屋だ。

ほとんど店主一人で切り盛りしている本屋だが、外が騒がしいために店主は店を出て、無人にしてしまった。その隙に、本が大量に盗まれたのだ。

本のジャンルは、物理学・数学・コンピューター・通信技術・語学関係の書物だった。



さらに、本屋の向かいの家には、風邪で学校を休んでいた7歳の小学生が居たようだ。

聞き込み調査に訪れた警察に対してその小学生は、「本屋からゴリラ人間が5人、大きな袋を背負って出てきた」と証言しているという。

小学生の両親は警察に対して、「幼い上に風邪で高熱でもあったので、証言を真に受けないでください」と言っているとのこと。



俺は今、窓の外をぼ~っと眺めつつ、小学生の証言を、『土の記憶』と重ねてしまった。

小学生は「ゴリラ人間」と表現している。俺は『土の記憶』で見た生物をゴリラであると見間違えた。

仮に小学生の言う「ゴリラ人間」と「俺が『土の記憶』で見た生物」を、同種の生物だとしよう。

また『土の記憶』を見せてくれた妙な男を信じるなら、『土の記憶』は過去地球において実際に有ったものだ。つまり『土の記憶』で見たゴリラのような生物は、過去地球に存在した生物となる。

となると、現在その子孫がこの地球上に存在する可能性も有る。小学生の言う「ゴリラ人間」の正体か?

でも、一般的にそんな生物は知られていない。そんな生物が存在するとしたら、一目につかない山奥だったりだろう。

それなら、山奥で暮らす中で、ニホンザルと接触して手なずけているなんてことも有り得るのかもしれない。

それと、『土の記憶』で見た生物は城作りや養殖もできる高知能生物だ。ならば、その子孫も同じような高知能である可能性は高くて、山に有る植物から薬を作る知識も有るかもしれない。興奮させる薬、判断力を鈍らせて従順にさせる薬を作って、ニホンザルに与えていたなら…。

そして、ニホンザルに騒ぎを起こさせる。その隙に、物理学・数学・コンピューター・通信技術・語学の本を盗んだ…。



そこまで想像して、俺は頭を振った。一人で笑った。SFじみている。



何にせよ、ニホンザルにも目立った健康被害報告はないようだ。獣医師としてもほっとしている。

それにしても旅館で出会ったあの男は、なぜ俺に『土の記憶』なんて見せた?いったい、俺に何を伝えたかった?


以上「ゴリラ?或る田舎の目撃談【怪奇話】」。

続きは、「今年こそはあの川が出来る?奇妙な魚たち【怪奇話】」へ。



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或る縄文土器の秘密【怪奇話】

この話は、奇妙な形をした、或る縄文土器をめぐる話(コズミックホラー)です。

(分量は、文庫本換算10ページ程ですが、以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ)。





第一章:或る旧家の古い蔵に|或る縄文土器の秘密【怪奇話】


稲岡良仁(29歳・多摩文理大学考古学科講師)は、多摩地方の或る旧家を訪れた。

たたずまいは、まさに「代々続く豪農の家」。木造の古くて大きなお屋敷を、ぐるりと石垣・木・瓦の塀で囲っている。

現代的な戸建てやアパートの並ぶ住宅街に有って、この旧家は、この辺りが農村部であったこと、自分たちこそは古くからの住人であることを、物語っているようだ。

また、敷地内には、お屋敷よりもさらに古い、蔵も有る。



この旧家の現当主の男(50代半ばくらい)が、古い蔵を整理していたところ、奥から奇妙な形をした土器が出てきたため、多摩文理大学に連絡をしたのだ。


現当主は、古くてそして迫りくるような立派な蔵の前に、円形のぼやけたような奇妙な土器10点程を、シートの上に広げて、稲岡にいろいろと説明している。

先代の兄弟だったかに大学教授がいたらしくて、その人の収集したものではないのかとも言う。


説明を聞きながら、稲岡は、10 点程有る円形のぼやけたような奇妙な形をした土器を、順々に手に取っては置いて、比べてみた。

10㎝四方に収まる大きさ。ペンダント等のように身体に身に着けて飾るものかどこぞに飾るものかだろう。いずれにせよ、実用品ではなさそうだと思う。

また、土器を並べて見ると、何と表現すべきか「ぼやけ具合が徐々に絶妙になっている」とも思う。そもそも、10点それぞれに違う意味が有るなら、形をもっとはっきり区別するだろう。

また、技術レベルは、農業社会より前の時代のものだろう。つまり、土器造りの専門家のいない時代の技術だ。一方で、劣化具合等からして、作られた年代は、それほど古い時代とは思えない。この古い蔵の建てられた年代からしても、江戸時代後期~明治時代ではないか?


全体として稲岡の見立ては、

・江戸時代後期~明治時代に、農業時代以前の技術で土器を作ってみた。

・何度も制作する内に慣れてきて、ぼやけ具合等は絶妙になった。

といったところだ。

もちろん、詳細調査をしないと断定はできない。また、円形のぼやけた形の意味も何に用いられたものかも分からない。



それと、稲岡には、円形のぼやけた奇妙な形の土器は、他で見たか聞いたか覚えが有った。



そう言えば、自身の勤める多摩文理大学考古学資料室や書庫に、円形のぼやけた土器がいくつかとそれらを記述した古い記録が有ったはずだ、と思いだした。


第二章:郷土史に詳しい老人|或る縄文土器の秘密【怪奇話】


①出会い


稲岡が旧家で土器に触れている頃、梅雨一(つゆはじめ・市役所土木技官・27歳)は、同市内で、自転車を走らせていた。


同市内に住む、同市歴史に詳しい老人に会うためだ。


駅周辺繁華街を抜けて、江戸時代を想像させるような古い商店街を抜けて、やがて街道に出て、街道に沿って並ぶ戸建てや古い中小ビルの合間を自転車で走っていると、街道を横切る大きな川によって、景色は広く開けた。

川にかかる橋をわたりながら、左側を見る。川は、遠く地平線へ向かって延びて、その先に、地平線を覆うように山々が連なる。

あの山々の麓の辺りに、目指している老人の小屋は有る。


橋をわたると、また戸建てや古い中小ビルが、街道の左右に並ぶ。

そんな街道に沿って、さらに自転車を走らせ続けた。



走らせながら、老人との出会いを思い出す。

梅雨一は、同市市役所で、土木技官として勤めている。その傍らで、休日等に、趣味の歴史研究をしていた。

特に、仕事から派生して、郷土史の研究をよくする。例えば、市の建設事業で、現場となる土地とその周辺について調査をすることも有る。調査の中で、土地の歴史を調べることも多い。歴史好きである梅雨は、自身の仕事範疇をはみだす程に、興味を持つことも多々有る。休日等に、その興味を果たす調査をするのだ。



今回の調査のきっかけになったのは、この前の水曜日の仕事。


市道の山裾の地点を訪れた。

そこより先は、折り重なる山々に分け入って、道路の左右には山が迫る。山には、土砂崩れ防止コンクリートが覆っているものの、上方では木々がはみでており、枝々を炎のように四方八方に茂らせている。いつかコンクリートを破壊するような、くすぶる自然の力を感じさせる。


そんな場所にも家は有る。

梅雨たちが作業をしていると、一人の老人が散歩をしていた。70半ばくらいだろうと、梅雨は思った。

老人は、作業服を着ている梅雨に目が止まって、「何の工事か?」と尋ねる。

梅雨は、名刺をわたしつつ作業の内容を説明する。老人は「松下といいます」と言った。

これをきっかけに、梅雨と老人は立ち話になった。

老人は、近くの小屋で一人暮らしであること、あちこちに転々と引っ越しながら暮らしているものの生まれはこの市内だということ、そして、市内の明治時代の歴史に詳しいこともわかった。


梅雨は老人に「歴史の研究をお好きなんですか?」と尋ねた。老人は笑いつつ、「もともと大学で考古学の教授だった」と言った。

梅雨は失礼な質問をしたことを謝った上で、歴史好きの自分は休日に趣味の歴史研究をしていることを伝えて、時間の有る時にでも、この市の歴史話等を聞かせて欲しいことをお願いした。

老人は、快く承諾してくれた。



それで互いに都合のいい今日、梅雨は、老人の家へ向かっているのだ。


②謎の論文?寂しい場所の一軒家


随分と、自転車で街道を走っていた梅雨だが、周囲の住宅も疎らになった。


それから、街道を内に入った。住宅はどんどん疎らになる。


さらに走ると、家自体見なくなって、風にそよぐ木々の音が支配する世界になった。駅周辺では遠くに見えていた山々も、今では、見上げるように迫っている。


そんな、自然の勢力の迫る細い道沿いに、寂しく一軒の小屋が有った。目指していた、老人の小屋だ。

梅雨は、自転車を家の前に停めた。見上げた空は、雨こそは降らないが、灰色の雲が覆っている。



玄関前へと立つと、インターホン等は無いので、大きな声で挨拶をした。

老人は、出てこないものの、返事は有った。「入ってすぐの部屋で待っていてくれ」、と大きな声で言う。

梅雨は、玄関ドアを開ける。小さい玄関から、狭い廊下が真っ直ぐに伸びている。上がってすぐ左手にドアが有る。

この部屋のことだろうと思い、梅雨は上がった。



部屋に入ると、そこは書斎だった。


古い木の机が部屋の奥に有って、部屋中を大きな本棚がぐるりと囲って、古い本がぎっしり並んでいる。

並んでいる本は、さまざま。説話、歴史書、歴史時代を越えて人類登場以前の地質学、古生物に関するもの、また、ニュートン力学や相対性理論や量子力学等といった物理学に関する本も。

古い書籍も多くて、本棚全体で、アンティークの価値すら漂う。


また、本棚の一角に、表紙のしっかりした出版物ではなくて、紙に穴を空けて紐を通しただけの書が並ぶのを見つけた。他の出版物同様、紙が茶けているので、古いものだと分かる。


梅雨はそこに歩いて、書を手に取って中を眺める。印刷物ではなくて、インクで手書きされたものだった。

パラパラめくっていると、同市の歴史の記述を見つけた。それで興味を持ち、パラパラを止めて集中した。


同市の山中で発見された、土器の記述だ。内容は、

・縄文時代中期に作られたもの。

・発見場所周辺に集落跡等は無くて、おそらく儀式等のために、山に持ち込まれたものと推測される。


といったもの。

その記述の後に、土器のスケッチも有った。何と言うのだろう、円形のぼやけたような、奇妙な形をした土器だ。

スケッチの横には、同土器を数学的図形で描いて、輪郭の曲率等数学的説明をしている。

全体として、論文のようにも思った。


梅雨は、スケッチや数学的図形を見つつ、何を表しているのか等想像を巡らす。でも、さっぱりと検討もつかない。



その時、ガチャリと音がして、ドアは開いた。

部屋に近づく気配もない中、いきなり音は響いたので、梅雨はびっくりした。

びっくりした勢いで振り返ると、例の老人が立っている。


「驚かせてすいません」。老人は梅雨と目を合わせながら、一呼吸微笑んで言った。

おぼんを持っていて、そのおぼんの上には湯呑が二つ乗っている。片手でおぼんを支えつつ、老人は電気のスイッチを押した。薄暗い光は、部屋をぼんやり照らす。

「その論文は、私がずっと昔に、作成したものです」。老人は優しく、でも誇らしそうに言う。



③歴史研究?オカルト研究?難しい話


梅雨は一瞬疑問に思った。

見立てでは、老人は70歳半ばぐらいだ。この手書き論文は、パソコンやワープロ等の普及する以前に作られたものだろう。となると、この老人が30代くらいに作ったもの。つまり、今から40年程前に作ったものか?

一方で、見立てでは、この手書き論文はもっと年季のあるものにも思える。

もしかするとこの老人は、70代半ばよりも、もっとお年寄りであるのかもしれないと、梅雨は思った。



梅雨は、書を手に持ちながら、口を開く、「以前お会いした時、元学者とおっしゃっていましたよね。こちらの論文は、あなたの作成なさったものですね?」と。

老人は、梅雨を部屋の中程のテーブルにうながしつつしゃべる、

「ええ。

私は、始めは物理学者だったのですが、その論文の中に有る円形のぼやけた奇妙な縄文土器の存在を知ってからは、すっかり魅了されて、考古学の道へと入りました。

まあお座りください」。

老人は、お茶とせんべいをテーブルに置いて、座る。梅雨は、お礼を言いつつ、向かいに座る。



一口お茶をすすって、老人はしゃべりだした。「歴史の勉強はいいですよね。国のことや地域のこと、人類のこと等、新しい世界を知れます」。

「専門は縄文時代の考古学ですか?」と、梅雨。

「お持ちの論文に有る、円形のぼやけたような奇妙な形をした縄文土器の研究に、特に力を入れました。

それから、新発見の喜びをおさえられないように、次々しゃべり出す。



「結論から言うと、円形のぼやけた土器は、縄文時代の信仰の一つです。


私は、物理学者だった頃に、趣味で、昔話の研究をしていた。

昔話は、文字も無い太古から語り継がれるものでもある。地域の事情や暮らし方の事情等も、ストーリーに反映されている。

或る昔話のこの表現なら、狩猟・採集時代のものであり縄文期から伝わっているのでは?この表現は、温暖な地域で暮らす者の発想では?

そんな取り止めのない想像を、趣味でしていた。


その内に、妙なことに気が付いた。

昔話の中には、いかにもフィクションらしい超常的現象が起こるものだって多い。だが、いくつかの昔話では、超常的現象はフィクションではないかもしれないと思った。

話すと長くなるので省略をする。昔話を、時代背景等を基準に時代順に並べたり、伝播の仕方や速さ等を計算すると、交流の無かった地域どうしで同時に、似た超常的現象を扱った昔話も見られた。

もしその超常現象は実際に起こったものだとしたら、物理的には、どんなエネルギーが働いているのか?


私は、そのエネルギーを、数学的に仮定したり計算したりを重ねた。

すると、或る図形を描くことになった。

その図形とは、あなたのお手になっている論文に有る図形。円形のぼやけたような奇妙な図形なのです。


でも、驚いたのはそれからです。



④リアリティの有る歴史話を楽しむ!難しい話はさておいて


私が図形を導きだしてから、何年か後。

相変わらず、趣味で、昔話や歴史の論文を読んでいた。

そこに、多摩文理大学の考古学研究チームが、〇〇市(梅雨や老人の居る市)の山奥で、奇妙な縄文土器を発見したと書いて有ったのだ。

その土器の写真も掲載されていた。その形は、私の導き出した図形と一致したものだったのだ。

つまり、縄文人の中に、奇妙な円形のぼやけた土器の制作に至った者がいたということなのでしょう。

私は、図形を導きだすために微積分等を用いた。でも、縄文人が現代人の知る数学を知っていたとは考えられない。よって、野生の勘というのか、この宇宙から何かを感じ取ってのことなのだろう。



それから私は、縄文時代の考古学の道に進みました。

次のテーマは、円形のぼやけたような奇妙な形の土器を、私自身で作り出して見ること。

何度も何度も土器を作る内に、徐々にぼやけ具合も上手くなりましたよ。いくつかは、今でも、昔住んでいた家の蔵に有るやもしれませんね。

どれも、失敗ですけどね。」

喜々としゃべる老人だが、梅雨にとっては、何の話しなのかつかめない。ただひたすら、老人のエネルギーに、呆気にとられていた。



老人は、そんな梅雨の表情に気が付いて、話しを中断。「すいませんね。しゃべり過ぎました。この話しになると、ついね」と言う。

梅雨は、「ええ。凄く大変な発見をされたようですね。ただ、僕には難しすぎますね」等当たり障りない返答をした。



老人は微笑んで続ける。

「それでは、江戸時代の終わり頃以降の、この地域の歴史の話でもしましょう。

戊辰戦争の折に官軍からはぐれた一隊がこの付近を通ったとか、天保期において一揆を企てた村が有る等々と、私は色々知っていますからね」。



老人のしゃべり方は、土器を語る時のような激しいものではなくて、穏やかなものになった。

ただ、リアリティは凄まじい。梅雨は、老人の話しに引き込まれていった。何でも知っているようなので、たくさん質問もした。


第三章:大学に所蔵の古い記録


梅雨が老人と歴史談議をしている頃。

多摩文理大学講師稲岡は、自身の研究室デスクに戻っていた。そして、同大学図書館に所蔵されていた、古い書を読んでいた。

また、デスクには、旧家から持ち帰った、円形のぼやけたような奇妙な形の土器も有る。

書の内容と目の前の土器と、関連有るものか見比べつつ、掻い摘んで読み進めている。



書の著者は、多摩文理大学の元教授。名は、時田信一郎。現在は、お亡くなりになっている。

内容は、円形のぼやけたような奇妙な形の土器を研究していた、師匠教授の記録。晩年、人生を振り返って、師匠教授のことがずっと気になったままであったため、この記録を残したようだ。


(以下、かいつまんだ内容を現代語で。)


『〇〇市(稲岡が訪れた旧家が有りまた梅雨と老人が居る)で発見された、円形のぼやけたような奇妙な縄文土器の研究をはじめてから、松下先生の熱意は凄まじく、我々助手たちは、支えることをできなくなる程だった。

明治三十九年七月九日』


『松下先生が円形のぼやけたような奇妙な形の縄文土器の研究をはじめて、二十年程は過ぎた。私は松下先生から独立して教授の地位を得ていたが、交流等有った。

土器について、松下先生は何かを発見したようであって、満足そうだった。

だが、その発見内容のことを、誰にも言わないのだ。私が理由を尋ねると、その存在を理論的に証明しただけであり、実験で実証する必要があると言う。

それなのに、しばらくして松下先生は退職された。70歳と高齢ではあったが、実証した様子は無さそうであり、研究を諦めになったのだろうかと心配になった。

大正十四年九月十八日』


『私は、幸運のおかげで90歳を迎えた。

病床の私は、松下先生のことを考えている。

松下先生は、円形のぼやけたような奇妙な縄文土器の研究の結果を、人に伝えることをおそらくはせずして研究の世界から身を引いた。また、その後の松下先生の行方について、私は知らない。

松下先生が何を発見したのかを知れなかったことは、私の研究者人生の内で、杭の残るものの一つである。だからふと今、松下先生のことや縄文土器研究のことを思い出したのだろう。

最近、松下先生の孫と名乗る70歳程の男が私を見舞いに来られた。私より25歳年上の松下先生の孫であるのなら、年齢は合点がいく。

だが、何年も研究を共にした相手を間違える程、私は鈍感ではない。あれは、松下先生ご本人だった。松下先生は、70歳くらいからお歳を取られていないというのか?

昭和十九年八月十九日』。


この記述を最後に、記録は終わっていた。稲岡は、その古い記録を閉じた。



稲岡としては、土器研究の参考になるかと思ったのに、自伝的な内容も多い上に、トンデモオカルトじみた話しで締めくくられるというものに、多少落胆した。

それでも、松下先生という者が、円形のぼやけたような奇妙な形の土器について何かを知っていることは分かった。



他に、松下先生の論文はないかと、稲岡は腰を上げた。


第四章:或る警察官の深夜の出動|或る縄文土器の秘密【怪奇話】


梅雨も稲岡も就寝中の午前3時頃。

〇〇市内(稲岡の調査した旧家、梅雨の勤める市役所、老人の小屋が有る)の交番に勤務する麦倉行(むぎくらこう・28歳)は、或るアパートへと、同僚とともに自転車で向かっていた。近隣住民から、一室が騒がしいという通報が有ったのだ。


駅前繁華街を横切る大通りに沿ってしばらく進んで、細い路地へと入った。

静かな住宅街に風景は変わる。中層のマンション、古いアパート、戸建て等が、一車線程の夜道に延々と並ぶ。

街灯は点々と照らす程度の暗い道だが、一か所だけ青い灯りにぼんやりと照らされて、目立っている。



麦倉と同僚は、青い灯りのもとに到着。中層マンションの2F一室から青い灯りは漏れて、夜道を照らしていた。

ここだ。


二人は自転車を停めて、その部屋へとアパート玄関をくぐって、階段を上る。


部屋の前に立つと、中でドタバタしていることが、音でわかる。玄関の外に立つ麦倉にも、すぐにわかる程だ。


麦倉は、インターホンを押した。

中から返事がある。ただし、すぐに出て来ない。

麦倉はふと、振り返る。駅周辺に有る高層ビルたちは、遠く夜空で地平線を隠すようにそびえて、屋上警戒灯をゆっくりと点滅させている。眺めているとどこか遠くで、車のエンジン音や機械音等がこだまする。基本的には静かな夜中の風景だ。


しばらくするとドタバタは止んで、玄関へ向かってくる足音がして、ドアが開いた。

真っ赤なタンクトップを着た、はつらつとした40歳程の女が出てきた。手にはタオルを握って、多少息も上がっている。



麦倉は、ドタバタする音が外まで音がもれて来ていることを伝えた。

すると、女は言う、「ごめんね。今日は、ちょっとうるさかったよね。警察にクレームでも有った?解ってるんだけど、重要な儀式の日なんだよね」と。

肩にかかる程度に伸ばした黒く太い髪を、整えながらしゃべる。



「重要な日ならね、クレームに繋がるかもしれないことは、しない方がいいですよ」。麦倉は応えた。

「そうね。まあ儀式はさっき終わったからいいの」、そう言って女は微笑む。女の目線は、麦倉の目から、麦倉の鍛えられた胸筋をチラ見する。

「じゃあ、もう騒がないんですね。約束ですよ」と言う麦倉に、女は「ええ」と適当に応える。



それにしても。

麦倉は、この女の頭越しに、天井あちこち、絵がつるしてあることに気が付いた。奇妙な絵で、円形のぼやけたような形が描かれている。儀式の話しと合わせて、普通の部屋ではないと感じた。

麦倉は絵を見ながら、「あの絵は何ですか?それと、さっきから言っている儀式って?」と尋ねた。

「この前旅行で小笠原諸島に行ったんだけど、好奇心でさらに南に或る公海上の無人島に漁船で連れていってもらったんだ。

そしたら、そこで原始人みたいな男が踊っていてさ。はじめは不気味だったし、漁船の船長さんも知らない人だって言っていたけど、何だろう、見ているとパワーを感じたのよね。

思い切って話しかけてみると、自分で作った木の船で、自由に小笠原諸島や沖縄やさらに東南アジア辺りを、漂流して暮らしているんだって。原始人の生き残りみたいでしょ。

男は、首から土器を下げていたんだけどね、あの絵のような形をした。それを見ているとね、パワーをもらったような気になったのよ。

旅行から帰って、男の下げていた土器を絵にしたり同じ踊りを踊ったりしているのよ。そしたらね、日に日にパワーが出てくるようでさ。

ちなみに、今日は結婚記念日ね。旦那は単身赴任中だけど。それで旦那のパワーのためにも踊っていたってわけ」。


「はあ…」。麦倉は適当に返事をした。絵に気づいてから、麦倉の意識は、女よりも絵に引き込まれていた。

見る程に、疲れはみるみる飛ぶようだ。いや、それどころではない。中学時代にでも戻ったように、軽い身体になったようにも感じる。


以上「或る縄文土器の秘密【怪奇話】」。

関連話は「原始人?或る無人島で【怪奇話】」へ。



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