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深夜の笛の音【春の幻想的風景?怪談】

この話は、郊外のアパートに暮らしていた男が、深夜に不思議な音楽を聴いたこととその音楽の秘密を探る話です。

過去の持つ「後悔させる力」、未来の持つ「不安にさせる力」を除去できれば。せめて、後悔と不安を抑えるように耳から脳を刺激する音楽があるなら…。

(分量は、文庫本換算4ページ程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:今の仕事につながる?大学時代に体験した或る夜のこと|深夜の笛の音【春の幻想的風景?怪談】


俺(稲岡良仁・多摩文理大学考古学研究科助手・29歳)は、大学時代に不思議な体験をした。

また、その不思議体験こそ、考古学者を目指したきっかけだった。




第二章:その夜…金色の月・ネイビーの空・舞う桜|深夜の笛の音【春の幻想的風景?怪談】


大学生の俺は、多摩地方の街外れの丘の麓に有るアパートを借りていた。

その夜中、いつものように、ランニングに出た。決まったコースで、丘周辺を走り、丘頂上に有る神社へと走る。

土地柄は、農村と新興住宅地の入り交ざるような場所だった。

二車線の道路沿いに、大きな畑や古い家々が並ぶという農村の様相も有る一方、そんな中にコンビニや新興住宅の密集している一画も在る。

近場の街と言えば、アパートの有る丘を登れば、遠く地平線に多摩の一大都市の駅周辺高層ビル群が見える。夜になれば、高層ビルの無数の窓たちからの灯りや屋上警戒灯は、向こう岸のことのように輝いている。



アパート玄関からアパートの敷地出入口へと歩いていると、桜の甘い香りがした。

敷地出入口には、大きな桜の木が有る。俺は、5m程離れたここで立ち止まり、桜の木の背景に輝いている月の明かりで、桜の木全体を眺めた。

10m以上の高さで、夜空に向かってそびえている。薄ピンクがかった花びらが、茂る枝に雪のように積もり、ネイビーの夜空をバックに、金色の月明かりを得て、映える。

今、満開から散りはじめに、移りつつあった。花びらは、常に、何枚かひらひらと舞っている。時々そよ風が吹くと、量を増して風の方向にスピードを増して、舞う。



その時。

春らしい温い風が、いつもより強く長く吹いた。

花びらは、吹雪のように舞ったかと思うと、さらに渦を描きながら空へと舞い上がった。

上空では、桜の木は近隣にもそびえているがどこかの桜の木から流れてきたのだろう、花びらの吹雪は同じように渦を描いて空を舞って来て、合流する。


なおも、風は吹き続ける。

丘の木々もザワザワにぎやかになる。さらに多くの近隣の桜の木から花びらは集ったのだろう、東西南北いくつもの花びらの流れが渦を描きつつ流れて来て、上空で合流する。

視界一面の夜空は、桜の流れに染まった。


俺は、呆気にとられたまま、動けなかった。



しばらくして、徐々に風は緩やかになっていって、治まった。

それに伴って、視界一面の夜空も、ピンクがかった白い流れは緩やかになって、やがては治まった。

目の前の桜の木も、元の通りに、ひらひらと舞う程度になる。


妙な風も吹くものだと思いつつ、俺は、駆け出した。


第三章:その夜…聞こえて来た奇妙な音楽|深夜の笛の音【春の幻想的風景?怪談】


丘周辺を走った俺は、丘頂上へ通じる上り坂を駆け始める。走る道はアスファルトだし、住宅が整備されている場所ならどこでも、アスファルトは延びている。

一方で、アスファルトを外れると木々が茂るし、ところどころ、手入れもされていない場所は広がる。今は夜だから暗くて見えないが、昼に通れば、落ち葉は降り積もって、倒れている木はそのまま腐っていたり、苔むしていたりする。



その時。

また先程のような、強くて長い風が吹き始める。

正面からも吹く。上り坂である上に向かい風まで吹いて推進力を妨げられるし、さらに目を十分に開けていられない。

俺は、薄目になりつつ、歩きへとペースを落とした。

目の前の上り坂は、木々の黒いシルエットが両サイドに茂って丘頂上へと遠く並んで、強い風でガサガサザワザワ賑やかだ。そんな先に、木々の開けた頂上を通じてネイビーの夜空は見える。遠くてしっかりとは見えないものの、月明かりを反射して、白く輝くものが渦を巻いている。おそらく桜の花びらだろう。



しばらくして風は緩やかになって、後、収まった。

俺の目の前にもまた、どこからか流れて来たのだろう、ひらひらと数枚の桜の花びらが舞い降りた。

と思ったその時。

雅楽だろうか?笛の音楽が聞こえてきたのだ。


どこから?


俺は立ち止まって、耳に意識を集中する。

おそらく、整備されていない茂みからだ。

そちらを見るが、街灯や月明かりに照らされた範囲のみ見えるが、その他は暗闇だった。


こんな夜中に誰が笛を奏でているのだろう?

俺は、笛の聞こえる茂みにゆっくりと歩いてみた。


笛の音の方に歩いていると、耳に心地よいまでに自然と、音楽が流れ込んでくる。

優しくて懐かしいメロディーだ。10年くらい前の記憶たちを呼びおこすような。徐々に、悔しい思いをした野球部での記憶、年下の女の子に告白された記憶等は、呼び起された。

だけど、それら記憶とともに有るはずの悔しさや喜びは、なだめられているようであって、沸いてこない。

「後悔する記憶も喜びたくなる記憶も、今のお前を見守っているけれど、お前は、記憶たちに気を遣わなくていい、感情的になるなんてエネルギーも使わなくていいんだ」、そう記憶たちに言われているようでもあった。


いつの間にか、俺の間の前に、告白してきた後輩がいた。下校中の道にいた。

あれ?俺は何で高校生に戻った?

疑問に思いつつも俺はその後輩に近づいた。



その時。

足元でガサッと音がして、丘の坂道に戻った。片脚を茂みに入れて、俺は立っていた。

音楽ももう、聞こえない。時々春のそよ風に、ザワめく葉の音等がするくらいだ。

疑問にも不思議にも思いつつ、俺はジョギングを再開して、帰宅した。


第四章:俺の才能?|深夜の笛の音【春の幻想的風景?怪談】


翌日、アパートですれ違った隣人たちに、夜中に音楽を聴かなかったか尋ねた。

だけど、誰も聞いていない。夜にはシンと静まる土地なので、笛の音が響いていれば、誰かしら気付いても良いとは思うのだけど。少し奇妙にも思った。



その後日、作業服を来た者たちが何人か、例の茂み辺りにいた。

尋ねると、市の歴史を扱う博物館の調査団だそうで、神社の敷地内から戦国時代くらいの笛が見つかったという。それで今、茂みにも調査範囲を広げたとのこと。



そんなことも有って、俺は興味から、アパートの辺りの戦国時代~江戸時代の歴史を、調べてみた。

寝る前にネットで調べる程度だったのだが、いつの間にか何日も費やした。また、市の図書館や博物館を訪れて史料を探るようにもなった。



或る日、それらで得た情報と、笛のメロディーを思い出して、怪奇的な連想をしてしまった。

連想に関わった情報としては、

・戦国時代の人物で、日本史教科書に掲載されるような有名人ではないものの、この辺ではリーダーのような存在を知ったこと。

・そのリーダーのもとに、笛の名手が出入りしていたこと。

・次の江戸時代のこの辺りの盟主を調べても、上の戦国時代の人物と同じ苗字の者は、いなかったこと(上の家は没落してしまったのかもしれない)。

等。


また、あの夜中に聞こえてきた笛のメロディーは、俺のイメージだけど、記憶を優しく包むようだった。

没落してなお自分たちに誇りを持ちつつ江戸時代を生き延びようとした姿、盟主が没落したために仕事を失った笛の名手が過去を誇る姿、そんな想像をしてしまうのだ。



権力者の歴史だけではなくて庶民の歴史もまた、掘り起こすべきものも有るのかもしれない。




そんな出来事も有って、俺は考古学者を目指そうと思った。


それにしても、なぜ、俺に聞こえた笛の音は近所の者には聞こえなかったのだろう。

俺には、いにしえからの声を聴く才能でも有るのでは?

学者の仕事で心の折れそうになった時には、そう思うようにしている。


以上「深夜の笛の音【春の幻想的風景?怪談】」。

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初心者向け戦国時代は「戦国時代はどんな時代?1【歴史に怪奇&ロマン】」へ。



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星降る夜の妖怪【夏の幻想的風景?怪談】

この話は、仕事帰りに星空を眺めていたひと時の、嬉しいけれど不気味な話です。


(分量は文庫本換算2P程です。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:或る丘で星空のひと時|星降る夜の妖怪【夏の幻想的風景?怪談】


仕事帰り。今日は金曜日。寄り道だ。

俺は、自宅アパートの有る丘の道たちの中で、アパート棟への道ではなくて、丘頂上の展望広場への道を歩いた。



丘頂上への道は、手入れもほどほどに茂る高い木々に囲まれた、狭い土の道。

見上げると、木々は、黒いシルエットとなって紺色の夜空に浮かびつつ、嵐の残していった生暖かい暴風で、ざわめいている。

木々の間を通して見る夜空は、月周囲から順に、紫~紺のグラデーションで、金色の月や金粉のような星々が輝いて映える。また、灰色の雲が、同じ方向に流れている。



丘頂上に出ると、木々は開けた。俺は、高い空に包まれた。

見上げる位置に、月は浮かぶ。正面には、地平線へと広がる平野に、小さな街が広がっている。夜空は、どこまでも街を覆って、そのどこでも星々は浮かぶ。

日常において、ものが浮いている風景はあまり無い。こうした風景は、非日常的な気分にもなる。幻想的という表現も合うのかな?



丘頂上は、整備されている公園とその外の整備されていないエリアとに、木の手すりで区切られている。

整備されていないエリアには、草原が広がっていて、ところどころに木も立っている。

月明かりの中で、生暖かい暴風によって、草原は海の波ように靡いた。


俺は公園ベンチを通り過ぎて、木の手すりの前に立つ。

コンビニで買った芋焼酎の炭酸割りの缶を鞄から取り出して、プシュッと言わせた。

まずは一口目だ。

生暖かい風の中で、冷えた炭酸は、喉に対して爽快な刺激をもたらす。アルコール度数7%であって、身体にびりびり心地よい刺激にもなる。

手すりを焼酎缶の置き場にして、正面の草原や見上げる位置の星を眺めたりした。


第二章:今日も居る美女|星降る夜の妖怪【夏の幻想的風景?怪談】


その時、背後で足音が聞こえた。

振り返ると、長身で切れ長の目つきをした女性が、立っている。30歳前後だろう、俺と同じか少し上か?

金曜日等、俺がこうして丘頂上の広場で一杯飲んでいると、いつの間にやら彼女が居る。

遠目に見るくらいで、話したことは無い。



だけど、今日は違った。

彼女は、こちらに歩いて来つつ、俺と目が合うと、ニコッと笑いかけてきた。

思わぬ展開に、俺はどうするべきかもわからずに、目を泳がせながら、適当に首で挨拶した。


彼女は、「金曜日によく居ますよね」と言って来た。

彼女も、俺のことに気づいていたようだ。俺は、「ええ」以外に応えられない。

彼女は、「いいですね。星空を見ながらお酒なんて」と言い、手すりに手を置いて夜空を見上げる。

こんな深夜に、女性の方から声をかけてくるのも、不審だ。

俺をターゲットに何か犯罪を起こすのか?余程悩みでもあって一人で星を眺めている俺に共感でもしたのか?

身構えつつの俺だが、星空を見上げる彼女の横顔を見ていると、高校時代に憧れていた先輩に似た系統の顔つきだと思った。


彼女は、見上げていた顔を俺に向ける。俺は、ふと、目をそらしてしまった。

彼女は、「焼酎をお好きなんですか?」と言う。彼女は、手すりに置いてある缶に視線を移している。「私は芋焼酎を得意ではないですけどね」と、続ける。

俺は、「でも、この焼酎は臭みも感じ無いんですよ。マスカットのような香りで、飲みやすいですよ」と、売り場に書いてあったことを述べた。

彼女は、「へー。今度私も挑戦してみようかな」なんて言う。



それから、意味のないことを、互いに話していた。

話していると、彼女は俺にボディタッチもしてくる。何度もだ。思わずドキッとしてしまった。



そして、話しのきりの良いところで、彼女はニコッと切れ長の目と口元を崩してから、「それじゃあね」と言って、行ってしまった。


年上美女や人妻に憧れるものの、今のところそのような女性とは付き合ったことは無い。

今、そんな女性と二人っきりで話しをしたにも関わらず、ナンパ一つできなかったことを、後悔してしまう。

これからも憧れを果たせずに過ごすんだろうなと思いつつ、遠く小さくなる彼女の背を見送った。


それから芋焼酎缶を飲み干して、アパートへと帰宅した。


第三章:狐に注意?|星降る夜の妖怪【夏の幻想的風景?怪談】


翌日、買い物に出た時。丘頂上への道の入口に、作業服を着た人が数人で看板を設置していた。

その看板に、「狐に注意」とあった。



俺は、作業員の一人に、「狐の目撃でもありましたか?」と尋ねる。



作業員は応える、

「丘頂上のベンチに座ってスマホに熱中していた男が、背後から忍び寄って来た狐に、ポケットの財布をひっぱり出されたそうだよ。男がそれに気づいた時にはもう、狐は、財布を咥えて逃げて行ったってよ。

男は、狐に追いつけないまでも狐の逃げた方に歩いていくと、道路に財布は落ちていて、カード等いろいろと無事だったけど、おさつは抜き取られていたそう。

狐さんがお金を何に使うんだろうね?」

と。そして笑った。



俺は、作業員さんとの話しを切り上げて、スーパーに向かった。



第四章:スーパーにて気づいたこと|星降る夜の妖怪【夏の幻想的風景?怪談】


スーパーでちょっとしたトラブルがあった。



レジでの支払いの時のことだ。



財布を開いたところ、お札のお金が無かったのだ。



あれ?一万円札は入っていたと思ったのに…。


以上「星降る夜の妖怪【夏の幻想的風景?怪談】」。

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深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】

この話は、覗き男が遠くに在るマンションの怪奇的秘密を知ってしまったために、毎週金曜日にお金を脅し取られる話です。

果たして、男が目撃した怪奇とは?



(分量は文庫本換算6ページ程ですが、以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の話は「本blog全記事の一覧」へ。)




第一章:深夜の勤務中に|深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】


夏の金曜日の深夜2時。

俺(麦倉行・警察官・29歳)は、交番にて夜勤に臨んでいた。

デスクに座って、書類を作成している。



この交番は、市中心部の駅から一つ隣の駅の前に有る。

駅周辺は、住宅街だ。交番からの眺めは、中低層マンション、アパート、戸建て住宅が目立つ。それら合間に、小さな飲み屋やコンビニ、スーパー等もちらほら。

ただし、営業時間を終えて、シャッターの降りた店も多い。コンビニ等24時間営業の店の前のみ、明るく照らされている。

交番横の駅も、もう終電は出た。電気も消えていて、駅舎も線路も暗い。寝静まっているよう。

時々、外で楽しげな話し声がする。おそらく、終電を逃した者ただ。タクシーで、この寝床の街に降り立ったのだろう。しばらく陽気にしゃべっていても、すぐに自宅マンション等へと解散して、静まる。

街なので、全くシンとすることはないが、総じて静かだ。



そうした中。

「すいません、いいですか」と、若い男が、慌ただしく交番に駆け込んで来た。



見たところ、大学生か新人社会人か?

俺は、事務作業の手を止めて、立ち上がって応じる、「どうしました?」。

奥の部屋で休んでいた同僚も出てきたが、俺は同僚を制して、部屋で休んでいるよう、ジェスチャーした。



その男を、向かい合う椅子に座らせてから、俺も座り直した。

男はしゃべりだす、「どう言ったらいいか、或る女から金を脅し取られているんです」。


第二章:覗き男の話し①(遠くマンションで見た怪奇)|深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】


「女?失礼ですけど、どういうご関係の?」、俺は尋ねた。

男は、不都合なことを聞かれたように、挙動が不安定になりつつ、「う~ん、そもそも名前も知らない…」等と、奇妙なことを言う。

「失礼ですが、何を脅しネタにされているんでしょうか?」俺は尋ねた。

男は、観念した表情になって、しゃべりだす、


「どこからしゃべればいいんだろう、時系列のまましゃべります。

もともと、いけないのは俺なんです。

社会人になって、給料は、毎月何万円も余るようになった。

調子に乗って、キャバクラなんかに出入りするようになった。

でも、キャバクラは、仕事と割り切った感じの女の子ばかりに当たって、何ていうか、ドキドキは無い。恋愛感は無い。

その…彼女もいるんですけどね。こちらは慣れちゃってつまらないというか。



或る日の帰宅途中。

メチャクチャ好みのタイプの美女が、自身ののマンションだろう、入っていくのを見て…その…久しぶりにドキドキしたな。



でも、ナンパするのも怖いというか、勇気もないというか、モヤモヤして、それで…。

その美女の生活を覗けば、多少はモヤモヤも収まるかななんて…。



位置的に、俺の住んでいるアパートから、望遠鏡を使えば、この美女の部屋を覗けると思って…。

もちろん、犯罪はダメだってわかっていますからね。その上で『故意に覗くのでは無くて、自宅アパートの窓から望遠鏡の性能を調べるために使用してみた』という体裁です。」

男は、いったん話しを切る。警察官の俺に対して、「だから逮捕しませんよね」というアピールをしてくる。強気と恐れと、ごちゃまぜになった表情だ。

俺は男に対して、「なるほどね」とテキトーに頷いて、先を促す。



男は続ける、

「後日、仕事帰り、それなりに高級な望遠鏡を購入した。



それで、自宅アパートの窓から、望遠鏡をのぞいてみたんです。性能を試すべく。

遠くのマンションでも、窓のカーテンレールまではっきり見えた。すごいと思った。



それから今度は、自宅アパートの屋上に上った。

まずは、肉眼で周囲を見回す。

近隣にはアパートもマンションたくさん立っているけど、高くて10Fくらい。遠くを見通すのを、遮られることもなくて、隣駅や周辺中心街までもを見通せる。

市中心街には、高層マンションがいくつも立っていて、目立つ。



近くのアパートも遠くのマンションも、夜なので、窓や廊下に明かりが灯っている。

中心街の高層マンションも、地平線を意識する程に遠いけど、豆粒ほどの大きさくらいには、灯りは見える。

大抵、黄色や白の灯りがズラリと並んでいる。

だけど、中心街の高層マンションの一室に、明らかに青とわかる輝きが見えた。一か所だけ青。不自然で目立った。

俺は気になったので、青い光の方へ望遠鏡を向けて、覗いたんです」

男は、いったん間を置く。


第三章:覗き男の話し②(鳴りやまないインターホン)|深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】


男は、しゃべりを再開する、

「青い光に、望遠鏡を向けて覗く。

カーテンを閉めていないマンションの窓だと、わかった。

青いライトで部屋を照らしている上に、部屋中真っ青の壁だった。

さらに、色とりどりのライトが、艶めかしく移り変わっている。雰囲気は良かった。俺は、少し期待した。



しばらくすると、バスタオルを巻いただけのロン毛の女が現れた。

こちら側に向かって歩いて来たのだけど、首を左に向けていて、顔はよく捉えられない。左側にTVでも有るのかな?

窓まで来て立ち止まって、顔を向けていた方に身体も向けて、つまり右半身をこっちに向けて、ストレッチのようなものをはじめた。

髪艶は綺麗で、スラッとした体型。印象としては美女だ。

俺はバスタオルが取れないかと、期待した。



そして、右肩のストレッチの流れで、美女は窓につまりこっちに、顔を向けた。

その顔…やはり美女だった。一部を除いたらなら。

鷲のような鋭い目をして、肉食爬虫類のようにさけた口、そして、長い舌をしまいきれないようにベロンと出している。

俺は驚いて、思わず声をあげてしまった。また、望遠鏡も落としてしまった。」



男は、いったん話しを切る。恐ろしい記憶を思い出したのか、怯えた声に変わってしゃべり出す、

「俺は、望遠鏡を拾い上げて、再びそのマンションの部屋を見たんだ。



するとその美女は、俺が再び望遠鏡を覗くことを待っていたかのように、窓際に立っていた。望遠鏡越しに目が合った。そしてニッと笑った。それから、手招きしてきたんだ。

俺は、望遠鏡から顔を上げて、肉眼で美女のいるマンションの部屋の窓を見る。

豆粒程のぼんやりした光のみであって、もはや窓からの灯りか廊下の灯りかも判別できない。まして、女が立っているなんて、わからない。

俺はまた、望遠鏡で青い光を見る。

美女は変わらず、望遠鏡を通して俺と目を合わせてくる。そして手招きをする。

あの美女は、驚異的視力で俺の存在を捉えていた、そういうことだろ!



俺は、怖さに耐えられなくなって、屋上から自室に戻った。

部屋に戻ってからも、電気を付けられなかった。

あの美女の部屋は、俺の部屋の窓の方向に有る。屋上から引っ込んですぐに電気をつけたら、俺の部屋を教えているようなもんだろう。



俺は、カーテンを閉めた。

深夜2時を過ぎていたこともあり、布団をかぶった。

暗い部屋の中で、あの美女がカーテン越しにこの部屋を見ていると思うと、恐ろしくて、寝られなかった。


30分くらい経ったかな、いきなりインターホンが鳴った。

飛び上がる程にびっくりした。時計を見ると、3時前だった。

こんな時間に訪問者なんて、今まで無かった。あの美女ではないか?


放っていると、またインターホンは鳴った。

静まった真っ暗なアパートに、何度も何度もインターホンの電子音は響く。俺を、脅迫するようだった。

逃れられないと思った俺は、起きて玄関に行った。玄関ドアの覗き穴を、覗いた…。


やはり、さっき望遠鏡で見た美女が立っているんだ。

今度は、目の前ではっきり見た。やはり、鷲のような鋭い目、肉食爬虫類のような口と牙と長い舌だった」。

ここまで言って、男は怯えるように黙った。



「ドアを開けたんですか?」と、俺(麦倉行)は尋ねた。

「開けるわけないだろ、化け物みたいな相手なんだぞ」と、男は応えて、また続ける、



「開けたなら何をされるだろう。


どうしようもなく部屋の奥に戻ると、ふと財布が目についた。中を確かめると、2万円有った。『ごめんなさい』というメモを添えて、玄関ドアの隙間から、その美女に差し出した。


すると、その日はもう、インターホンは鳴らなかった」


「『その日は』ねえ」、俺は先読みして、繰り返した。


第四章:怪奇の正体?深夜に出会った美女|深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】


男は真剣な表情で続ける、「そう、その日だけじゃなかった」。



その後の男の話しを、まとめる。

その日から今日に至るまで、1か月くらい経っている。その美女は、毎週金曜日深夜に、インターホンを鳴らしに来る。お金を払うと帰る。合計10万円程を取られたようだ。

警察官である俺に、その美女に対して、もう来ないでくれと言ってほしい、とのこと。



さて、俺はどうすれば良い?

男は、覗きについては否定している。女は、「金を出せ」と述べたわけでもない。犯罪の取り締まりでなくて、トラブルの仲介になりそうだ。

ただ、男の話しは本当なのか?トンデモオカルトのようでもある。

男の話しは嘘で、警察をからかったり、何等かの目的でどこかに連れたい恐れもある。



俺は男に、女の存在を証明するものはないか?と尋ねる。

男は、玄関ドアの覗き穴越しに撮った、スマホの写真を見せてくる。

どの画像も、横顔ばかり。普通の女に見える。「証明にならない」と伝える。

その後のやり取りの結果、男が朝まで交番付近に居させてもらう、ということで話しはついた。



男は、朝まで俺の見える範囲をウロウロして、帰宅した。


その次の週も、その次の週も、毎週金曜日に男は交番に表れた。俺が居る時もあれば、居ない時もあった。

俺は、時々話しもした。男の住所もわかった。



ところが、一か月くらい経った頃、男は来なくなった。

解決したのだろうか?



気になった俺は、次の自転車パトロールの時に、男のアパートに行ってみた。たまたまだが、金曜日午前3時だった。

1Fに有る部屋前まで行くと、郵便受けに仲介業者の名前入りのガムテープが張ってあった。

どうやら、引っ越したようだ。



それから、パトロールの続きへとアパートを出る。その時、一人の女が入れ違いに入って行った。

髪艶や体型等、職業モデルのようにすら見える。

顔は…。

鷲のように鋭い目つきだ。マスクをしているので、口はわからない。美女には違いない。


吹き曝しの廊下なので、アパートの外からでも、廊下を歩く女を見通せる。俺は、自転車のロックを外したりしつつ、横眼で女を追う。

女は、男の部屋の前に立つ。

郵便受けにガムテープが貼ってあるのに気が付くと、Uターンしてアパートを出てきた。



俺は、出てきた女に、「その部屋の方に御用ですか?」と声をかけた。

女は立ち止まって、俺の方を向く。5mくらい距離は有るが、女は目を俺と目を合わせずに、俺の頭の上辺りに視線を向けて、目や首をきょろきょろしている。


「引っ越した見たいですね」、俺は続ける。

女は、一例して立ち去った。


その背を見送っていた俺だが、首の辺りがチクッとした。反射で払うと、ぷ~んという音がした。

蚊だ!おのれ!と思ったが、もう遅い。暗闇に紛れて、もう追えない。


諦めつつ、俺は、はっとした。

あの女、俺の周りを飛ぶ蚊を追って、きょろきょろしていた?


以上、「深夜の視線と鳴りやまないインターホン【怪談】」。

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幽霊?江戸時代の或る農村を夢に見る【怪談】

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深夜2時。

俺(米津秀行・よねづひでゆき・29歳)は、食事テーブル兼仕事机に並ぶ空きビール缶を眺めた。

6缶。今日はビールだが、ワインの時は720mlボトルを赤・白1本ずつかロゼ2本だ。焼酎なら900mlを半分とビール1缶くらい。ウイスキーなら200ml角瓶1本とビールや酎ハイを2缶くらい。



好きなお酒の銘柄もあるが、毎度同じお酒をいただくわけではない。

近隣のスーパーやコンビニで、いただいたことのない銘柄を順々にいただくこともしている。

今日で丁度、手ごろな値段のものは、全種類制覇。

そんなアルコール生活を、大学卒業後から続けている。


(仕事は、予備校講師兼フリーライター。

儲かってはいないが、朝昼は食事を抜いて夕食は卵かけ納豆ご飯3食分にすれば、毎日たっぷりと飲め上に、休日は豪華な食事も可能。)



今のところ、身体に異常はない。

だが、こんなアルコール生活を、今後ずっと続けられるとも思えない。

全種類制覇はいい機会だ。

俺は、お酒は週一にしようと思った。



翌日。

仕事から帰宅して後が地獄のようだった。

従来、仕事の終わる一時間前くらいから渇きを感じつつ23時くらいに帰宅して、風呂上がりのアルコールの一気飲みで癒した。それは、生活における楽しみの一つでもあった。

風呂上りの俺は、代わりの癒しを求めて、冷蔵庫に残っていた炭酸(ウイスキーや焼酎を割っていた)を、一気飲みした。



翌日。

仕事中に、意識して水分を取った。

例えば、授業の終わるたびに、冷水器に走った。

帰宅後の苦しみは、昨日に比べると軽減した。



それから3日後。

お酒の無い日々に、慣れてきた気もする。

夕食後は、酔っていないために、フリーライターの仕事もちょこっと行った。晩酌をしていたら仕事なんてできないため、良い生活リズムであるとも思えた。

お酒は週一と思っていたものの、このまま禁酒に繋がるかもしれない。



そう感じつつ、俺は電気を消して、布団に入った。



ふと、俺は江戸時代の農村を、2Fくらいの空中に浮かんで、眺めている。夢の中だと感じた。なぜ江戸時代と言い切れるのか?それは夢の中でそう思ったからであって、論理的理由は無い。

あの田んぼやこの田んぼにて、夏の炎天下、たくさんの農民たちが汗水を流して草刈り等の作業をしている。

暑そうだ。宙に浮かぶ俺もまた、降り注ぐ直射日光が痛いほどだった。

農民たちを眺めていると、驚くことに気が付いた。作業をしている農民たちの中に、俺と同じ顔をしている者がいるのだ。



俺は、俺と同じ顔をしている農民のことが気になって、彼のもとへ舞い降りた。

彼から俺の姿は見えないよう(他の農民も同じく俺が見えていないよう)で、近づいても、俺の方を見てこない。何事も無いように農作業を続ける。

彼は、ギラギラ太陽光を、気力で跳ね返すように、よく働く。その代償のように、額は汗で光り輝いている。

彼を見ていると実に暑苦しくて、俺もまた、汗が噴き出してきた。



それから時間は過ぎた。

あちこちで作業は終了したよう。農民たちは片付けをはじめる。俺と同じ顔をした農民も、きりの良さげなところで作業をやめて、後片付けをして、家へだろう、歩き出す。

俺もまた、彼について行った。

やがて、彼は自身の家(だろう)に入る。俺も付いて入る。



家の中で、「俺」と「俺と同じ顔をした農民」は、二人っきりになった。

彼は、やかんに入った水を一気飲みした。そして、ふうっとため息もついた。

俺も喉を潤したい。冷えたビールなら最高だろう。

だけど、お酒は週一、もしくは今後も禁酒だ。夢の中だが、意思を強く持った。



ビールではなくて、水をいただこうと思い、彼が置いたやかんを手に取って、拝借した。

冷房無しの夏の室内に置いてあった水であり、ぬるい。のど越しはよくない。

それでも、渇きは落ち着いた。

俺は、一息ついた。



やかんを元の位置に置いた瞬間、視線を感じて、ゾクッとした。

恐る恐る顔を上げると、やかんを置いた向かいに立つ、「俺と同じ顔をした農民」と、目が合ったのだ。彼はずっと俺を見えていたのか?

それにしても、彼の表情は複雑だ。

何か大切なことを訴えているようにも見えるが、底理解をされ得ぬと悟っている呆れのようなものも感じる。悲しさも混ざっているように感じる。



耐えられなくなった俺は目を逸らそうとした。

だが、目が動かない。また、身体も全く動かない。

俺は、彼の強い視線に穴の開く程にさらされている。

苦しい…。



その辺りで、目を覚ました。



喉にはやかんのぬるい水の感触が残っていて、気持ちよくない。

さらに、身体はぐっしょり汗をかいている。寝間着のジャージは身体にまとわりついている。

不快だった。

また、ひどくビールを飲みたかった。コンビニに行こうか?いやダメだ。



俺は、キッチンへ行って、蛇口をひねった。調理器具のボールに、1リットル程も水をついで、一気に飲んだ。

飲んで数分。渇きは落ち着いた。

一息ついた。

危ない。お酒に手を出すところだった。



だけど、この夢は、はじまりに過ぎなかった。

不思議な事に、江戸時代の農村の夢、「俺と同じ顔をした農民」の夢を、翌日もさらに翌日も、毎日見るのだ。

日に日に、夢の中のギラギラ太陽、夢から目覚めた後の渇き、「俺と同じ顔をした農民」の悲しそうな表情等は、厳しくなった。

俺は、無意識にも、お酒の無い生活に苦しんでいるのか?



それでも、お酒に手を出さない日々は続いて、一週間経つ。週一くらいはお酒を飲もうと思っていたし、休日前の今日こそはその日だったかもしれない。

今日までの間、夢と渇きは繰り返されている。


ただ、お酒を抜いた日々にも慣れつつある。二日酔いのだるさもない。

一方で、お酒を飲まないからといって、必ずしも身体が調子良いものでもないし、仕事も必ずしもはかどるものではないこともわかってきた。


ただ、とりあえず、今日も飲まないつもりだ。俺は、電気を消して、布団に入った。



やはり、江戸時代の農村の夢を見た。


だが、場所はいつもと違う。田畑ではない。どこかの宴会会場だろうか?

広い畳の部屋で、たくさんの人たちが二列に並んで向かい合って座っている。各々の前に膳が据えられている。


上座に、いつもの夢のごとく「俺と同じ顔をした農民」を見つけた。

ただ、いつもの夢とは違ってひどく年をとっている。白髪頭だし、顔中しわくちゃだし、背筋はぐんにゃりと曲がっている。

どういうことだろうか?


そんな風景を、俺は、宙に浮いて眺めている。



それから、給仕のような役割の女性が数人、とっくりをおぼんに載せて入って来た。

俺はとっくりを見て、うれしくなってしまった。

それともう一つ気になることも。給仕のような役割をしている若い女性の一人に、俺は見覚えあった。

でも、具体的に誰だと思い出せない。う~ん。



各席に酒は運ばれて、リーダーのような青年の音頭で、宴会ははじまった。

「俺と同じ顔をした老人」も嬉しそうであり、酒の注がれた皿に手を伸ばした。

だけど、酒の入った皿を手に持って口に運んでいたその時、うめき出して皿を落とした。そのまま身体は畳に崩れてしまった。

周囲の人たちは慌てて「俺と同じ顔をした老人」に近づいて、呼びかけたり顔をたたいたりした。でも、「俺と同じ顔をした老人」の意識は戻らなかった。



その時、俺は目を覚ました。

目を覚ました俺は、いつもと違って渇きはない。ただ、何となく悲しみを感じた。また、何でだろう?見捨てられた気にもなった。

時計を見ると、朝の4時だ。よくわからないまま、俺は寝なおした。



翌日。

今日は、フリーライターの日だ。在宅で仕事をしていた。


夕方になって母から連絡は有った。97歳の祖母のことでだ。

祖母は、何か座り作業をしていると思ったらその体勢のまま寝ている。会話途中に寝る。食後は、決まって寝ている。


一日の内、何時間はっきりした頭でいるのかわからない祖母だけど、珍しくまとまった時間、はきはきとした口調で真剣に語ったそうだ。



あまりに真剣だったし、俺に関わることだったので、連絡してきたそう。


祖母の語るには以下の通りだ、

「この年になったから言うけど、秀行はあのひいじいさんに似ている、いや、瓜二つの顔をしている。

私がこの家に嫁いだ時、義理のひいじいさんはもう90歳を超えてたな。

毎日毎日酒が飲みたい酒が飲みたいって。貧乏百姓だったから飲めるわけもないのに、うるさい。

だけど年に何度か、村の祭りや結婚式等で酒を飲めた。それだけが楽しみのようにさあ、長生きをして。

村のお金で買ったお酒をバカみたいに飲だせいでな、家の者はみんな肩身狭くてさあ、何かのたびに余分にお金を納めたり、集まりのたびに嫌味を言われたり。

ある日、結婚式があった。長老だったひいじいさんは酒を飲みたくてウズウズしていた。そのせいで気持ちが高ぶったんだろうな、お酒を前にしてさあ飲むぞって、その時に、ぽっくり逝っちゃって。

死んじゃった時にはかわいそうには思ったけど、正直やれやれと思った。

ひいばあさんも、悲しんだけど、葬式の後になってぽろっと言ったんだ、家の恥のようなじいさんよりも長生きできてよかったって。

ここ一週間くらい、なぜかあのひいじいさんの夢を見ている。私に言ってくる、『子孫の酒を飲む姿を見ると安心するのに、わざと飲まない奴もおる。わしにも今生きる若い子孫たちにも会ったあんたの口から言え、酒を毎日飲めることのありがたさを。』なんて。死んでからもよくわからんことを言う」と。

そんなことを言ってから祖母はまた、いつものように寝たそうだ。


電話をしつつ俺は、祖母の顔を思い浮かべた。それで閃いた。

昨日の夢で、給仕のような役割をしていたあの若い女性って、祖母と似ている。



電話を終えて後、以上の話しを、こう解釈した(少々冗談混じりではある)。

夢に現れた俺と同じ顔をしていた農民とは、俺の先祖様。俺の夢を通じて、俺にお酒を飲めと伝えようとした上に、さらに祖母の夢を通じて俺の禁酒をやめさせようとした。

だとすると、俺が酒を飲むことによって、先祖様の供養になるのかもしれない?

明日も休日なので、今晩は飲んでみよう。



後、夕食。

のど越し良いビールや江戸時代から続く古い技法のにごり酒を並べた。

そして、先祖様を思いつつ、飲んだ。

爽快感や幸福感は、広がった。



後、歯を磨いて布団に入った。

ふと目覚めると、朝日がカーテンから差し込んでいた。

久しぶりの、爽やかな目覚めだった。

何の因果関係だろう、江戸時代の農村の夢も見なかった。


以上、「幽霊?江戸時代の或る農村を夢に見る【怪談】」。

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上司の呪い?或る心霊現象【怪談】

「働きたくない」とは?

「働こうという思いが沸かない」か「働かないぞという思いが強い」かで、大きな違い?



これは、仕事に熱心でない男とその男を働かせたい上司の遭遇した、心霊現象の話です。


(分量は文庫本換算5ページ程ですが、以下目次をタップ・クリックでジャンプできるので、しおり代わりにどうぞ。他の怪談怖い話は「本blog全記事の一覧」へ)




第一章:思い出す…数年前のこと|上司の呪い?或る心霊現象【怪談】


俺(米津秀行・29歳)の現在の仕事は、フリーライター(オカルト雑誌&サイト「INBOU」からの依頼)兼予備校講師。

学生時代に憧れていた仕事は、「本業で考古学者をしつつ傍らで太古を題材にする小説家」。今でも、その夢を捨ててはいない。小説賞に、応募もしている。

それでも、今の仕事も、嫌いではない。



ところで俺は今、「INBOU」に、数年前のことを書こうかと迷っている。

数年前、俺は多摩地方の小さな家庭教師事務所に登録して、働いていた。今同様、小説家を目指しつつ。



そこで、心霊と呼ぶべきか、奇怪な出来事に遭遇した。

その時のことを、思い出してみる。




第二章:バイトでの大きなトラブル|上司の呪い?或る心霊現象【怪談】


①所長が行方不明?




当時20代半ばの俺。



家庭教師事務所に登録して、バイト感覚で、講師をしていた。

主に、「公立学校かつ勉強嫌いの生徒」を担当した。

生徒や親御さんからの評判は、それなりによかった。



ただし、所長からの評判は、よくなかった。

大学を卒業している俺は、俺はフルタイムで働けるはず。

そこで、事務仕事や教務(講師管理育成等)を、俺にして欲しかったようだ。さもなくば、難関校受験生徒の担当だ。

小説を書きたい俺は、それを、断っていた。

(所長は、事業拡大も目指していた。なおさら、俺の勤務態度は良くないものと写っただろう。)


また、所長は時折、思い詰めた表情もしていた。



そんな中でのこと。

ちょっとしたトラブルが発生した。



講師の出社日である月曜日のこと。

(所長は、生徒や親御さんに定期的にヒアリングをしており、それを踏まえてミーティングをする。)

多摩地方の街はずれに有る古いビルの2F、俺は、挨拶の声を張り上げたが、返事はなくて、シーンと静まっていた。

入室してみる。

居るはずの所長も、誰も居ない。


コンビニにでも出かけたのだろうかと、俺は立って待った。



そのまま、ミーティング時刻になった。

でも、所長は来ない。

所長のスマホに連絡するものの、出てくれない。



しばらく様子見と思い、俺は、所長のデスクに座った。

小説案を頭に描いていたが、ふとうたた寝してしまった。

数分のうたたねの夢に、所長が出てきた。

俺を、冷ややかに、でも切迫した表情で見てくる。



はっと目を覚ました俺。

夢に出た所長の表情を、覚めてからも、忘れられなかった。

時計を見ると、ミーティング予定時刻から30分も過ぎた。



それから、玄関が開いた。大学生の出社だ。俺の後にミーティング予定なのだろう。

(普段、大学生と接することはない。でも、所長との雑談で大学生5人が登録をしていること、出社時等に大学生らしき男女を5人見ていること等、本家庭教師事務所の全大学生の顔を、知っている。)

俺と出社してきた大学生は、挨拶をしたり所長の行方は?等自然と会話は成立した。

そうこうしている内に、違う大学生も出社してきた。

この大学生は、ミーティング後すぐ担当家庭に向かわないといけないそう。

その大学生は所長のスマホに電話をかけるものの、やはり、出てくれない。



俺は、年長であること、大学生は俺を正社員講師と勘違いしているようだったこと等から、少しリーダーっぽく、「前回の授業で問題が無かったのなら、前回の続きでも良いのでは?」なんて指示みたいなことをした。

大学生は、「そうします」と言って、事務所を出ていった。



このリーダーっぽい振る舞いをしたことで、後々面倒になるのだった。


②増える仕事


その日はその後も、俺がリーダーっぽい役割を担った。

事務所に残って、出社してくる大学生に対して、所長が行方不明であることを伝えたり、前回授業の様子をもとに今回の授業の指示を出したり。

(俺にも授業が有って、担当家庭に向かわなければならなかったため、所長デスクに有った予定表や大学生の連絡先を用いて連絡もした。)



所長のことも、俺に任された感じだった。(というより、俺が引き受けないと、格好良くないような状況になってしまった。)

一時間に一度くらい、所長のスマホにかける。でも、出てくれない。所長は既婚者だけど、スマホと本事務所固定電話以外の連絡先は、知らない。

警察に連絡すべきなのか?それ程の事態に陥っていれば、奥さんから連絡しているはずだろう。事を荒立ててはいけない?だけど、奥さんともども異常事態に巻き込まれていたら?最近の所長は思い悩んだ表情もしていたが、それと関わりは有る?

結局、警察への連絡は止めにした。



翌日、俺は担当家庭に出向く前に、事務所を訪れてみた。相変わらず、所長は来ていない。

昨日同様、本日仕事の入っている大学生に、授業指示の電話をした。

また、その電話で、所長の最近の様子について気になったことはないか聞いた。

思い悩んでいたみたいと述べる大学生は多い。「自分には、この事務所を大きくできない。生徒一人辞めるだけでびくびくする」と、悲観的なことを言っていたという大学生も。

それと、警察へ連絡するタイミングについても話し合った。来週月曜日まで、様子見にすることで納得した。



その翌日。

大学生から俺のスマホに、授業指示をあおぐ連絡が入った。

その翌日。

大学生から、友人と授業を受けたいと言う生徒割安プランはないか尋ねられた。

俺はだんだん、リーダーのような役割は重苦しくなった。



そして、もう一つ。

所長が行方不明になってから、毎日所長の夢を見ていた。


第三章:どこかで見ていたのか?所長が夢で言う|上司の呪い?或る心霊現象【怪談】


①昼間どこかで見ていたのか?夢の中の所長


その日の夢。

所長が夢に現れて、昼間の俺の働きを見ていたように言った、「そうだ、そんな風に指示を出せ。君は今日から、教務リーダーだ」と言った。

夢の中で俺は、プレッシャーを感じた。

目を覚ますと、汗びっしょり。

所長が行方不明になった夜から、こんな調子だ。所長に呪われているような気分だ。



所長と連絡がつかなくなって、4日目。

この日も、俺は事務所に出社。

所長は、相変わらず出社せず、また電話にも出てくれない。



俺は所長のデスクに座って、各家庭の名簿を眺めた。そして、頭を抱える。

今日は木曜日。

本家庭教師事務所は、週一でヒアリングをする。まさか、俺が各家庭に電話なり出向くなりするのか?



その晩の夢。

やはり所長が出てきた。そして俺に言った、「そうだ、お前がヒヤリングをするんだ」なんて言う。

「嫌だ!」。俺はそう思いながら目を覚ます。汗びっしょりだ。



翌金曜日。

今日も事務所に出社した。やはり所長はいない。

大学生には、ヒアリングのことを聞かれたら、「金曜日~日曜日に行う」と伝えるよう指示している。今のところ、不服は出ていない。

まだ土日が残っている。



その晩の夢。

やはり所長が出てきた。そして俺に言う、「ヒアリングしろ!それを書類にまとめて、大学生と作戦会議しろ」と。


②そうはさせない!夢の中の俺


夢の中で言われた俺は、夢の中で開き直った。

悩みやプレッシャーを吹き飛ばすように、言い放ってやった、「無駄なことだ!ヒアリングはしない!教務主任もやらない!仕事を増やすんじゃない!」と。



言った瞬間、夢の中で、スッキリした。

夢の中の所長は、驚いていた。それ以上、何も言わなかった。

目が覚めた。

いつも感じていたプレッシャー等は、無い。


第四章:夢と現実の奇妙な一致|上司の呪い?或る心霊現象【怪談】


さて、本日土曜日。

俺は、事務所をのぞいて見た。

所長がいないのなら、俺がヒヤリングしないといけない。



緊張しつつ、事務所の扉を開けた。

そこには、少しやつれた所長がいた。

俺は、一安心した。



俺の身の安心の次に、所長のことが気になり出す。それに、出社拒否していた所長を、どう出迎えればよいのか?

所長も、出社拒否した自分自身、講師たちとどう接すればよいのか、分からないのだろう、互いによそよそしい。

適当に、挨拶、「体調は大丈夫ですか」「連絡つかなくて申し訳ない」等述べ合った。

また、各家庭には金曜日~日曜日にヒアリングすると言っていることも、伝えた。

その後、所長は、各家庭へヒアリングをしていた。



その日から何日も経った。

所長は、時折悩みの表情を浮かべることも有るが、以前の通り、働いた。また、大学生と所長は、以前の通りに話すようになった。

だけど所長は、俺に対しては、よそよそしいまま。また、事務だ教務だ新たな仕事は、要求してこなくなった。

俺は、所長とぎこちない関係を除けば、問題無く働いた。

気になったことと言えば、所長の出てくる夢を、見続けていたこと。



ただし、追い詰められるような夢ではない。

俺は以前、夢の中で、所長に対して自己主張したわけだが、それは心地よかったのか、似た夢を見続けた。

夢の中で所長に対して、「新しい仕事はしません」「教務主任はしません」「仕事を増やすな!」と断固言いまくった。

事務所内の時、路上の時、所長が布団で寝ている時。さまざまだ。



それから、一ヶ月くらい過ぎた。

俺は、給料の良い予備校の、講師採用試験に合格した。

本家庭教師事務所の登録を、解除することにして、所長に申し出た。

引き止められるかと思ったが、あっさり応じてくれた。

同時に、所長は俺に言ったのだ、「これで俺を解放してくれるよな?」と。

「何のことですか?」と俺が尋ねると、所長は言った、

「見るんだ、毎日のように、君を夢に。

君は私に、『新しい仕事はしない』『教務主任はやらない』と言いつつ追いかけてくる。

この事務所で、路上で、さらには私のマンションにまで。私が逃げても逃げても、君は追いかけて私に言う。

夢の中で追い詰められた気持ちになった。目を覚ますと汗びっしょりだ。

そんな夢を、わたしの長い休みの最終日から、ずっと見ている。ずっとだ…」




以上、思い出してみた。

あれって、心霊現象の一つだったのかな?

まあ、恥ずかしくもあるので、「INBOU」には書かないでおこう。


以上、「上司の呪い?或る心霊現象【怪談】」。

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